"二十六年目の告白" 第8話
億千万円の落とし穴
「ひっ……ひいっ……浩司さん! どうにかしてよ! こんなの嘘だって言ってよぉぉっ!」 をいずり、ベッドの縁に縋り付こうとする美。 しかし、浩司はもはや言葉を発することすらできなかった。喉からヒューヒューと掠れた空気の音を漏らし、焦点のわない目を宙に向けて痙攣している。己が仕組んだ「完璧な復讐」が、最初から正妻ののひらので弄ばれていた化芝居に過ぎなかったという真実が、男の脆な精神を完全に破壊していた。
「美さん。狂言はそれくらいにして、現実の話をしましょう」 弁護士が徹な声で割り込んだ。机のに、裁判所の印鑑が押された分い執類を叩きつける。
「あなたが浩司氏から譲り受ける予定だった『公正証遺言』ですが……受遺者であるあなたが遺贈を主張する、当然ながら浩司氏の負債も包括に承継することになります」
「ふ、負債……?」 涙とマスカラで顔をぐしゃぐしゃにした美が、呆然と顔をげた。
「浩司氏は過数にわたり、あなたのサロンの業資、およびあなたのタワーマンションのとして、自宅を担保に額の借り入れをっていました。さらに、あなたが浪費した級やブランド品のローン、実態のない投資話への補填……その債務残は、遅延損害を含めて現、億千百万円に達しています」
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「い、億……!?」
「ええ。浩司氏の預貯座は、妻であるゆみさんの正当な申てにより、法な財産隠匿としてすでに全額が仮差押さえの対象となっています。残された資産は、抵当権が何にも設定された築古の自宅のみ。……つまり、あなたがこの遺言を使すれば、に入るのは無価値な産と、億千万円を超える巨額の借だけです」
美の弁護士が、たまらずをいた。 「さん……これは完全に債務超過です。遺言の執など受け入れれば、あなたのサロンもマンションも即座に競売にかけられ、自己破産すら免責許事由(浪費および詐害為)に該当する恐れがあります! 今すぐ相続放棄の続きを取るべきです!」
「放棄……? そんなの嫌よ! じゃあ私のは何だったのよ!? 浩司さんの妻の座も、財産も、この子の親の座も……全部に入らないっていうの!?」
「に入りませんよ」 私が静かに告げると、美は憎悪に満ちた目で私を睨みげた。 「全部、あなたが欲に溺れてのを奪おうとした報いです。……あなたが浩司から受け取っていた毎万円の送も、婚姻費用からの法流として、過分に遡って返還請求の続きをめています。逃げはありません」
「ゆみ……あんた……最初から全部ってて……!」
「ええ。義母のオムツを替えながら、あなたの贅沢昧のレシートを枚ずつコピーしていたわ。
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いつか、このが来ることを信じてね」
そのだった。 ピッ——————……。
病に、くてたい単調な子音が響き渡った。 図のモニターの緑の波線が、完全に平へと沈み込んでいた。
「患者さん、止です!」 駆け込んできた医師が瞳孔を確認し、計を見げた。 「午分……ご臨終です」
男は、自らののすべてが完全な敗であったことを悟ったまま、息を引き取った。 にすべてを残したつもりが借のを押し付け、の子だとって育てた息子からは軽蔑され、正妻には指本触れられずに見捨てられた。これ以ない、無惨で孤独な末だった。
美はその遺体にすがりつくこともなく、ただ腰を抜かしたまま、カタカタと顎を鳴らして震えていた。 その背に、達也が最の瞥を投げかけた。 「……さようなら、美さん」
青は踵を返し、度も振り返ることなく病の扉をけててった。 そのを追うように、美の弁護士も辞任届をテーブルに叩きつけてっていく。
残されたのは、たくなった男の骸と、億千万円の獄の淵に取り残された、れな化の女だけだった。
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