"昼寝ばかりの嫁が、潰れかけの餅屋を救うまで" 第4話
売が半分になった
翌から、客の満が続いた。「あの餅はもう作らないの?」「ずっと払いでよかったのに」「無料で届けてくれないなら別のにする」。何も買わずに帰るもいた。ガラス戸のの鈴が鳴るたび、文子の指はレジの縁を叩いた。初の売はの半分ほどに落ち、真弓は空いたショーケースを指して「これでも正しいとってるの」と美穂へ詰め寄った。
美穂は売れ残りの数を確認しながら、「今は捨てる餅がほとんどなさそうですね」と答えた。「客が来ないからでしょう」と真弓は言ったが、美穂は言い返さなかった。曜になっても客数は戻らず、文子は閉、エプロンのポケットに入れていた古い札を何度も触った。売れなかった商品でも、そこには族のいがあった。数字で赤字だと言われただけで、簡単に気持ちを切り替えられるはずがなかった。
番つらかったのは、昔からの客に「が変わってしまった」と言われることだった。文子はそのたびに美穂を見たくなったが、責任を押しつけるようで顔を向けられない。真弓は「ほら、こうなるって言ったでしょう」と声で言い、健はので黙って箱を片づけた。のは、売が落ちるたびに美穂への信でくなった。
ところがその晩、健が締めの計算をしていてを止めた。
広告
売は確かに減っている。しかし、材料費、廃棄分、包装代、配達費を引いたに残る現は、以よりかった。健は万円札を何度も数え、貨まで分け直した。「売れてないのに、が残ってる」。美穂は隅の子で目を閉じたまま答えた。「損をする売がなくなったからです」
その言葉を聞いて、健は初めて妻を見る目を変えた。働いても残らなかったが、作る量と売る量を減らしただけで残っている。翌も同じだった。売額は以よりさいのに、仕入れに回す現がりなくなることがない。廃棄箱はほぼ空で、閉に作業を洗うもくなっていた。文子は認めたくないまま、その変化だけは否定できなくなった。
階へがった健は、美穂が持っていった帳簿を探そうとして、机のの箱を倒した。古い聞、類袋、角の欠けた表彰盾がにこぼれる。のプレートには「分析部優秀賞」とあり、名の部分は擦れていたが、最初の文字だけ「佐」と読めた。
さらに聞を広げると、ほどの記事がてきた。倒産寸の品会社を半で再建したという内容で、赤字商品の理、契約条件の見直し、資繰りの再設計についてかれている。写真には若い女性が写っていた。顔の半分は折り目で見えにくかったが、類の端を親指で押さえる癖が美穂と同じだった。
広告
「この、美穂なのか」
部へ戻ってきた美穂は、しばらく黙った。やがて聞を静かに畳む。「昔のことです」。健は「どうして言わなかった」と聞いた。美穂は表彰盾の埃を払いながら答えた。「会社で数字を見る仕事をしていたとは話しました。あなたは、それ以聞かなかったでしょう」
健は反論できなかった。美穂は続けた。「会社を救うたび、誰かが会社をなければならなかったんです。私が作った表のの数字が、の名だと分かってから、あの仕事を続けたくなくなりました」。健は初めて、美穂が昼寝をしているだけのではなく、数字を見ることそのものに傷を持つなのだとった。
「じゃあ、うちのも救えるのか」と健が聞くと、美穂はすぐには頷かなかった。「方法は見えています。でも数字より難しいことがあります。お母さんとお姉さんが、自分たちのやり方に違いがあったかもしれないと受け入れられるかどうかです」。健は壁のから聞こえる真弓の声を聞き、返事ができなかった。
その夜、から連絡が入った。曜午、担当者と材料もに来るという。残されたはだった。そして文子は、最の万円が入った通帳を机へ置き、美穂に言った。
「の午まで。それだけ、あなたに任せる」
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 418 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 609 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 432 -
完結第27話
妻を追い出した翌朝、7枚のブラックカードが止まった
結婚3年目の夜、美桜が帰宅すると、夫・達也は若い愛人と義両親を囲み、離婚届を突きつけてきた。「無能で地味な女」「1円も稼げない寄生虫」と嘲られ、慰謝料もなく豪邸から追い出される。 だが4人は知らなかった。美桜の正体は、世界経済を動かす巨大グループの総帥。倒産寸前だった達也の会社を救い、資金も仕事も与え、彼を“天才社長”に見せていたのは全て美桜だった。 さらに豪邸も別荘も、7枚のブラックカードも、達也自身の資産ではなく美桜の法人名義。 離婚届が受理された瞬間、美桜は静かに全カードを停止し、豪邸の退去手続きと会社への特別監査を開始する。 勝ち誇っていた一家がまだ知らない、本当の“無一文”への転落が始まろうとしていた――。修羅場|熟年離婚4.0万字5 285 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 199 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2748 -
完結第11話
貧乏老人を嘲笑った行員の末路
「あんな貧乏臭い爺い、適当にあしらっとけばいいのに」ボストンバッグを抱えた老人に、新入行員は嘲笑の声を浴びせ、エリート課長代理は別の窓口へ強制的に追い返した。母親の入院費のため百万を引き出しに来ただけの、よれよれのジャケットを着た年寄り――。だが、彼こそが全日本経済の裏を牛耳るクオンホールディングスの会長・久音次郎その人だった。侮辱に耐えかねた新人の篠崎水希が一人で抗議する中、老人が静かに古びたバッグの金具を閉じた瞬間、端末の画面で一千万円、一億円と出金通知の数字が狂ったように跳ね上がり始めた。絶望の淵に立たされた傲慢な行員たちの運命を決定づける、驚愕の審判の行方は――。職場逆転|修羅場1.6万字5 1861 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251