"月30万円の親孝行は、誰の財布から?" 第10話
かれた保管箱との通帳
達也は、まるで糸の切れた操り形のように、ギシギシと音をてて子に腰をろした。 先ほどまでの猛々しい威圧は完全に抜け落ちていたが、その瞳の奥には、まだ「俺は悪くない」「美奈子が帳尻をわせるべきだ」という、染みついた傲な未練が燻っていた。
「座ったからって何なんだよ……。おが頃から無駄遣いしてるから、活費がりなくなってるんじゃないのか……」 消え入るような声で、なおも責任転嫁を試みる夫。 私は何も答えず、スッとちがると、リビングの奥にある私のワークスペースへと向かった。
デスクのの収納棚から、両で抱えげるほどのみがある、黒いスチール製のドキュメントボックスを引きした。 ダイヤル錠をカチリと回し、蓋をける。 に入っているのは――輪ゴムでごとに束ねられた、夥しい数の古い通帳だった。 結婚した平成から、今に至るまでの分。 そのすべてを、私は計の監査記録として、冊も欠かすことなく保管し続けてきたのだ。
ドサリッ。
テーブルの央に、冊の通帳のがい音をてて置かれた。 「な……何だよ、これ……」 達也が目を丸くしてずさりした。
「あなたが『私が毎万円を余らせて、へそくりをたっぷり貯め込んでいる』とい込んでいる、そのを砕するための証拠よ」
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私は輪ゴムをプチリとし、古い順に通帳をテーブル面に広げ始めた。 「私は経理の仕事をしているの。数字のわない帳簿をそのままにしておくのは、職業柄どうしても耐えられないのよ。だから、あなたが活費座に放り込んできた万円と、がが実際に消費してきた額のすべての差額を、記録してきたわ」
私は平成の通帳をき、達也の先に突きつけた。 「これを見なさい。が歳になって、い肺炎で週入院したの記録よ。差額ベッド代と付き添いの事代で、予定に万円がんでいったよ。……このページの入記録、誰の名になってる?」
達也が恐る恐る目を落とした。 【シノハラ ミナコ 100,000】。 「おが……入したのか……?」
「そうよ。あなたはその、『保険がるから丈夫だろ』と言って、続きも確認もすべて私に丸投げしたわよね。でも、保険がりるのは退院して診断を提した翌末なのよ。病院の窓で退院に支払う現万円は、私の個の与座からて替えたのよ」
私は髪を入れず、次の通帳をいた。 平成の。 「陸がまれて、の賃貸マンションの狭さに耐えかねて、今のに引っ越してきたよ。引っ越しの敷や礼で活費座がすっかり空になった翌、リビングのエアコンが台同に故障したわね。
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修理と買い替えでかかった万円。……ほら、ここを見て」
【シノハラ ミナコ 250,000】。 達也の顔から、急速に血の気が引いていくのが分かった。
「お……こんなにしてたのか……? 俺、全然らなかったぞ……」 「らないのは当然よ。あなたが『今りるか?』と聞いてきた、私がいつも『丈夫よ』と笑って誤魔化してきたから」 私の徹な声が、夫の臓を抉るように響いた。
「あなたが会社の付きいで、万円を超えるしいアイアンセットを買ってきた。同じに洗濯が壊れて、私は欲しかったのコートを諦め、自分の貯から万円を活費座へ移したわ。あなたが輩に昇祝いだと豪語して寿司を奢っていた夜、私はスーパーの閉際の半額シールが貼られた豚こま肉を買って、子供たちのお弁当のおかずをやりくりしていたのよ」
次々と突きつけられる、具体な付と、通帳に印字された私の名と額。 万、万、万、万――。 にわたり、私が自分のと引き換えに削りし、活費座の底が抜けたバケツに注ぎ込んできた補填額の累計は、優に千百万円を超えていた。
「あなたが『魔法の財布』だとって威張り散らしてきたその座はね……私の血肉をすすって維持されてきた、ただの張り子の虎だったのよ」
通帳のを見つめる達也の瞳から、が完全に消えっていた。
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