"昭和29年、棟梁が祝いの柱を割った理由" 第5話
父が押した判
豊は材置の奥で働くうち、使えないと分けられていたが、別のから入った良材として積み直されるのを見たという。切り落とせば済む傷なら珍しくないが、芯まで黒くなった材まで混ぜられていた。に古い印が見えれば削り、しい印を押す。帳の者はその作業を「棚替え」と呼び、豊にはしないよう命じていた。
「じゃあ、柴田さんの柱だけじゃないな」
源吉の声に、豊は頷いた。置からた材がどこへ向かったか、豊には伝票の全部は分からない。ただ、のにくたのは覚えていた。が続き、に積んだ材をくさばこうとしていたころだ。豊は母の病気で借りがあり、辞めればから差し引くと言われていた。それでも源吉を待ったのは、柴田で斧を振るった話を聞いたからだった。
源吉は板切れをすぐ公にしなかった。元にあるのは若い男の証言と、もとの印を削った断片にすぎない。豊が盗んだと疑われても困る。まず、実際の建物に傷んだがあるかを確かめなければならなかった。町のから来るりいの、川島宗へをき、源吉の判断と別に材を見てもらえるよう頼んだ。
翌、柴田で急な作業が始まった。津久田は別の棟梁を呼び、問題の柱の周囲を板で覆わせていた。
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源吉が現へくと、職は「取り替えるよう言われています」と答えたが、敷の隅に置かれたの量がわない。覆いをしただけで本当に柱を替えたか分からず、源吉は作業の経過を確かめさせてほしいと忠蔵へ頼んだ。
「もうあんたには任せられん」
忠蔵の言葉はたかった。それでも源吉は、柱を支えていた仮の材と、取りす順序をいたを置いた。忠蔵は突き返しかけたが、妊娠の嫁がから声をかけた。「お父さん、そのは取っておきましょう。むのは私たちです」。忠蔵はを結び、ようやくを受け取った。
源吉が帰宅すると、のにはの弟子が待っていた。正吉は別の仕事から誘いを受けており、返事をしなければ働く先を失うと言う。源吉は止めなかった。「け。おがっていけなくなるほど、俺の仕事に付きわせたくない」と伝えると、正吉は泣きそうな顔でくをげた。あとに残る健太郎も、妻に子がまれる予定だった。
夜、文は父が机に並べた納品控えを枚ずつ理した。元の控えは源吉が持ち、請負業者側にも同じ番号の伝票があるはずだ。の隅にかれた記号を見比べるうち、彼女は軒の受け取りが、のの直に集していることに気づいた。さらに恐ろしいのは、記入欄の末尾に押された源吉の印だった。
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どのにも《岩崎検品済》とある。しかも最の枚には、源吉がいた覚えのない注記が加えられていた。《材質良好、追加検査》。源吉はその跡が自分のものではないと断言したが、丸い印は確かに彼のものだった。の、度だけ津久田の帳で印鑑を預けた記憶がよみがえる。の、急いで別の現へ向かうため、受領をまとめて済ませてほしいと頼んだのだ。
翌朝、町役の建築相談を扱う窓へ事を持ち込むに、源吉は津久田に会った。偽りの注記について問いただすと、津久田は机の引きしから別の綴りをした。そこには軒ではなく、軒の現がかれていた。源吉が施したのは軒だけで、残る軒は別の棟梁が建てている。津久田はの表を叩き、い声で言った。
「今さら材の話を始めたら、この軒すべてで、おが検査済みと言ったことになる。おの印があるんだ」
源吉はを引き寄せた。自分の印のには、確かにらない軒の所が並んでいた。そのうち軒の所は、娘の文が々嫁ぐ予定のだった。