"二十六年目の告白" 第10話
墜ちた女王の請求
のたい枯らしが、都のビルのを吹き抜けていた。 港区の等に建つ階建ての級タワーマンション。その最階くに位置する美の自宅リビングは、かつての華美な面を完全に失い、の踏みもない荒廃の極みにあった。
にはみ干した級ワインの空き瓶が何本も転がり、ブランドもののバッグやコートが無造作に散乱している。テーブルのには、連届く督促状と内容証郵便の赤い封筒が、のように積みげられていた。
「嘘よ……こんなの、何かの違いに決まってるじゃない……!」
化粧も落とさず、髪を乱した美は、震えるでスマートフォンを握りしめていた。画面に表示されているのは、アプリの残照会画面。そこに並ぶ数字は、酷なまでに「0円」を示していた。
浩司が息を引き取った翌週、弁護士のによってされた法な鉄槌は、迅速かつ容赦のないものだった。 浩司が美に遺贈すると豪語していた公正証遺言を美が放棄せざるを得なくなった、残されたのは、美個が浩司の債務の連帯保証として署名していた各種の契約だった。浩司は、美に甘い言葉を囁きながら、「サロンの運転資を利で引っ張るため」「マンションの優遇利を受けるため」
広告
と称して、美の実印を様々な保証契約に押させていたのだ。
さらに、ゆみ側から提起された「婚姻費用の正流に伴う当利得返還請求訴訟」。 過にわたり、活費を極限まで削られた正妻の裏で、である美の座に毎振り込まれていた万円の送記録。計千百万円。庭の資産を当に毀損し、夫と共謀して蓄財した法為として、裁判所は即座に美の個資産の仮差押えを認める決定をした。
ピンポーン、ピンポーン。
執拗に鳴り響くインターホンの子音に、美はを塞いで鳴をげた。 「誰よ! 帰ってよ! 私には何もないわよ!」
「美さんですね。京方裁判所の執官です。産競売始決定に伴う現況調査に参りました。錠してください。応じないは、鍵解錠業者を伴って制執に入ります」
ドアの向こうから聞こえる、徹な事務な声。 オートロックのエントランスを突破し、ついに執官が玄関まで到達していた。
「嫌……嫌ぁっ! ここは私のよ! 浩司さんが私にくれた、私のなのよ!」
美は泣き叫びながら、かつて浩司が買い与えてくれたミンクの毛皮を胸に抱きしめた。 しかし、その毛皮のみは、もはや彼女の自尊をミリも温めてはくれなかった。彼女が誇っていた優雅な暮らし、級、エステサロンのオーナーという肩き——そのすべてが、正妻から奪ったと、偽りののに築かれた、砂の楼閣に過ぎなかったのだ。
広告
「浩司さん……どうしてよ……! 私を番してるって言ったじゃない! あのな女を獄に落として、私を幸せにするって約束したじゃないのよ!」
虚空に向かって叫ぶ女の声に、応える者は誰もいなかった。 した男は、自分が騙されていたことをって発狂した末にんだ。 復讐の具として利用したはずの青は、自らのたったの実子であり、永に自分を拒絶してっていった。 そして、見し嘲笑っていた正妻は、痛みに耐え抜いて息子を派に育てげ、今や法のので自分を酷に見ろしている。
ガチャリ、と鈍い属音がして、玄関の鍵が側から回された。 扉がき、スーツ姿の執官と作業着の男たちがを踏み入れてくる。
「美さん、退通告です。来週曜の午までに、すべての私物を撤の、鍵をけ渡してください」
差しされたたい面を見つめながら、美は崩れ落ちるようにに突っ伏した。 すべてを奪い取ろうとした欲な女のには、枚の切れと、かけても返しきれない借のだけが、残酷に残されていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 449 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 612 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 434 -
完結第27話
妻を追い出した翌朝、7枚のブラックカードが止まった
結婚3年目の夜、美桜が帰宅すると、夫・達也は若い愛人と義両親を囲み、離婚届を突きつけてきた。「無能で地味な女」「1円も稼げない寄生虫」と嘲られ、慰謝料もなく豪邸から追い出される。 だが4人は知らなかった。美桜の正体は、世界経済を動かす巨大グループの総帥。倒産寸前だった達也の会社を救い、資金も仕事も与え、彼を“天才社長”に見せていたのは全て美桜だった。 さらに豪邸も別荘も、7枚のブラックカードも、達也自身の資産ではなく美桜の法人名義。 離婚届が受理された瞬間、美桜は静かに全カードを停止し、豪邸の退去手続きと会社への特別監査を開始する。 勝ち誇っていた一家がまだ知らない、本当の“無一文”への転落が始まろうとしていた――。修羅場|熟年離婚4.0万字5 285 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 200 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2860