"操縦桿が壊れた旅客機を救った町工場の技術者" 第6話
真実の告と名もなき職の誇り
佐藤は額の汗を拭うこともなく、さらに分いノートの次のページをいた。
そこにはたな複雑な数式が、びっしりとき込まれていた。
「エンジンの温度は定しました。これできな旋回に耐えられます」
佐藤は操縦席の央にあるつの巨なエンジンレバーを指差した。
「川さん、レバーの横へ来てください」
絵里は息をえ、佐藤の隣にった。
をのレバーに、をのレバーにそっと置く。
たい属の触と、エンジンの微かな振がのひらから直接伝わってくる。
「京の滑へ入ルートをわせるための、最初の旋回をいます」
佐藤の声が、しだけく鋭くなった。
「ここからは、私のだけではりません」
佐藤は画面を見つめた。
「私が引けと言ったら、のレバーをミリだけへ引いてください」
絵里は力く頷いた。
もう過の常識への迷いはなかった。
私は今から、彼女の計算の部になる。
「準備はいいわ」
「最初の旋回始」
窓のの暗の向こうに、京ののオレンジのかりが微かに見え始めていた。
「レバー、ミリ。今です」
佐藤の声は、まるで常の作業を指示するように平坦だった。
絵里は息を止め、に全の神経を集させた。
たい属のレバーを指示通りに、ほんのわずかだけへ引く。
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ズン、というい振が元から伝わってきた。
エンジンの回転数が落ち、体がゆっくりとへ傾き始める。
百の乗客が側に偏っているため、体はまるで力に引っ張られるように、急角度でへ滑り落ちそうになった。
絵里は恐怖でが震えた。
レバーを戻して体を平にしたいという本能が、全で叫んでいる。
「そのままで。絶対にかさないで」
佐藤がキーボードを弾き、でトリムホイールを細かく回した。
首ががるのを防ぐための絶妙な微調だった。
傾きがぴたりと止まる。
体はきく斜めに傾いた異常な姿勢のまま、巨な円を描くように旋回を始めた。
窓の側の暗の向こうに、京ののオレンジのが微かに見えてくる。
方位計の数字がつずつ確実に変わっていく。
「曲がっているわ」
「そのまま。あと秒」
佐藤は計器盤の画面と、膝のの分いノートを交互に見つめている。
操縦の壁がミシミシときしみ、巨な属の塊が無理な力を受けて鳴をげているのが分かる。
絵里の腕の筋肉が痙攣しそうになっていた。
たったミリの位置をキープすることが、これほど精神と肉体を削るとはわなかった。
「、、……レバーを戻して」
絵里は素くレバーを元の位置へ押し戻した。
同に佐藤がトリムホイールを逆へ回す。
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体がゆっくりと起きがり、再び完全な平に戻った。
最初のきな旋回が完璧に成功したのだ。
絵里はく息を吐きし、レバーからをした。
全が汗で濡れていた。
彼女は呼吸をえながら、佐藤の元にある使い古されたノートを見つめた。
表には、本語でさな会社の名がかれている。
にかれているのは、航空会社が用した綺麗な印刷のマニュアルではない。
きの細かい数字とグラフが、ページが真っ黒になるほどき込まれていた。
「佐藤さん、あなたは巨な航空会社のエンジニアではないの?」
絵里の問いに、佐藤はペンをかすを止めずに答えた。
「私は、本のさな町の技術者です」
「町? こんな最の巨なを、さなが作っているの?」
「の側や巨なジェットエンジンは、アメリカの企業が作ります」
佐藤は計器盤の央にあるフライトコンピューターの黒いパネルを指差した。
「でも、体の微細な揺れをじ取る気圧センサーや、この補助コンピューターの臓部は、私ののさなで作られました」
佐藤はノートのページをめくった。
「の世界ののきを、万分の秒単位で正確に読み取るセンサーです」
佐藤の指が数字をなぞる。
「それを実現するために、何百もの本の職が毎鉄を削り、基盤を焼き、何度もエラーをしては修正を繰り返しました」
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佐藤の指が、きのグラフをなぞった。
「私の父も、その職のでした。絶対に誤作を起こさない基盤を作るために、何もに帰らず顕微鏡を覗き込んでいました」
佐藤はノートの背表を優しく触った。
「このノートは、職たちが残した無数の失敗と成功の実験データです」
絵里は、佐藤のさなを見た。
そのには、マメや細かい傷がいくつもあった。
現で械と共にき、鉄のたさや暑さをっているのだった。
「アメリカの企業は、この補助システムを単なるバックアップだと考えています」
佐藤は静かに、しかしい確信を持った声で言った。
「でも私たちは違う。もしメインのシステムが全てんでも、絶対にを落とさない。その覚悟で、ミリの誤差も許さずに部品を作りました。だから、この体は絶対に持ちこたえます」
絵里の胸の奥で何かが崩れ落ち、しい形に組みがっていくのをじた。
彼女は今まで、危を救うのはい力を持った特別なだとっていた。
だからこそ、パニックが起きれば自分が声をして制圧し、腕力でねじ伏せるのが正しいリーダーシップだと信じてきたのだ。
しかし、真実は違った。
この絶望な夜空で、百の命を支えているのは、特別な個の腕力ではない。
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を越えたい国で、名もなき職たちが積みげた膨なと正確な仕事だ。
彼らは自分が表にることはない。
しかしその見えない仕事が、絶対に壊れないという信頼となって、今ここにしている。
佐藤は魔法使いでもスーパーヒーローでもない。
その数えきれない職たちの代表として、今ここで体の声を聞き、彼らの技術を最限に引きしているだけなのだ。
「ありがとう」
絵里は自然とそうにしていた。
自分のの傲さが消えり、い敬がまれていた。
「次からは、もっと正確にレバーをかせるわ。あなたの数字を完全に信じる」
絵里の言葉に、佐藤は初めてさく頷いた。
「次の旋回まであと分です。同じ作をお願いします」
しかし、その直。
操縦に甲い警告音が鳴り響いた。
ピリリリリッ!
という、これまでとは違う鋭い子音。
絵里は臓がねがるのをじた。
「今度は何!?」
佐藤が計器盤の端にあるさなモニターを凝した。
常に静だった佐藤の表が、初めて微かに歪む。
「燃料です」
佐藤の声がわずかに震えていた。
「乗客をに寄せたことで、側の翼にかかる空気抵抗が予以に増しました。姿勢を保つためのエンジンの負担が偏り、燃料の消費が急激にねがっています」
絵里は燃料計の赤いランプを見た。
針が、空っぽを示すゼロのラインに、恐ろしいスピードでづいている。
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