"成人式に消えた母と十三着目の振袖" 第1話
母が着せた最の振袖
2014113、横浜郊の貸装「乃」は、午5から成式へ向かう客で混みっていた。45歳の川奈津子は、着付け台ので娘・紗季の帯を締めながら、「式が終わったら、の裏で2だけの写真を撮ろう」と言った。紗季が選んだのはい藤の振袖で、袖には奈津子が夜までかけて直したい裏がのぞいていた。
奈津子は乃の主ではない。を経営するのは5歳の妹・宮千鶴で、奈津子は仕て直しと顧客台帳を任されていた。夫を病気でくしたあと、幼い紗季を育てながら姉妹でをきくし、駅のさな呉だった乃を、300組以が利用する貸装へ変えたのだった。
成式の3、奈津子はのパソコンから量の資料を印刷していた。紗季が何をしているのか尋ねると、予約表の理だと答え、裏返したを鞄へ入れた。その夜は娘の振袖を縫いながら何度もを止め、もしから急いで署名を求められたら、必ず度持ち帰るよう言い聞かせていた。
当の紗季は、母が成した娘へ契約の常識を教えているだけだとった。奈津子は夫の、保証欄や保険の類を1で確認してきたため、へ慎なだった。になってえば、母は自分のに何か起きる能性を考えながら、それを説すれば娘の式を壊すと迷っていたのだろう。
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午840分、紗季は友と会へ向かった。奈津子はまで追いかけ、髪飾りが緩んでいると言って留め直したあと、折り畳んだを帯の内側へ差し込んだ。「帰ってから読んで。今は何があっても、あなたのお祝いのだから」。紗季は母がサプライズのを入れたのだとい、そのまま送迎へ乗った。
ところが午2、式を終えた紗季が乃へ戻ると、奈津子の姿はなかった。スタッフは、午9すぎにきな桐箱を抱えて裏からたと話した。財布も携帯話もの更に残され、コートさえ掛けたままだったが、奈津子は誰にもき先を告げていなかった。
そのの夕方、さらにきな問題が発覚した。成式用振袖の予約と保証、計960万円がの返準備座から消えていたのである。座を操作した職員番号は奈津子のもので、送直に顧客データ32件が削除されていた。警察は、奈津子がを持ちして逃した能性を考えた。
の防犯カメラには、午912分、奈津子が桐箱を抱えて裏へ向かう姿が残っていた。その3分、成式の撮りを担当していたカメラマン・真壁直のワゴンが搬入をている。真壁も同じ朝から連絡が取れず、妻とはに婚していたため、奈津子と緒に逃げたという噂が急速に広がった。
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「お姉ちゃんは、から真壁さんと会っていたの」
警察の聴取を終えた千鶴は、控で紗季のを握った。の経営が苦しく、奈津子が返用のへをつけていたこと、真壁と閉に何度も話していたことを告げた。信じたくない紗季へ、千鶴は削除に印刷したというメールを見せた。《成式の朝、箱を持ってる》《紗季には何もらせない》。送信者は奈津子、宛先は真壁だった。
紗季は帯の内側に入れられたをいした。急いでくと、そこには祝いの言葉ではなく、い文だけがかれていた。《のに言われても、今は署名をしないで》。何へ署名するなというのか、母に尋ねることはできなかった。
午5、千鶴の夫で専務を務める宮俊夫が、紗季へ類を差しした。奈津子が持ちしたについて、親族として分割返済へ協力するという確認だった。紗季は母の言葉を信じ、署名を拒んだ。俊夫はらず、「成式のにこんな話をさせて悪かった」と類を引っ込めたが、目だけは笑っていなかった。
その、奈津子の方は分からなかった。真壁のワゴンは3、横須賀の料駐で見つかり、内には空の桐箱と奈津子の片方の履が残されていた。岸や港が捜索されたものの、2の姿も、960万円も発見されなかった。
乃は予約客へ弁済し、千鶴は記者ので何度もをげた。
紗季を自宅へ引き取り、護学の学費も肩代わりしたため、周囲は《姉の始末を背負った派な妹》として千鶴を称えた。紗季も、母を信じたい気持ちをにするほど、千鶴を傷つけるようにじるようになった。
ただし、母が直した藤の振袖だけは返却しなかった。千鶴は事件にレンタル代の代わりとして紗季へ譲ると言い、湿気を避けるため乃の専用箪笥で保管した。紗季は成式の写真を度も現像せず、母に捨てられたの装であると同に、母が最に自分のためだけに針を持った証拠だと考えていた。
10、その乃の倉庫から、貸しされた記録のないもう1着の振袖が見つかった。
衿に縫いつけられていた名札には、こうかれていた。
《13番 川紗季様》
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