"月二十五万を貪る偽装役員一家の転落" 第12話
最階の対決
「あの子たちは……じゃない」
文夫のので、内容証の通がクシャリと音をてて握り潰された。
「まれてくる赤ん坊の命まで、を脅し取るための具に使うのか……! 実の親を脅すために、腹の子を使うのかッ!」
夫の声には、父親としての、そしてとしての底れぬ激が込められていた。
自分たちの借を埋めるためなら、自分たちの欲望のためなら、実の親のを破滅させ、まだ見ぬが子の命すら平気で秤にかける。その悍ましさに、私の全から鳥肌がち、激しい悪が胃の腑を突きげてきた。
だが、取り乱している暇はなかった。
私は文夫の肩にを置き、真っ直ぐに夫の目を見つめた。
私の瞳には、もう涙の滴も浮かんでいなかった。あるのは、徹なまでの決だけだった。
「あなた。あの子たちに連絡して」
「かよ子……」
「逃げちゃダメよ。『孫のためだ、話を聞こう』と言って呼びしなさい。……今度こそ、完全に終わらせるのよ」
文夫は私の覚悟を悟り、く、く頷いた。
指定したは、その週末の午。
所として私たちが選んだのは、都内にある流ホテルの最階に位置するティーラウンジだった。
放ない井、磨きげられたきなガラス窓からは、れ渡った京の並みが望できる。周囲には品に着飾った客たちが静かに談笑しており、ホテルのスタッフたちが洗練された所作でき交っていた。
広告
の目がある所を選んだのは、あいつらにな暴力や狂言をさせないためであり、何より、この華やかな所こそが、奴らの欺瞞を暴く最の台になるからだった。
約束のの分。
奥の革張りのソファー席に、ミクと悠の姿があった。
は級な茶とケーキをテーブルに並べ、ふんぞり返るようにして座っていた。その顔には、親を脅迫して千万円を勝ち取れると確信した、醜悪な勝ち誇った笑みが浮かんでいる。
ミクの着ているはゆったりとしたマタニティのワンピースで、そのお腹は、言われてみればほんのわずかに膨らんでいるようにも見えた。
だが――かつてならおしくてたまらなかったはずのその景を見ても、私のは、え切ったのように微も揺らぐことはなかった。
私と文夫が無言で向かいの席に腰をろすと、悠は茶のカップをソーサーにカチャリと音をてて置き、を組み直した。
「わざわざこんな級ホテルに呼びして、何のつもりですか?」
悠は尊な態度で、私たちを見すように言った。
「こっちは妊婦を抱えて忙しいんですよ。の話なら、さっさとしてくれませんかね。内容証にいた通り、千万円、今に振り込めるんでしょうね?」
文夫は悠の無礼な物言いにることもなく、静かにコートを脱いで子の背にかけた。
広告
「ああ、その話をしに来たんだ。……だがそのに、ミク。おにつ、確認しておきたいことがある」
文夫は真っ直ぐに、娘の目を射抜くように見つめた。
「ミク。妊娠、おめでとう」
「はあ? 今更々しいお祝いなんていらないんだけど」
ミクは馬鹿にしたようにを鳴らした。
「千万円払う気になったなら、さっさとサインしてよ。お腹の子にストレスがかかると、流産しちゃうかもしれないんだからさ」
平然とが子の命を盾にする娘に対し、文夫は静かに、しかしラウンジの空気を凍りつかせるような言を放った。
「……ところで、そのお腹の子の父親は、本当に悠君なのか?」
ピシリ。
まるで空そのものが凍結したかのような静寂が、私たちのテーブルを包み込んだ。
ミクの顔から、勝ち誇った笑みが瞬に消えった。
「……は? てめえ、何言ってやがる!」
悠が顔を真っ赤にしてちがろうとした。
「実の娘に対して、なんて侮辱をしやがるんだ! 俺の子に決まってるだろうが!」
ミクもまた、引き攣った笑みを浮かべながら甲い声をげた。
「そ、そうよ! お父さん、いい加減なこと言わないでよ! おかしくなったんじゃないの!?」
だが、文夫は狼狽えるを、まるでを見るようなややかな目で見ろしていた。
夫は内ポケットにゆっくりとを差し入れると、そこから数枚のカラー写真を取りし、テーブルのに無造作にばら撒いた。
バサリ、と写真がケーキ皿の脇に散らばる。
それを見た瞬、ミクの瞳が恐怖で見かれ、喉からヒッというい鳴が漏れた。
そこに写っていたのは――
繁華のネオンの、級シティホテルのエントランスで、見らぬ複数の男性と腕を絡ませ、淫らな笑みを浮かべてホテルへと吸い込まれていく、ミク自の姿だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 242 -
完結第15話
元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘
モラハラと不倫を重ねた夫・裕二と離婚し、独身としての平穏な生活を取り戻してちょうど一年が経ったある休日の朝。主人公・マナのスマートフォンに、元義母・文から突如「結婚式になぜ来ないの! 早く来ないと離婚させるわよ!」と怒鳴りつける狂気の電話が入る。 「私はもう独身ですが」と告げるも、来なければ自宅や職場に押しかけると脅され、指定された高級シティホテルの式場へ向かうマナ。黒留袖姿で激怒する文は、新郎となった息子の晴れ舞台を元嫁が邪魔しに来たとロビーで激しく罵倒し、白タキシード姿の元夫も腕力で追い出そうと詰め寄る。 だが、文のスマートフォンの発信履歴を確認させた瞬間、事態は暗転。人身事故で遅延していた本当の新婦「まみ」が泥だらけのパンプスで駆けつけた時、元夫が隠し続けていた致命的な大嘘が白日の下に晒される――。嫁姑|修羅場2.5万字5 260 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 374 -
完結第32話
不妊を理由に別れた元妻が、機内で双子を抱いていた
5年前、妻・小百合に「ほぼ不妊」という診断が下された瞬間、俺は後継ぎを求める父の言葉に従い、彼女へ離婚届を突きつけた。あの選択は正しかった――そう信じて生きてきた俺の前に、ファーストクラスで小百合と、自分に瓜二つの幼い双子が現れる。 真相を追ううち、俺は恐ろしい事実に辿り着く。不妊診断そのものが偽りであり、小百合は両親まで脅され、何も言えないまま俺の前から消えていた。そして、その全てを裏で仕組んだのは、俺が誰より尊敬してきた父だった。 さらに、本当に問題を抱えていたのは小百合ではなく俺自身で、双子は離婚直前に宿った俺の子供だと判明する。 妻を捨て、子供たちの5年間まで奪ってしまった俺は、もう父の作った「正しい人生」に従うつもりはない。失った家族と向き合い、父が守り続けてきた巨大な権力と秘密に、自分の手で決着をつけると決めた――。夫婦|熟年離婚4.9万字5 7868 -
完結第10話
妹が断った牡蠣漁師は、港の社長だった
「貧乏な漁師なんて絶対に嫌」――妹・美咲が鼻で笑って断った縁談を、35歳の私・香織が代わりに受けることになった。幼い頃から何でも妹を優先され、「我慢できる姉」として生きてきた私にとって、それは初めて自分で選んだ人生だった。 相手の総一郎は、古い家と軽トラックで暮らす不器用な牡蠣漁師。ところが島では誰もが彼に頭を下げ、格式高い老舗料亭まで最上級の敬意を払う。やがて大嵐で加工場が壊れ、会社が存続の危機に陥る中、私は書店員時代に培った「名前と物語を届ける力」で直売所を立ち上げる。そんな矢先、総一郎の本当の立場を知った母と美咲が現れ、「その縁談は本来、美咲のものだった」と言い出す。そして料亭に掛けられた、値段も生産者名もない古い「牡蠣」の木札が、夫にも知らされていなかった過去へとつながっていく――。夫婦|修羅場1.4万字5 452 -
完結第13話
十年の沈黙と離婚届
明治から続く旧家・宗方家に嫁ぎ、十年間「無能な嫁」と蔑まれながら耐え忍んできた白木咲子。義父からは冷え切った古米を押し付けられ、義母や義姉からは下女のように扱われ、夫の孝幸は浮気を重ねては嘲笑を浮かべる日々。ある激しい雷雨の夜、孝幸は朱肉の鮮やかな『離婚届』を卓上に放り出し、「子供も産めぬ役立たずは今日限りで出て行け」と冷酷に追放を宣告する。 だが、咲子の指先は一片も震えていなかった。彼女が着物の帯の間へ静かに滑り込ませたその紙切れこそ、十年間待ち続けた反撃の「合図」だったのだ。 宗方一族四十二人が寄生し、高給を貪る企業群。その頂点に君臨する巨大財閥「白木グループ」の真の支配者は誰なのか――。翌朝、受話器から呼び出された直通秘書ライン。すべてを奪ったと信じ込む傲慢な一族に、音もなく下される苛烈な審判とは。夫婦|修羅場1.9万字5 1065 -
完結第31話
母の還暦祝いで家を奪おうとした夫
「あのマンションは、誕生日会さえ終われば俺たちのものになる」――夫を驚かせようとオフィスのキャビネットに隠れた私・ゆかは、愛していたレオの電話を聞いて凍りつく。亡き父が残し、母が守り抜いたマンションを、還暦祝いの場で親戚ごと丸め込み、私に同意させて奪うつもりだったのだ。 しかも電話の相手は、最近の不審な行動の先にいた女・まゆ。五年間信じた“優しい夫”の正体は、私の情と世間体まで計算する男だった。私は泣いて問い詰める代わりに、会話を録音し、権利書を守り、わざと資産整理の資料を餌として置く。そして彼自身が用意した母の誕生日会に、同僚や取引先まで招き入れる。私を逃げられない舞台へ上げるつもりの夫はまだ知らない。その日、追い詰められる側が誰なのかを――。夫婦4.7万字5 1188 -
完結第11話
夫の毒膳と孫の告発〜元科捜研妻の科学鑑定〜
元科学捜査研究所の分析官だった岩田礼子(五十八歳)は、交通事故で息子夫婦を失い、遺された五歳の孫・陽太を夫の国彦と共に引き取って育てていた。 しかし息子の死後、礼子は原因不明の酷い目眩や全身の脱力感に苛まれるようになる。献身的に看病し、料理教室へ通って手料理やサプリメントを振る舞う「理想の夫」国彦。だが、体調は悪化の一途を辿り、ついに出張前日に夫が作り置いた筑前煮を口にした直後、礼子は急性中毒で意識不明に陥ってしまう。 九死に一生を得て帰宅した夕暮れ、テレビのサスペンスドラマで睡眠薬をすり潰す犯人を見た陽太が「おじいちゃんのと同じだ」と無邪気に叫んだ。古巣の科捜研に持ち込んだ筑前煮とサプリメントから検出されたのは、致死量寸前の睡眠薬――優しい夫の仮面の裏に隠された、身の毛もよだつ殺意と陰謀とは。祖父母と孫|夫婦1.6万字5 248 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 124 -
完結第20話
偽りの仕送りと緑の通帳
専業主婦の佐藤真美は、長年にわたり傲慢な義母・君代から「無収入の居候」と見下され続けてきた。夫の減給により進学を断念し、誇りを持って介護職に就いた二十歳の娘・奈々までも、義母は「高卒の無能な孫」と親戚の前で嘲笑する。さらに君代は「長男の嫁・恭子を見習い、毎月十五万円を仕送りしろ」と理不尽な要求を突きつけてきた。耐えかねた真美が恭子に相談すると、長男一家の仕送りに隠された信じがたい事実が判明する。義母の言う通り「見習う」ことを決意した真美は、夫の浩一を巻き込み、スマートフォンに収めたATMの振込画面の写真と、タンスの上の空の茶封筒を使ったある計画を仕掛ける。だが、疑念を深めた義母が「緑の銀行通帳」を差し出し、記帳を命じたことで事態は急転する――。嫁姑|真相3.0万字5 708