"昭和29年、夫を亡くした私から船が奪われた" 第10話
しかし源は「ここで引いたら、正に笑われる」と魚箱を置き、清吉は「俺は余った魚を売っとるだけじゃ」ととぼけた。
それでも量はりない。
志津は町の客へ事を話し、魚がないは干物や煮干しにできるものを扱うことにした。澄とフミが伝い、売れ残りそうな鰯を塩で洗って干した。魚をそののうちに売り切るだけだった仕事に、「へ残せる商品」が加わった。
志津はへ賃を払った。
澄は最初、「所同士でなんかいらん」と断ったが、志津は受け取らせた。
「伝いにしたら、いつか私がをげる仕事になります。仕事なら、やった分を払えます」
その言葉を聞いたフミが笑った。
「男みたいなこと言うねえ」
「男じゃないと商売しちゃいけないんですか」
は顔を見わせ、声をして笑った。
その頃、の登録続きもしずつんでいた。子どもたちも相続に関わるため類は簡単ではなかったが、なくとも徳蔵が言「俺が使う」と言えば終わる話ではなくなった。
焦った井は、今度はそのものをかそうとした。
ある朝、港へった志津は、正のがいつもの所から消えていることに気づいた。探すと、港の反対側で徳蔵が発をかけている。
「何してるんですか!」
志津が駆け寄ると、徳蔵は「腐らせるより使った方がいい」
広告
と答えた。
「鍵は?」
井から受け取ったという。
志津はへび乗ろうとはしなかった。代わりに岸からきな声で言った。
「そのは今、相続の続きです。勝に使わないでください」
周囲の漁師たちが振り向いた。
徳蔵は鳴り返した。
「俺が保証だ!」
「保証なら、借を請求してください。を勝に使う理由にはしないでください!」
徳蔵の顔が赤くなった。
そのの午、志津は役所へき、が無断で使用されそうになっていることも相談した。
そして翌週。
井のところへ、登録関係の確認を求める通が届いた。
今まで「浜のだけ」で済ませてきた話が、初めてになってから戻ってきた。
6に入ると鯵の揚げが増え、の値がきくがった。朝にはかった魚が昼には半値くになるもあり、量を獲った漁師ほど売れ残りを抱えることになった。共同販売のみがある方、同じ魚が度に集まれば値崩れするさもあった。
志津の売り方は逆だった。に注文を取り、町の庭や料理へ量ずつ回すため、に扱える量はない。その代わり、で値がつきにくいさな鯵でも、庭用ならく買いたい客がいた。
それを見て、また数の漁師がこっそり魚を持ってくるようになった。
志津は井への当てつけでく買ったりはしなかった。
広告
売れる値段から運賃と氷代、自分のを引き、残った額を見せて「この値なら買います」と言った。誰の魚でも同じ基準にした。
ある夕方、代わりに使っていた町の軒へ、きな魚箱が置かれた。
持ってきたのは徳蔵だった。
「鯵だ」
周囲にいた客が斉に黙った。
志津は蓋をけた。朝の魚で状態は悪くないが、すでに夕方である。全部を魚で売るのは難しい。
「いくらですか」
徳蔵がの朝値にい額を言った。
志津は首を振った。
「その値段では買えません」
「俺の魚だぞ」
「誰の魚でも同じです」
「おがを買えたのは誰のおかげだとっとる」
「その話と、この鯵の値段は別です」
志津は今の買値をいたを見せた。
徳蔵はしばらく睨んでいたが、魚は待ってくれない。持ち帰っても翌朝にはさらに価値が落ちる。
「全部買うなら、この値でいい」
「全部なら、もうしがります。売れ残りを干物にするがかかりますから」
「お、本当に容赦ないな」
「商売ですから」
徳蔵はとうとう苦笑した。
その、志津は徳蔵の魚もの漁師と同じように量り、そので現を払った。領収の印まで求めると、徳蔵は「またか」と呆れたが、もう拒まなかった。
帰り際、徳蔵がさな声で言った。
「正も、おに売らせた方がいと言っとったことがある」
志津はを止めた。
「いつです」
「のだ。組の値が悪いに、町へ直接持っていけんかってな。俺が馬鹿なことを言うなと止めた」