"「飯抜き」と言われたので、夫との生活を全部やめました" 第3話
という責任など爪の垢ほどもしていないのだ。
がけた。
え切った正が吹き抜ける、綾野はい取りで郊にある裕介の実の敷居を跨いだ。末から裕介が「親父たちと同居のスケジュールを詰めるからな」としつこく迫ってきており、義実きを拒否すれば何をされるか分からなかったため、やむを得ず同したのだ。
古い造の義実の居には、派な座卓が据えられ、豪勢なおせち料理の箱が広げられていた。
「おお、綾野さん、よく来てくれたね。まあ座りなさい」
義父の修造(しゅうぞう)が、すでに本酒で赤くなった顔を綻ばせて迎えた。歳とはえない血の良さで、声の張りも分だ。台所からは、義母の登紀子(ときこ)がお屠蘇の徳利を運んできた。
「綾野さん、仕事が忙しいのは結構だけど、奥さんがでバリバリ働きすぎると男のメンツがたないわよ。裕介も今、将来のためにきな勉をしている最なんだから」
登紀子は座るなり、無職の息子を全肯定する言葉を並べてた。裕介が会社を辞めた理由を、義両親には「よりみを目指すためのステップアップ休職」と説してあるらしく、無収入で妻のヒモ状態になっていることなどらずの様子だった。
事が盤に差し掛かった頃、修造が改まったように背筋を伸ばし、咳払いをつした。
広告
「に、綾野さん。裕介から話は聞いているとうがね」
綾野の胃の腑が、ギュッと縮みがった。
「私たちはもう先がい。腰も々くなってきとる。そこでだ、今の広いこのを世帯に直しして、君たち夫婦に同居してもらいたいんだ。そして、綾野さんには仕事を辞めてに入ってもらい、わしのこれからの面倒を全面に見てもらいたい」
修造の言葉に、綾野は作り笑顔を張り付かせたまま、できる限り柔らかい調で返答した。
「お義父さん、お気持ちは分かりますが……お義父さんはまだお若いですし、腰もしっかりされていますよね。先の健診でも特に異常はなかったとお聞きしましたし、私が仕事を辞めてまで介護に入るような段階では決してないといます」
するとその瞬、修造の表が目に見えて張った。次の刹、修造はわざとらしくの膝をで押さえ、顔を歪めて座卓のに突っ伏したのだ。
「い、たたたたた……! ああ、痛む! 最、急に膝に激痛がるようになってな、歩くのもやっとの様なんだ! これでもわしが健康に見えるというのかね!」
あまりに拙劣な文芝居だった。先ほどまで玄関から居まで股で歩き、ビール瓶のケースを軽々と運んでいた男が、都が悪くなった途端に病を装っている。
登紀子もしおらしい声を作り、ハンカチを目元に当てて追従した。
広告
「そうなのよ、綾野さん。私たちもいつ倒れるか分からないを抱えて暮らしているの。男の嫁であるあなたがそばにいて介護の準備をしてくれないと、して老を送ることもできないわ。裕介とれて暮らすのも寂しいしねえ」
「ほら見ろ、綾野」
横から裕介が、待ってましたとばかりに鬼の首を取ったような顔でを挟んできた。
「親父もお袋も、こんなに俺たちを頼りにしてるんだぞ。おのが儘でこの話を断るなんて、のにれてるとわないのか?」
裕介は座卓のの急須を見やり、綾野に向かって顎をしゃくった。
「おい、親父とお袋の湯呑みが空になってるぞ。気が利かないな、くお代わりを淹れてこいよ」
実に帰ってきた途端、裕介は親ので「威厳ある」を演じようと、綾野に対して尊な命令調を連発する。義両親は、息子が嫁を顎で使っている姿を見て、満げに目を細めて頷いていた。このでは、女は男に従属し、自己犠牲を払って尽くすのが当然という、歪んだ父制が空気のように支配しているのだ。
綾野は奥歯を噛み締めながらちがり、台所でしいお茶を淹れた。湯気をてる湯呑みを修造と登紀子のに静かに置く。
その綾野のめた態度が、裕介のくだらないプライドを傷つけたらしい。
裕介はちがり、居に響き渡る声で言い放ったのだ。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 413 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 608 -
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2732 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 204 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695