みかん小説
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"九時三十四分の地下鉄、消えた暴行犯" 第11話

あのにいた乗客たちも、今ではもう忘れてしまっているのかもしれない。 被害者の鏡を拾い集めた男も、背から果敢に羽交い締めにした作業着の男も、それぞれの常へと戻り、々の仕事の忙しさに追われ、あのの恐怖と興奮を記憶の引きしの奥くへと仕い込んでしまったのかもしれない。

だが、俺のからは、どうしても消えってくれない。

あれから何という歳が流れた。 季節は巡り、元号が変わり、俺のスーツもまた相応にくたびれ、髪にはいものが混じり始めた。だが、通勤のために鉄のホームにち、たいとともに滑り込んできたのドアがプシューとく瞬、俺の体は今でも無識に構えてしまう。

内に乗り込み、吊り革に掴まる。 ふと向かいのシートを見ろしたとき、をし投げして座っている若い男の姿が目に入ると、背筋にたい氷柱を突きてられたような悪寒がる。 隣のと肩が触れった瞬、自分のカバンがのスラックスの裾をかすめた瞬、臓がねがり、反射に体を竦めてしまう。

あの男の、血って見かれた球。 「触ってんじゃねえよ!」と吠えた、獣の絶叫。 肉と骨が潰れい、に赤い沫がび散った、あの鈍い打撃音。 そして、ホームのコンクリートの柱にすがりつき、をあわあわと震わせながら、魂を完全に抜かれていたあの司の、のように青い横顔。

それらは今もなお、何つ褪せることのない鮮烈な恐怖となって、俺の記憶の網膜に焼き付いている。

平で、全で、無質に見えるこの巨都の皮枚めくったすぐ真には、理由も理屈も通じない純粋な狂気と暴力が、マグマのように静かに澱んでいる。そして、その狂気の蓋がいたとき、どれほど派な肩きも、どれほど几帳面に結ばれたネクタイも、を保護する役にはたないのだ。

のモーターが唸りをげ、列がの暗黒のへと加速していく。 暗い窓のガラスに映る自分自のくたびれた顔を見つめながら、俺は今もあるはずのない暴力の気配に怯え、息を潜めて、次の駅のドアがくのを待っている。

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