"昭和29年、夫を亡くした私から船が奪われた" 第7話
量がないため割だったが、売れ残りを減らせば何とかなる。さらに注文をまでに取るようにし、持っていく魚の量をできるだけ決めてから仕入れた。
幸子は学帰りに切れを束ね、客ごとの注文をき写した。信夫は町へく母についていきたがったが、志津は曜だけにした。「伝うのはいい。でも学を休んでの仕事をするのは違う」と言うと、信夫は満そうにしながらも従った。
しずつ、志津の仕事は「に乗れない漁師の妻の代用品」ではなくなっていった。
へる者から魚を買う。
町で欲しい者へ運ぶ。
売れる量を先に聞く。
値段を自分で計算する。
正と漁をしていた頃には考えもしなかった仕事だった。
その変化を番嫌がったのは徳蔵ではなく、井だった。
「おが勝に売り始めたら、みんなが真似をする」
漁協ので呼び止められた志津は、静かに答えた。
「みんなが真似したくなるほど、今の売り方に困っているんですか」
井の顔から笑みが消えた。
志津はその表を見て、初めて気づいた。
を取り戻すことと、魚を売ることは、同じ争いではない。
そして自分が触り始めたのは、徳蔵の面子よりずっときなものだった。
志津は商売のに、正の揚げ控えを集め始めた。に残っているだけではりないため、源や清吉にも「同じの精算が残っていないか」
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と頼んだ。同じ期の数料や油代を比べれば、正だけに付いている控除が分かるとったからだ。
源の妻・澄は、夫より几帳面だった。菓子箱のに5分の精算をごとに束ねており、「男はをすぐ捨てるから困る」と言いながら全部見せてくれた。清吉のでも、妻のフミが油代の控えを計簿へ写していた。
軒分を並べると、正のにだけある項目がはっきりした。《徳蔵替》《修理返済》《臨控除》。名称はによって変わるが、正の帳にある数字と照らすと、かなりの部分が同じ借に向けられているように見えた。
志津は夜ごとにそろばんを弾いた。信夫も隣で数字を読みげたが、遅くなると「もう寝なさい」と追い払った。3分をしたところ、徳蔵関係とわれる控除は2万7000円を超えた。
翌、志津は徳蔵のへった。
「正は、あなたへいくら返しましたか」
「帳面を見せただろ」
「組から渡った分を入れてです」
徳蔵は黙った。
志津が2万7000円という数字をすと、徳蔵は初めてらかに揺した。「全部が俺の懐に入ったわけじゃない」と言い、ちがって戸棚から別の封筒をした。
そこには漁協への支払い控えがあった。
正の発修理3万2000円について、保証である徳蔵が部をて替えた記録だった。正の揚げから引かれたの部は徳蔵へ返され、別の部は漁協の貸付へ直接回っていた。
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徳蔵の帳面だけを見ても、正の帳だけを見ても、全体が分からない仕組みだった。
「俺だって全部取ろうとしたわけじゃない」
徳蔵はい声で言った。
「正が払えんは俺の揚げから落とされた。あいつがんだら残りも俺に来る。だからを好きにされちゃ困るんだ」
志津はそこで初めて、徳蔵の焦りの正体を理解した。弟のが欲しいだけではない。保証として背負わされたを、そのもので確保しようとしているのだ。
「それなら、なぜ最初にそう言わなかったんです」
「女に借の話をして何になる」
「その女が返すんでしょう」
徳蔵は言葉を失った。
志津は正の帳をき、《兄貴分、あと千百》という文字を見せた。「正はまでに終わるとっていた。あなたは1万8400円残っていると言う。この1万2000円の差だけは、はっきりさせます」と告げた。
徳蔵はしばらく黙ったあと、いがけないことを言った。
「その1万2000円なら、俺も分からん」
志津は顔をげた。
「の暮れ、正から同じことを聞かれた。俺の帳面と組の残がわんとな」
正はぬから、すでに数字のい違いに気づいていたのだ。
徳蔵の話では、正が残について尋ねてきたのは12だった。「兄貴へ返した分と、組に引かれた分をすとすぎる」と言い、徳蔵の帳面を見せてほしいと頼んだらしい。