"「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転" 第4話
本当に助かったわ」
「かな子さん、無理しないでね。私、いつでも方だから」
退勤、かな子はスーパーの制から私に着替え、そのまま役所へと向かった。戸籍課の窓で枚の用を受け取る。
『婚届』
緑の枠線が印刷されたをバッグに滑り込ませた、かつてないほどが澄み渡っていくのをじていた。
だが、かな子の元には、まだ決定な「武器」がりなかった。婚を突きつけたところで、誠は「のないおがどうやってきていくんだ」と嘲笑し、活の困窮を理由に自分を支配し続けるに違いない。
アパートの契約、当面の活費、弁護士費用。すべてを賄うだけの資が、今の自分にはない。
自宅のリビングに戻り、テーブルのに置いた婚届を見つめながら、かな子はい溜息をついた。
その、静まり返ったリビングに、スマートフォンの子音がけたたましく鳴り響いた。
ディスプレイに表示された名を見て、かな子は目を丸くした。
『父』
に度、正の挨拶程度しか連絡を取りわない厳格な父からの着信だった。
胸騒ぎを覚えながら、かな子は通話ボタンをスライドさせた。
「もしもし、お父さん? どうしたの、急に」
『おお、かな子か。息災にしておるか』
受話器の向こうから聞こえてきたのは、昔と変わらないで落ち着いた父・信郎の声だった。
広告
背からは、母が茶を入れる微かな急須の音が混ざりっている。
信郎はかつて、作械の部品を製造する精密器メーカーを代で築きげた技術者であり、数に会社を証プライムのグループへと数億円でバイアウトした経歴を持つ物だった。しかし、引退は郊の古びた本で庭菜園を楽しみ、贅沢とは無縁の質素な隠居活を送っていたため、かな子自も実の正確な資産規模などる由もなかった。
『実はな、おに事な話があって話したんだ。母さんともずっと話しっていたんだが……私たちももうを半ばを過ぎた。いつ何があってもおかしくない齢だ』
「お父さん、縁起でもないこと言わないでよ」
『いや、終活というやつだ。元気なうちに、辺の理と財産の承継をきっちり済ませておきたいとってな。先週、顧問税理士と信託の担当者を呼んで、贈与の続きをすべてえた』
淡々とした父の調に、かな子は首を傾げた。
「贈与……?」
『ああ。おには昔から苦労をかけてきたし、誠君との結婚活のしにでもなればとってな。株式の譲渡益と、産の信託受益権、それから定期預座の解約分だ。贈与税の特例控除の続きも完し、すでにかな子名義のプライベートバンク座への移管準備がっておる』
父は鏡を直すようなを置き、帳簿をめくる微かな音をてた。
広告
『額だがな。計算を精査してもらったところ、最終な評価額で億千万円になった』
「……は?」
かな子ののが真っになった。
呼吸が止まり、の奥でキーンという属音が鳴り響く。
「じゅう……億……? お父さん、何言ってるの? 桁を桁、いや桁違えてない?」
『違えるわけがなかろう。数、会社の内部留保と事業売却益を信託で堅く運用してきた資だ。これでおが涯、何自由なく暮らせるだけのろ盾はできた。来週にでも度実へ戻って、類に実印を押してくれ』
億円。
それは、収数万円のパート代をやりくりし、夫から「穀潰し」と罵られ、スーパーの見切り品シールを必に探していた自分の常とは、あまりにもかけれた異次元の数字だった。
だが、激しい揺の波が引いた、かな子の脳裏にある徹な計算が閃いた。
——今、この瞬に財産を受け取ってしまえばどうなるか。
婚姻期に得た資産は、特財産として保護される余があるとはいえ、法な識に乏しい誠が嗅ぎつければ、「夫である俺にも半分受け取る権利がある」「隠し財産を持ちやがって」と執拗に請り、沼の財産分与争いに発展することはを見るよりらかだった。
それ以に、あの男にこの莫な資産のを悟られること自体が、耐え難い屈辱だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第32話
不妊を理由に別れた元妻が、機内で双子を抱いていた
5年前、妻・小百合に「ほぼ不妊」という診断が下された瞬間、俺は後継ぎを求める父の言葉に従い、彼女へ離婚届を突きつけた。あの選択は正しかった――そう信じて生きてきた俺の前に、ファーストクラスで小百合と、自分に瓜二つの幼い双子が現れる。 真相を追ううち、俺は恐ろしい事実に辿り着く。不妊診断そのものが偽りであり、小百合は両親まで脅され、何も言えないまま俺の前から消えていた。そして、その全てを裏で仕組んだのは、俺が誰より尊敬してきた父だった。 さらに、本当に問題を抱えていたのは小百合ではなく俺自身で、双子は離婚直前に宿った俺の子供だと判明する。 妻を捨て、子供たちの5年間まで奪ってしまった俺は、もう父の作った「正しい人生」に従うつもりはない。失った家族と向き合い、父が守り続けてきた巨大な権力と秘密に、自分の手で決着をつけると決めた――。夫婦|熟年離婚4.9万字5 4173 -
完結第10話
妹が断った牡蠣漁師は、港の社長だった
「貧乏な漁師なんて絶対に嫌」――妹・美咲が鼻で笑って断った縁談を、35歳の私・香織が代わりに受けることになった。幼い頃から何でも妹を優先され、「我慢できる姉」として生きてきた私にとって、それは初めて自分で選んだ人生だった。 相手の総一郎は、古い家と軽トラックで暮らす不器用な牡蠣漁師。ところが島では誰もが彼に頭を下げ、格式高い老舗料亭まで最上級の敬意を払う。やがて大嵐で加工場が壊れ、会社が存続の危機に陥る中、私は書店員時代に培った「名前と物語を届ける力」で直売所を立ち上げる。そんな矢先、総一郎の本当の立場を知った母と美咲が現れ、「その縁談は本来、美咲のものだった」と言い出す。そして料亭に掛けられた、値段も生産者名もない古い「牡蠣」の木札が、夫にも知らされていなかった過去へとつながっていく――。夫婦|修羅場1.4万字5 424 -
完結第13話
十年の沈黙と離婚届
明治から続く旧家・宗方家に嫁ぎ、十年間「無能な嫁」と蔑まれながら耐え忍んできた白木咲子。義父からは冷え切った古米を押し付けられ、義母や義姉からは下女のように扱われ、夫の孝幸は浮気を重ねては嘲笑を浮かべる日々。ある激しい雷雨の夜、孝幸は朱肉の鮮やかな『離婚届』を卓上に放り出し、「子供も産めぬ役立たずは今日限りで出て行け」と冷酷に追放を宣告する。 だが、咲子の指先は一片も震えていなかった。彼女が着物の帯の間へ静かに滑り込ませたその紙切れこそ、十年間待ち続けた反撃の「合図」だったのだ。 宗方一族四十二人が寄生し、高給を貪る企業群。その頂点に君臨する巨大財閥「白木グループ」の真の支配者は誰なのか――。翌朝、受話器から呼び出された直通秘書ライン。すべてを奪ったと信じ込む傲慢な一族に、音もなく下される苛烈な審判とは。夫婦|修羅場1.9万字5 894 -
完結第31話
母の還暦祝いで家を奪おうとした夫
「あのマンションは、誕生日会さえ終われば俺たちのものになる」――夫を驚かせようとオフィスのキャビネットに隠れた私・ゆかは、愛していたレオの電話を聞いて凍りつく。亡き父が残し、母が守り抜いたマンションを、還暦祝いの場で親戚ごと丸め込み、私に同意させて奪うつもりだったのだ。 しかも電話の相手は、最近の不審な行動の先にいた女・まゆ。五年間信じた“優しい夫”の正体は、私の情と世間体まで計算する男だった。私は泣いて問い詰める代わりに、会話を録音し、権利書を守り、わざと資産整理の資料を餌として置く。そして彼自身が用意した母の誕生日会に、同僚や取引先まで招き入れる。私を逃げられない舞台へ上げるつもりの夫はまだ知らない。その日、追い詰められる側が誰なのかを――。夫婦4.7万字5 1107 -
完結第11話
夫の毒膳と孫の告発〜元科捜研妻の科学鑑定〜
元科学捜査研究所の分析官だった岩田礼子(五十八歳)は、交通事故で息子夫婦を失い、遺された五歳の孫・陽太を夫の国彦と共に引き取って育てていた。 しかし息子の死後、礼子は原因不明の酷い目眩や全身の脱力感に苛まれるようになる。献身的に看病し、料理教室へ通って手料理やサプリメントを振る舞う「理想の夫」国彦。だが、体調は悪化の一途を辿り、ついに出張前日に夫が作り置いた筑前煮を口にした直後、礼子は急性中毒で意識不明に陥ってしまう。 九死に一生を得て帰宅した夕暮れ、テレビのサスペンスドラマで睡眠薬をすり潰す犯人を見た陽太が「おじいちゃんのと同じだ」と無邪気に叫んだ。古巣の科捜研に持ち込んだ筑前煮とサプリメントから検出されたのは、致死量寸前の睡眠薬――優しい夫の仮面の裏に隠された、身の毛もよだつ殺意と陰謀とは。祖父母と孫|夫婦1.6万字5 225 -
完結第19話
完璧な夫に給料を突き返した朝
毎月二十五日、夫は手取り四十五万円の給料を一円も引かずに私の口座へ振り込み、親戚の前で完璧な夫として称賛されている。だがその裏で、私は息子の塾代を払うために結婚五周年の指輪を買取店へ持ち込んでいた。固定費と夫のカード代だけで毎月赤字が続き、私の独身時代の貯金も底をついた。翌朝、いつも通り振り込まれた四十五万円の通知を見つめた私は、その全額をそのまま夫の口座へ送金し、スマートフォンの画面を伏せた。嫁姑|夫婦|金銭問題|修羅場2.9万字5 7719 -
完結第30話
愛人の妊娠を信じた夫と15年前の無精子症診断書
「俺は彼女とやり直したい。だから離婚してくれ」――48歳の夫・健一が土下座して告げた相手は、娘より年下の20歳・美香。しかも妊娠しているという。15年間、夫のわがまま、継娘ナナの冷笑、義母・和子の嫌味に耐え、家族のために尽くしてきた私・ゆみは、泣き叫ぶどころか用意済みの離婚届を差し出した。彼らは知らない。生活費を削って愛人へ送金した記録も、ナナが父の不倫を手伝っていたLINEも、家の売却計画も、私はすべて押さえていた。そして弁護士の調査で、美香がナナの恋人・達也と2年前から同棲する“事実上の妻”だったことまで判明する。新しい家族を手に入れたと浮かれる父娘は、実は同じ若いカップルに二重で騙されていたのだ。親族が集まる古希祝いの日、私は証拠写真をテーブルに置く。だが本当の切り札はまだある。12年前、健一が必死に隠した不妊検査の結果が、愛人の妊娠だけでなく、ナナの出生そのものまで覆そうとしていた――。不倫4.4万字5 415 -
完結第18話
「この子は俺の子じゃない」
二十六時間に及ぶ難産を終え、産室を出た私を待っていたのは双方の両親の涙と祝福だった。だが壁際に立つ夫は一歩も近寄らず、「この子は俺の子じゃない」と冷たく言い放った。色めき立つ義父母から不倫を激しく追及される中、私の口から咄嗟に出たのは無実を叫ぶ声ではなく、「今日だけは言わない約束でしょ」という悲鳴だった。冷え切った目で私を見下ろす夫の手が、私のカーディガンの前立てにかかる。裡切られた|兄弟姉妹|夫婦|修羅場2.7万字5 915 -
完結第15話
五人の元彼と三万一千円
結婚式当日の朝、ホテルのフロントに差出人不明の現金書留が五通届いた。中身はすべて、三万一千四百八十円という奇妙な端数のご祝儀だった。面識のない私の歴代の元彼五人からだと気づき、私は血の気を引かせて金庫への保管を頼み込む。だが、不審に思った夫が私の手提げから抜き取ったのは、三週間前に私がその五人へ同額を送金した明細だった。親族紹介まであと十五分、夫は控え室の鍵を閉め、冷たい目で私を見下ろした。夫婦|裡の顔|金銭問題|修羅場2.2万字5 150 -
完結第24話
妻の手術翌朝、七通の解約通知
妻が胆嚢ポリープの手術で入院した日、私は仕事を優先し「自分で処理しろ」と見舞いを断った。だが翌朝、私の携帯にマンションの駐車場、クレジットカード、父のデイサービスを含む七通の解約通知が立て続けに届く。カードは店頭で弾かれ、ビルのゲート前で立ち往生した私は、妻の報復を確信して病室のドアを乱暴に開けた。点滴に繋がれた妻は、今すぐ元に戻せと詰め寄る私の目の前で、スマートフォンの画面を静かに伏せた。怒り|夫婦|介護|修羅場3.7万字5 163