"風呂を禁じた義母と、家を出た嫁の反撃" 第5話
内鍵をカチャリと回す。 で松恵がドアノブをガチャガチャと激しく揺らし、ドンドンと拳で叩く音が響いた。
「けなさいよ! 親に向かってなんて態度なの! 気なを利くんじゃないわよ!」
由は呼吸をつ置くと、ベッドのから用の型スーツケースを引きずりした。 迷いは、欠片もなかった。
通帳、印鑑、保険証、マイナンバーカード。 パスポート、与細、そして編集部の密データが入った仕事用のノートパソコンと充器。 数分の着替えと着をく詰め、洗面用具と化粧ポーチを放り込む。 作業はわずか分で完した。
暮らしてきたこの。正斗と笑いい、ささやかな幸せを育んできたリビング。 未練が胸をかすめなかったと言えば嘘になる。 だが、今のこのは、毒親の支配と、現実逃避を続ける夫の共依によって腐敗した、ただの沼でしかなかった。 ここに留まり続ければ、自分自の魂まで腐り落ちてしまう。
スーツケースのジッパーを引き締め、由はデスクのから箋とペンを取った。 正斗へ残す言葉は、何つ浮かばなかった。 彼が自分ので扉をけない限り、どんな言葉を遺しても無だったからだ。
由が向かったのは、廊の突き当たり――甥の琢磨が眠る部だった。 ドアをノックすることはせず、由はさく折りたたんだ封筒を、ドアの隙からそっとへと滑り込ませた。
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には、由の携帯話の番号と、これから向かう所の所、そして数枚の千円札。 『何か困ったことがあったら、いつでも話してね。由さんより』
静まり返ったの。 由は音もなく玄関へ向かい、スニーカーの紐を結んだ。 松恵はすでに自分の部へ戻り、嫌そうにテレビの音をきく鳴らしていた。 カギをけ、の夜気のに歩を踏みす。
初の夜が、照った由の頬をよくやしていった。 自由の匂いがした。 由はの軽自のトランクにスーツケースを放り込むと、アクセルを踏み込み、夜のバイパスへと滑りした。
をらせること約分。 都の喧騒からしれた、緑豊かな級宅の角に建つ、瀟洒なデザイナーズマンションのにを滑り込ませた。
向かった先は、由の実兄・田啓介(ちだ・けいすけ・歳)の自宅だった。
啓介は、芸能プロダクションでチーフマネージャーを務める業界の古者だった。 振り振りが異常にきく、常にテンションがく、妹の由から見れば「鬱陶しいほど騒がしい兄」だったが、その観察の鋭さとのさは折り付きで、芸能界の千千のタレントたちから絶な信頼を寄せられている男だった。
事に預かっていた鍵でオートロックを抜け、階の角部のドアをける。
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「……お兄ちゃん、入るよ」
リビングには接照が灯り、よいジャズが流れていたが、本の姿はなかった。 防犯のためにタイマー設定された照。夜の現ち会いやタレントの送迎で、帰宅が未になるのは常茶飯事の男だ。
由は誰の邪魔も入らない清潔なバスルームへ向かい、いシャワーをから浴びた。 毛穴の奥まで染み込んでいた義母の暴言と、庭の苦しい空気が、湯気と共に洗い流されていく。 湯がりに客のふかふかのベッドへ潜り込むと、張り詰めていた神経が気に弛緩し、由はのような眠りへと落ちていった。
翌朝、午。 ばしいバターと甘いメープルシロップの匂いで、由は目を覚ました。
リビングへると、そこにはピンクのらしいエプロンをにつけた啓介が、フライパンを巧みに操りながらパンケーキを焼いていた。そのエプロンは、由が学のに庭科の授業で作ってプレゼントした、褪せた骨董品だった。
「おはよう、麗しの妹よ! がへようこそ!」 げさに両腕を広げる啓介。
「……おはよう、お兄ちゃん。勝にがり込んでごめん」
「何を臭いことを! 真夜にトランクつで転がり込んできた妹に、理由を問い詰めるほど野暮な兄貴に見えるかい? ほら、焼きてだ。
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