"浄水器の異物から、夫の秘密が暴かれた" 第1話
朝番に喉を焼くような渇きを覚え、私はベッドから起きがった。の裏がフローリングに着いた瞬、の奥で鉄の杭を打ち込まれるような鈍痛がり、わず壁にをついてそのにしゃがみ込む。
「美央、丈夫か? また痛かい?」
寝のドアがき、勤のスーツ姿の公平が配そうに駆け寄ってきた。結婚してになる夫は、私の肩を優しく抱き起こし、ゆっくりとベッドへ戻してくれる。そのつきはどこまでも丁寧で、私の顔を気遣う差しには片の曇りもなかった。
「ごめんね、公平……。朝からちくらみがひどくて。今、事な会議があるのに」
「馬鹿だな、仕事のことなんて気にしなくていいよ。もうヶもこの状態が続いてるんだ。無理して会社へく必なんてない。いっそのこと、退職してでゆっくり療養したらどうだ? 俺の料だけで暮らしていけないわけじゃないんだから」
公平はキッチンへ向かい、やがて湯気のつマグカップを運んできてくれた。には彼が丁寧に淹れてくれた温かい湯が入っている。私は両でカップを包み、喉へと流し込んだ。胃の腑へが落ちていく覚にしだけ堵したが、痛の芯はびくともしなかった。
私の体調に異変が現れ始めたのは、今からヶのことだった。
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朝起きるとを万力で締めげられるような痛みに襲われ、昼には胃の奥から酸っぱい吐き気が込みげてくる。病院の内科や脳神経科を回り、MRIや血液検査をねても、される診断はいつも「自律神経の乱れ」か「因性ストレス」のどちらかだった。
保険会社の管理部で管理職を務める私の仕事を、公平はいつも「負担がきすぎる」と配してくれていた。義母の悦子も、見いに訪れるたびに私のを握り、「女のは体がったら、を張らずに夫に甘えるのが番なのよ」と慈に満ちた声で諭してくれた。
けれど、私にはどうしても仕事を辞められない理由があった。
、最の父が急逝した。父は私に、幼い頃のいが詰まったこの実の戸建てと、駅にあるさな階建ての賃貸ビルを残してくれた。父が代で築き、借を完済して私に託してくれた切な財産だった。
「美央、あのビルの管理、俺が引き受けようか? 産会社の営業をやってる俺なら、もっと効率よく運用できる。あれを担保にしてしい物件を買い増せば、労所得で美央を養ってあげられるんだ」
から、公平はそうした提案を頻繁に持ちかけるようになっていた。だが、父は、「あのビルは放すな、危ない投資の担保にするな」
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と私に遺言のように言い遺していた。私がリスクのさを理由に断ると、公平は「夫婦なのに俺の腕が信用できないのか」と嫌になり、悦子もまた「夫婦で別々の財産なんて寂しいわね」と私を責めるように呟いた。
そんな来事があって以来、私はどこかでに申し訳なさをじていた。だからこそ、公平が注いでくれる湯の温もりや、甲斐甲斐しく事を代してくれる姿に、からの謝と罪悪を抱き続けていたのだ。
自分の体が壊れていくのは、父の遺産を頑なに抱え込み、夫を信用しきれない自分のの狭さに対する罰なのではないか。そう本気でい詰めるほど、私の精神はヶのにすり減っていた。
に入ったある曜の午、私は自宅のキッチンで呆然とち尽くしていた。
蛇の根元に設置された浄器の液晶パネルが、気な赤いを点滅させていたからだ。『カートリッジ交換』の文字が警告音とともに点滅している。
「……おかしいわね」
私は独り言を呟き、シンクの収納扉をけて備忘録のシールを確認した。正規メーカーの担当者が回の交換作業をったのは、わずか半のだ。この種の活性炭フィルターはリットル使用しても丸は持つ設計になっている。
いくら私が自宅で療養し、分をめに摂っているとはいえ、半で寿命を迎えるはずがなかった。
夜、帰宅した公平にそのことを伝えると、彼はカバンをソファに放りしながら、あっけらかんとした顔で笑った。
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