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"操縦桿が壊れた旅客機を救った町工場の技術者" 第3話

の壁と命の旋回

気象レーダーの画面には、真っ赤な巨なの塊が映しされている。

「じゃあ避けるしかないじゃない。を変えて」

絵里は詰め寄った。

「の姿勢はこの輪で調できます」

佐藤はトリムホイールに触れた。

「でも、やに曲がるための方向舵は、さっきんだ操縦桿にしか繋がっていません」

「まっすぐべても、曲がれないってこと?」

絵里は絶句した。

の壁は刻刻とづいている。

「どうやってこの巨なを曲がらせるの」

絵里は呟いた。

佐藤は自分の分いノートをじっと見つめた。

そして、操縦席の央にあるつのきなレバーにを伸ばした。

「とのエンジンを、別々のさでかします」

佐藤の目が鋭くった。

佐藤のさなが、操縦席の央にあるつの巨なレバーを掴んだ。

のエンジンの力を調するスラストレバーだった。

絵里は息をんだ。

「待って。のエンジンの推力を変えるなんて、危険すぎるわ」

客乗務員として受けてきた全訓練の識が、絵里のので警鐘を鳴らしていた。

のエンジン力の均衡は、体のバランスをきく崩す。

最悪の、きりもみ状態になってへ墜落する。

「にはありません」

佐藤は静な声で言い放った。

目のの気象レーダーには、巨な赤いの塊が迫っている。

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への突入まで、あと分しかない。

「のエンジン力をげ、の力をげます」

佐藤はレバーを握り直した。

「側の推力がくなれば、首は自然とを向く。漕ぎボートのオールと同じ原理です」

「この巨なでそれをやるの?」

「やります」

佐藤はためらわずに、側のレバーを奥へ押し込み、側のレバーをへ引いた。

ゴォォォッ。

側の翼から、普段は聞かないようなエンジンの爆音が響いた。

体全体が気に振し始める。

がきしみ、見えない巨なで横方向へ引っ張られるような覚が絵里を襲った。

「おい、体が傾いているぞ!」

方の座席から、塚が怯えた声をげた。

彼は再びシートベルトをし、ちがろうとしている。

絵里は振り返り、鋭く瞥した。

「塚さん、座ってベルトを締めて! 絶対にちがらないで!」

「しかしこのままじゃ落ちる!」

「彼女を信じなさい!」

絵里の力い叫びに、塚は瞬ひるみ、再び座席に腰をろした。

力いリーダーシップ、パニックを抑え込むためのい言葉。

それだけが、今の絵里にできる唯の仕事だった。

絵里は客の全を確保すると、再び計器盤に目を向けた。

体は激しく震えている。

しかし、方位計の数字が信じられないほどゆっくりとき始めていた。

数字がつずつ確実に変わっていく。

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「曲がっているわ」

絵里は呟いた。

操縦桿がんでいるのに、は確かにへ旋回していた。

佐藤は元の分いノートにかれた数字と、エンジンの回転数を示すメーターを交互に見比べている。

そして再びトリムホイールをカチリと回した。

旋回に首ががるのを防ぐための絶妙な微調だった。

パラパラパラッ。

窓ガラスに激しい粒が叩きつけられた。

の縁に接触したのだ。

体がきく揺れる。

絵里は壁のすりをく握りしめた。

揺れは10秒ほど続いた。

しかし、それ以激しくなることはなかった。

音は徐々にさくなり、窓のには再び穏やかな空が広がった。

気象レーダーの赤い塊が体の側を通り過ぎていく。

回避に成功したのだ。

絵里はく息を吐きした。

腕力で操縦桿を引かなくても、は曲がった。

佐藤の計算と、エンジンの推力だけで。

しかし、んでいる余裕はなかった。

佐藤が計器盤の端にあるエンジンの温度計を指差した。

「つ問題があります」

佐藤の声は先ほどと変わらず平坦だった。

「のエンジンに当な負荷をかけ続けると、エンジンの温度が急激に昇します」

佐藤はグラフの線をなぞった。

「さっきの数分の旋回だけでも、エンジンの温度が危険領域のくまでがりました」

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絵里は温度計を見た。

確かに、側のメーターの針が、赤いラインの直まで迫っている。

「もし、赤いラインを超えたらどうなるの?」

絵里は聞いた。

「エンジンがを吹いて止します。片方のエンジンを失えば、もう度と旋回はできません」

絵里の背筋がたくなった。

難ってまた難。

この鉄の塊は常にギリギリのバランスで空にとどまっているに過ぎない。

京の羽田空港の滑は、のにい。

着陸するためには、決められた狭い空域で正確に体を何度も曲げて、滑の正面にわせなければならない。

佐藤はフライトコンピューターの画面を切り替えた。

「今のボートのような雑把な旋回では、絶対に滑にたどり着けません」

佐藤は画面の軌跡を指した。

「度でも曲がるタイミングを違えれば、修正する余裕はない。それにエンジンの温度も限界を迎えます」

絵里はナビゲーション画面の軌跡を見て言葉を失った。

ほんのしを変えるだけで、数キロの距を消費している。

「との連携が必です」

佐藤がノートを閉じながら言った。

「私たちが最限の旋回回数で滑に向かえるように、空域を完全に直線に空けてもらうしかありません。のを全て退避させてください」

「わかった。私がと交渉するわ」

絵里は力く頷いた。

「そのに、客を落ち着かせないと」

絵里は度、操縦をた。

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