"昭和28年、妻が消える炭鉱町" 第6話
俺は末に控除額だけ渡される」
「何で確認せんかったんですか」
森は苦い顔をした。
「会社の会計がす数字を、購買所のが疑うか」
そこに、この仕組みのさがあった。
誰も全体を見ていない。
夫は佐伯を信じる。
購買所は会計を信じる。
選炭の女たちは組の細を見る。
帳簿同士を並べる者がいない。
だから違う数字が何も同にできる。
「、この控え、見せてもらえませんか」
「持ちすのは無理や」
「写します」
「澄子」
「節子さんを帰したいんです」
森はい黙っていた。
そして閉、裏の鍵をつだけけたまま帰った。
「俺は何も見とらん」
それが返事だった。
その夜、澄子は複写といを使い、必な伝票を枚ずつ写した。
母。
田辺。
松永。
川崎。
兄。
そして気づいた。
今だけではない。
昭。
。
。
同じ族名が何度もてくる。
度借を完済したはずのに、翌また《旧残繰越》が現れていた。
帳簿の違いではない。
誰かが図に、終わった借を終わらせていない。
田辺キヨと会えたのは、そのだった。
澄子は夕方の列で原へき、駅の茶で待った。節子が伝言してくれたらしく、が落ちる頃、キヨが巾をして入ってきた。
かより痩せていた。
「佐伯さんに会っとったでしょう」
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澄子が言うと、キヨは驚かなかった。
「見られたんやね」
「何ば渡されとったんですか」
「これ」
キヨは懐からさな封筒をした。
には百円札が枚。
「に渡す分」
「キヨさんの料は?」
「に千円ちょっと働いたことになっとる」
「なのにへ百円?」
「借返しよるからって」
「残りはいくら」
キヨは笑った。
力のない笑いだった。
「先聞いたら千百円」
「最初はいくら」
「千円」
澄子は言葉を失った。
キヨは夫の栄吉と相談し、自分から働きにた。かで返せると言われた。
ところがか目、残が増えた。
宿代。
紹介数料。
作業着。
寝具貸付。
鹸。
医務費。
さらに「族送」という名目まで引かれている。
「に百円送るために、帳面では百円借りたことになっとる」
「何で」
「数料だって」
「百円も?」
「分からん」
キヨはしばらく黙った。
「帰ろうとしたもおる」
「帰れたんですか」
「だけ」
その女は借を残したまま逃げるように戻った。
翌週、夫が坑の雑役へ回された。
社宅の更も難しいと言われ、結局族ごと町をた。
「みんな、それを見とる」
だから帰らない。
帰れない。
自分が耐えれば、夫の仕事と子どものは残る。
「節子さんも?」
「節ちゃんはちょっと違う」
キヨの元に、ほんのし笑みが戻った。
「あの、っとる」
「っとる?」
「初めて残見たに、これは計算がわんって組のにってかかった」
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澄子は節子らしいとった。
「それから毎晩、の女の細も見せてもらって計算しよる」
「危なくないですか」
「危ないよ」
キヨの顔から笑みが消えた。
「昨、節ちゃんの荷物を誰かが調べた」
澄子の胸が詰まった。
「何か取られた?」
「さい帳面」
節子は引かれた額を毎記録していた。
それがなくなった。
相も、女たちが数字を比べ始めたことに気づいている。
「澄ちゃん、急いだ方がいい」
キヨは言った。
「節ちゃんだけやない。来の料のあと、あと来るって聞いた」
仕組みはまだ続く。
止めなければ次の妻が消える。
澄子はその晩、茂へ全部話した。
つの残。
母の完済証。
購買所の旧伝票。
キヨの話。
節子の帳面がなくなったこと。
茂は最まで黙って聞いていた。
「節子を連れ戻す」
やがてちがった。
「今からく」
「待って」
「待てるか」
「連れ戻すだけじゃ終わらん」
「まず女やろ!」
「連れ戻したら兄ちゃんの仕事は? 社宅は?」
茂のきが止まった。
番痛いところだった。
「だからって置いておけん」
「私もそうう。でも節子さんが調べたものまで無駄になる」
茂は畳へ座り直した。
「じゃあどうする」
その問いを聞き、澄子は初めて兄が「会社の言う通り」以の答えを求めているとじた。
「組に話す」
茂の顔が張った。
炭鉱には坑員組がある。賃や全問題では会社と交渉するが、族貸付の細かな問題まで扱っているかは分からない。
「佐伯にれたら終わるぞ」