"母に贈った家を狙う親戚夫婦" 第12話
「言ってくれれば駅まで迎えに……って、私はまだ運転できないんだった」
自分で言って笑う。
私も笑った。
「ただいま」
ダイニングへ入る。
テーブルには分の事が並んでいた。
「分?」
「なんとなくね」
母は照れたように言った。
「今は裕子が帰ってくるような気がしたから」
「そんなことある?」
「母親の勘」
噌汁。
焼き魚。
煮物。
さな鉢。
私と母が緒に選んだ器だった。
あの夜、浩司夫婦に乱雑に使われていた器ではない。
「栗きんとん買ってきたよ」
「本当? でべよう」
私は席へ座った。
母も向かいへ座る。
しばらくで事をした。
やがて母がテーブルの目を撫でた。
「裕子」
「何?」
「私ね、やっと分かった気がする」
「何が?」
「このの」
箸を置く。
母は静かに続けた。
「は、裕子が派なを建ててくれたってってた」
「違ってないけど」
「ううん。もっと違う」
母は部を見回した。
「誰にも気を使わないで、ここは自分の所だってえるように作ってくれたんでしょう?」
私は答えなかった。
母にはもう分かっている。
「だから空いてる部があっても、誰かに渡さなくていい」
「うん」
「困ってるが来ても、私が嫌ならに入れなくていい」
「うん」
「断っても、悪いにはならない」
私は笑った。
「その通り」
母も笑った。
「いことかかっちゃった」
「別にいいよ」
「でも、つだけ裕子にってる」
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「何?」
「もあんなボロアパートで暮らしてたことを黙ってたこと」
「まだ言う?」
「今度から自分のためにもお使いなさい」
「はいはい」
「返事だけじゃ駄目」
で笑った。
私はふと数かのことをいした。
あのも、玄関をけたに料理の匂いがした。
けれどのには、自分たちの所を奪おうとするがいた。
今も同じ匂いがした。
しかし卓にいたのは母だけだ。
誰の顔も窺わない。
誰かに居座られることを恐れない。
ただ、自分ので娘の帰りを待っている母。
それこそが、私が作りたかった活だった。
事が終わった。
母が栗きんとんをつ皿へ載せた。
「半分ずつにする?」
「個ずつべようよ」
「太るでしょう」
「個で太らないって」
「裕子はそうやって最、自分に甘くなった」
「お母さんが自分に厳しすぎただけ」
そんな会話をしながら、お茶を淹れる。
窓のはすっかり暗くなっていた。
玄関のしい鍵。
警備会社のステッカー。
壁の見守りモニター。
どれも以からあったもの、あるいは騒のに化したものだった。
けれど、このを本当に守るようになった番きな変化は、設備ではない。
母自だった。
嫌なことには嫌と言う。
分からない類には署名しない。
「族だから」という言葉だけで相を信用しない。
助けるかどうかを、自分で決める。
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それだけのことを母はようやく覚えた。
私も変わった。
母を守るためなら、自分が全部背負わなければならないとっていた。
働く。
稼ぐ。
を建てる。
設備をえる。
何かあれば代わりに戦う。
それが恩返しだとっていた。
でも違った。
本当に必だったのは、母が自分自を切にしていいと伝えることだった。
「裕子」
母が湯みを持ったまま言った。
「ありがとうね」
「何が?」
「この」
私は笑った。
「何の話してるの」
「だけじゃない」
母は首を振った。
「私に、“嫌なものは嫌って言っていい”って教えてくれたこと」
私はしだけ黙った。
「それなら」
湯みを置く。
「私も、お母さんに教えてもらったことがある」
「何?」
「優しいって、いじゃないってこと」
母は照れたように笑った。
私が子供だった頃。
母の荒れたを見ながら、いつか恩返しをしたいとった。
貯してを建てた、私はそれで恩返しが終わったとっていた。
違った。
は箱にすぎない。
で暮らすができなければがない。
誰かがで入り込み、慮して何も言えず、ただする所なら、それは母のではない。
だから私は戦った。
鳴るのではなく。
殴りうのでもなく。
つずつ事実を残した。
警備会社の記録。
入退履歴。
母とのメッセージ。
管理会社への申請。
登記。
映像。
録音。
そして最に、母自の。
浩司たちが最も見していたものが、最終には番かった。
「ここは私のです」
そう言えること。
それだけだった。
器を片付け、私は自分の部へ向かおうとした。
ろから母が声をかける。
「裕子」
振り返る。
「お帰り」
今度こそ私は、何のもなく笑えた。
「ただいま」
い張から帰ってきた。
玄関の向こうに誰がいるのかを配する必は、もうなかった。
母への恩返しとして建てたは、ようやく本当ので、母がして帰れる所になったのだから。
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