"操縦桿が壊れた旅客機を救った町工場の技術者" 第4話
からのの宣告
客は異様な静けさに包まれていた。
さっきの乱気流で、乗客たちは恐怖のあまり声もせない状態だった。
輩の客乗務員たちが青ざめた顔で絵里を見つめる。
絵里は通の央にち、全員に聞こえるようにはっきりとした声で言った。
「皆さん、聞いてください」
絵里は線を配った。
「な計器トラブルはありましたが、体は完全に定しています。これより京へ向けて特別な入ルートに入ります」
絵里は自信に満ちた表を作った。
「私たちは必ず皆さんを無事にへ返します。指示があるまで絶対に席をたないでください」
パニックを抑え込み、希望を与えるための確信に満ちた言葉。
乗客たちの表にわずかに堵のが戻るのを確認すると、絵里は再び操縦へ戻った。
そして、がからしてに落ちていたヘッドセットを拾いげる。
自分自のにしっかりと装着し、通信パネルのダイヤルを回して緊急の周波数にわせた。
今度は私がく番だ。
絵里はマイクを引き寄せ、息を吸い込んだ。
「メーデー、メーデー、メーデー。こちら250便」
無線からはザーというノイズしか聞こえない。
絵里は諦めずに何度も繰り返した。
太平の空で、必にの助けを呼ぶ。
「こちら250便、緊急事態発。
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操縦でトラブルがあり、パイロットが名とも識です」
絵里は声をめた。
「応答してください」
数秒の沈黙の、ノイズの奥から緊迫した声が返ってきた。
『こちら京管制。250便、状況を正確に報告せよ』
絵里は佐藤を見た。
佐藤は無言で頷き、再びフライトコンピューターの画面に向き直った。
絵里はマイクをく握りしめた。
「操縦系統が完全にダウンしました。操縦桿はきません」
無線の向こうで、複数のがざわめく音が聞こえた。
『250便、操縦桿がかないなら、どうやって度を維持しているんだ? 自操縦か?』
「自操縦は切れています」
絵里は事実だけを伝えた。
「現、乗客のがエンジンの推力とトリムホイールだけで体をばしています。彼女はフライトコンピューターの設計者です」
数秒のい沈黙が落ちた。
信じられないという、息をむ音がスピーカーから漏れてくる。
『250便、もう度言ってくれ。エンジンの推力だけでんでいるというのか』
絵里の予はした。
からの反応は絶望と混乱の入り混じったものだった。
航空業界のプロフェッショナルであればあるほど、今の状況がいかに能であるかが分かるはずだ。
『250便、そのまま待しろ。今すぐ専チームを呼びす。だが……』
管制官の言葉が途切れた。
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『その着陸方法は例がない。全な着陸は能かもしれない』
絵里はマイクを置き、夜空を見つめた。
は定している。
しかしそれは、綱渡りのような仮の全に過ぎない。
次は、国交通省の管制塔という巨な組織との戦いが待っていた。
絵里はシートベルトをく引き直し、決を固めた。
『こちら京管制。専を繋ぐ』
いノイズの、く落ち着いた男の声が響いた。
航空会社や管制官ではなく、体そのものをるの声だった。
『250便、私は航空メーカーの主任技術者、田だ。状況を正確に教えてほしい』
絵里はマイクを握り直し、佐藤の言葉をそのまま伝えた。
「操縦桿は完全にきません。現、佐藤という本エンジニアがトリムホイールとのエンジン力だけで体を定させています」
無線越しに複数のが息をむ音がした。
『信じられないな。シミュレーターでも、そんな操作を成功させたパイロットはいない』
田の声にはらかな驚きが混じっていた。
『しかし、問題は着陸だ。着陸するためには、度と速度を同にげながら、滑の正面へ向けて何度もを変えなければならない』
田の声が険しくなる。
『エンジン力だけでそれをやれば、体は必ずにきく振られるダッチロールという現象を起こし、最は制御を失って墜落する』
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絵里は背筋がたくなるのをじた。
「どうすればいいの。私たちはこのままび続けることはできないわ」
『残酷な事実を伝える』
田は息をえた。
『への墜落だけは絶対に避けなければならない。250便、そのままへ向かい、太平へ着するんだ』
への着。
絵里は窓のを見た。
完全な暗だ。
夜の荒れたに、エンジン力の調だけで着するなど、無事に済むはずがない。
体は波に叩きつけられて砕け散る。
「……率はどれくらいなの?」
『過のデータから見て、2割以だ』
田は酷な数字をにした。
『だがに落ちれば、の数千がぬ。それが唯の被害を抑える方法だ。決断してくれ』
無線が切れ、い沈黙が操縦に落ちた。
絵里はマイクを置いた。
の専は、着陸は能だと断言した。
だが絵里は、ただその言葉に従って、百の乗客を暗いへ沈める決定をすことはできなかった。
彼女は自分の目で確かめるために、席に座る佐藤のすぐろまで歩み寄った。
佐藤の横顔には、粒の汗がっていた。
絵里は黙って、佐藤の元を観察した。
首はトリムホイールに置かれ、数秒おきに微な角度で回している。
はキーボードを弾き、ノートにかれた数字を次々と入力している。
さらに佐藤は、折両を伸ばして、央にあるつの巨なエンジンレバーをかしていた。
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絵里は計器盤の端にあるエンジン温度のメーターを見た。
エンジンの温度は、危険を示す赤いラインのすぐで刻みに震えている。
佐藤は、このつの作業をたったで、休むことなく続けている。
ノートのページは汗で腕に張り付いていた。
「佐藤さん」
絵里は静かに声をかけた。
「の言う通り、滑への着陸は能なの?」
佐藤は画面から目をさず、首を横に振った。
「理論は能です」
佐藤は数字を打ち込んだ。
「羽田空港のい滑、体を沈み込ませる角度さえわせれば、輪をろして着陸できます」
「じゃあ、なぜの専は能だというの?」
「彼らの言う通り、私の処理能力がりないからです」
佐藤の言葉は残酷なまでに客観だった。
「着陸の最の分、度ががるにつれてからのが秒単位で変化します」
佐藤は息をついた。
「私はのさを計算し、キーボードで姿勢を制御し、トリムホイールを回し続けなければなりません。その、絶対にはせない」
佐藤は央にあるつのエンジンレバーを顎でしゃくった。
「でも、着陸のためにはあのつのレバーを、ミリ単位で同に何度もかして速度を落とす必がある。私にはが本しかありません。りないんです」
絵里はつの巨なレバーを見つめた。
「私がそのレバーをかすことはできる?」
絵里の問いに、佐藤は初めてを止め、絵里を見げた。
「試してみますか?」
絵里は頷き、レバーの横にった。
佐藤はをレバーからし、絵里に譲った。
「のレバーをに、1ミリだけ押してください。1ミリです」
絵里はをレバーに置いた。
パイロットが両で握るほどのい属の塊だ。
ほんのし力を込める。
レバーがわずかに滑った。
その瞬だった。
のエンジンが突然い唸りのような音をて、体が急激にへ傾いた。
絵里の元からが消えるような覚に襲われ、彼女は壁に叩きつけられそうになった。
「危ない!」
絵里が叫ぶよりく、佐藤がキーボードを弾き、トリムホイールを素く回した。
体はきく揺れた、再び平に戻った。
絵里は荒い息を吐きながら、自分のを見た。
ほんのしかしただけで、巨ながひっくり返りそうになったのだ。
絵里は理解した。
佐藤は魔法使いではない。
この恐ろしいほど敏な巨な械を、識と集力だけで綱渡りのように操っているのだ。
腕力で操縦桿をねじ伏せるような、これまでの絵里の常識は通用しない。
必なのはパイロットの経験でも、リーダーのい言葉でもない。
佐藤の数字を信じ、恐怖に耐えながら、械のように正確にくだった。
「塚さんは?」
絵里は方の客を振り返りながら聞いた。
「彼は型に乗っているわけだし」
「自分の覚でレバーをかしてしまいます。今のあなたのように」
佐藤は即答した。
「それではバランスが崩れて墜落します」
佐藤は再びノートに目を落とした。
「必なのは、自分の覚を捨てて、私の指示通りにだけいてくれるです」
「でも、もし失敗すれば……」
佐藤は言葉を切った。
言われなくても絵里には分かっていた。
失敗すれば、百の命が滑に激突して終わる。
絵里は計器盤の端にある燃料計を見た。
「燃料はあとどれくらい残っているの?」
「通常の倍の燃料を消費しています。京空に到達した点でギリギリです。やり直しの余はありません」
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