"一着の学生服を分けた双子" 10
浦と再会したの夕方、信夫と昭夫は久しぶりにそろって実へ戻った。川町の駅から歩くは、とほとんど変わっていなかったが、川沿いの借が並んでいた角にはしいも増え、かつて阿久津材へ向かう荷がき交ったには、型のトラックがるようになっていた。
の古い借は、まだ残っていた。
玄関脇に積まれていた薪はなくなり、代わりにさな物置が置かれている。澄は以よりし髪が増えていたが、を見ると昔と同じように「を洗ってからがりなさい」と言った。
「もうだぞ」
信夫が笑う。
「でも汚れたは汚れたです」
「昭夫の方が油だらけだよ」
「兄ちゃんだって鉄くさいじゃん」
が言いうと、澄は呆れたように笑った。
正はまだ仕事から戻っていなかった。
別の製材所へ移ってから、以より帰宅は定している。料がきく増えたわけではないものの、借の返済が終わったことで、計にはし余裕ができていた。
夕までがあったため、昭夫が押し入れをけた。
「母ちゃん、あの学まだあるんだろ」
澄のが止まった。
「あるわよ」
「本当に?」
「嘘ついてどうするの」
押し入れの番。
古い呂敷包みがてきた。
紐をほどくと、黒い学が着入っている。
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着は、学から譲ってもらったもの。
もう着。
袖がく擦れ、第ボタンの縁が欠け、胸ポケットのに黒糸の縫い跡がある。
が交代で着ていた学だった。
「うわ」
昭夫が声をげた。
「ちっさ」
「おがでかくなったんだよ」
信夫が持ちげる。
肩幅がまるで違う。
には、それ着しかなかった。
朝になると、学を着た方が学へき、作業着を着た方が材へ向かった。夕方に帰れば制を脱ぎ、次のに学へく兄弟へ渡した。
何度も着た。
何度も洗った。
には乾かず、鉢のくへ吊るしたこともある。
「母ちゃん」
昭夫が聞いた。
「何で取っといたの?」
澄はし考えた。
「捨てられなかったから」
「記?」
「そんな派なものじゃないわよ」
澄は古い制を膝へ置いた。
「最初はね、見るのも嫌だったの」
が母を見る。
「がおきにこれを着てていくでしょう。そのたびに、自分が母親としてちゃんとできてないって言われてる気がした」
信夫の表が変わった。
「そんなこと」
「そうってたのよ」
澄は袖の擦れを撫でた。
「しい学着すら買えない。定期券も枚用できない。学へかせることまで半分にしてる。毎朝このを見るたび、けなかった」
信夫も昭夫も、何も言わなかった。
子供だった当、
母親が何をっていたかなど考えたことはなかった。
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制を着しか買えないのは仕方ない。
だから交代で着る。
にとっては、ただそれだけだった。
「じゃあ何で捨てなかったの」
昭夫がもう度聞いた。
澄はし笑った。
「卒業してから、が変わったから」
「?」
「これを見ると、あの頃をいすでしょう。でも今は、貧しくて着しかなかったことより、が最まで学へ通えたことをいすの」
澄は着の学を並べた。
「途から着になったでしょう」
信夫は頷く。
「たった着増えただけなのに、毎朝が緒にをるようになった」
母親にとっては、
それが何より嬉しかったという。
それまで朝になると、
今はどちらが学か、
どちらが仕事か、
が確認していた。
着になったから、
その相談がなくなった。
朝をべ、
とも学を着て、
とも定期券を持って、
同じ列へ乗る。
「普通のことだったのにね」
澄は言った。
「その普通のことが、あの頃は嬉しくて仕方なかった」
信夫は制を見ろした。
当は、
しくもない古の制を渡された、
し恥ずかしいとった。
袖はかった。
も自分たちの制とはわずかに違った。
けれど今えば、
あの着がの活をきく変えた。