"十三通の退職届と百七回の着信" 第5話
忘会との暮れの顔わせだ。
のにとっての1は、この2ヶで決まる。
静さんが数字を指でたどりながら言った。
「丈夫です。」
静さんは私の顔を見た。
「先代のも暮れの2ヶでうちは持ちました。」
私は卓を叩いた。
のの11と12で売は5200万円ある。
商のおよそ3割がここに乗っている。
私はペンを持って言った。
「静さん、内の見通しを作りましょう。も仕入れも。」
静さんは頷いた。
「はい。」
私たちはが暮れるまで数字を並べた。
従業員は14。
板が6、仲居が5、洗いとが1ずつ、それに静さん。
件費と仕入れと固定の費用を引くと、この2ヶの利益で翌のまでは持つ。
ホテルにいた頃、私が毎やっていた作業だ。
数字を並べているだけ、私は父の娘ではなく宴会部のに戻れた。
帰り際、静さんが声をかけてきた。
「綾乃さん。」
私が振り返ると、静さんは言いにくそうにをいた。
「昨夜、板さんが座敷でこうおっしゃっていました。娘のお遊びに付きってやるのも今のうちだと。」
静さんは私を気遣うように見た。
「聞きました。葬儀のに私も。」
静さんは黙った。
私は静さんに向き直った。
「静さん、私は板のことは言いません。」
私は言葉に力を込めた。
「父もそうしてきましたから。ただ、座敷でお客様とお約束したことだけは私が守ります。
広告
それは先代と同じです。」
静さんが笑った。
シワの寄り方が父に似ていた。
30同じ帳で数字をわせてきたの顔だ。
が落ちてから、私は11の宴会のお客様へ1件目の話を入れた。
元建設の元修造会、70歳。
ので1番古い会社のお客で、私がまれるから座敷を使ってくださっている。
私が名乗ると、元会が落ち着いた声で言った。
「父が4にくなりました。聞いたよ。」
元会は続けた。
「通夜にはけなかったがうちの者をやった。」
私は台帳をいたまま続けた。
「1114のお席ですが、のは変わらずお受けいたします。私が代表を継ぎました。」
受話器の向こうで元会がゆっくり息を吸った。
元会は懐かしむように言った。
「綾乃ちゃんか。」
私は姿勢を正した。
「はい。」
元会が笑うのが分かった。
「あんたが学の頃、2階の廊をって先代の女将さんに叱られとったな。」
私は返事に詰まった。
元会の声は父が帳にいた頃と変わらなかった。
元会は力い声で言った。
「竜さんのだ。くよ。うちは40、あそこで飯をっとる。」
話を切った、私は台帳の1114の欄に丸をつけた。
丸が1つついただけで腹の底に力が入った。
数字の見通しよりも、この件の方が私をたせたとう。
その夜、私はに残って翌からの段取りを描いた。
広告
朝は私が板の入りにって挨拶をする。
法事の席は私がつく。
11の宴会は私から1件ずつお客様へ話を入れて、父がくなったこととは続けることを伝える。
き終えてへると川のがたかった。
玄関の忌の張りをした。
翌からのはまたく。
父がいなくてもく。
私はそのつもりでいた。
振り返ると板の窓にかりがついていた。
仕込みには遅いだ。
でのがいている。
1ではない。
4つか5つ。
私はかりをしばらく見ていた。
声は聞こえない。
翌朝になれば分かることだ。
そうって私はをた。
翌朝、私は6半にへ着いた。
仕込みの音がしない。
のの朝はの音と包丁の音で始まる。
米を研ぐ音、鍋にを張る音、まな板を叩く音。
子供の頃その音で目を覚ましていた。
その朝はどれも聞こえなかった。
勝から入って廊をむと、広の襖がいていた。
13が座っていた。
板の5が横1列。
そのろに仲居が5。
1番端に洗いのとのが座っている。
全員が私だった。
も着物も着ていない。
1番奥の席に黒田さんが座っていた。
膝のにい封筒の束が揃えて置いてある。
私が部に入って声をかけた。
「おはようございます。」
何かがさく会釈を返した。
誰も顔をげない。
黒田さんが封筒の束を畳ので押しした。
黒田さんは平坦な声で言った。
「今付けで辞めさせてもらいます。」
黒田さんは私を見げた。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
二十人分の祝い膳を押しつけられたので、家を出ました
義母から「家族のお祝いだから」と押し付けられたのは、二十人分の料理作りと高額な費用負担。 夫も義妹も、私を一人の家族ではなく、都合よく使える存在として扱っていた。 五年間、我慢し続けた嫁・美咲は、ある決断をする。 それは、義妹の息子の一歳祝いの前日に、すべてを捨てて家を出ることだった。 しかし、静かに準備を進める中で、美咲は夫と義母が隠していた驚くべき事実を知る。 そこには、単なる身勝手な家族関係では終わらない、彼女を縛り続けるための計画が隠されていた。 そして迎えた祝いの日。 親戚二十人が待つ食卓に残されたのは、豪華な料理ではなく、誰も予想しなかった「空っぽの祝い膳」だった。 奪われ続けた人生を取り戻すため、美咲が選んだ静かな反撃とは――。嫁姑|親子関係|修羅場2.2万字5 284 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 200 -
完結第19話
深夜2時、隣家の物置で赤ん坊を抱く4歳児
心臓の不整脈で消防士を辞め、故郷の民宿「緑海荘」へ戻った27歳の相馬蒼太。 ある深夜2時、隣家から突然途切れた赤ん坊の泣き声に異変を感じて駆けつけると、物置のような暗い部屋で、全身に青あざを負った4歳のひなが、痩せた妹メイを必死に抱いていた。 「泣いたらまた叩かれるんですか?」――その一言に、蒼太は2人を必ず守ると決意する。民宿へ連れ帰り、常連客の旅行ライター・りんや両親と共に食事と温かな寝床を与え、児童相談所へ連絡。 しかし保護の朝、ひなは「お兄ちゃんと離れたくない」と蒼太の服を握りしめる。初めて見る海の前で、ようやく声を上げて泣いた少女を前に、蒼太とりんは“助ける”だけでは終われない未来を選び始める――。親子関係|修羅場2.8万字5 251 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第21話
母がナイフで砕いた自分の名前
母の七十歳の祝いで、私は家族に尽くし続けた母に自分の人生を取り戻してほしい一心から、ケーキのプレートに書かれた夫の姓を削り落とし、母の旧姓を書き直した。これで母は喜んでくれるはずだった。しかし母は青ざめ、「誰が戻りたいなんて言ったの」と私を睨みつけると、ナイフを掴んで自分の名前を何度も突き刺し粉々に叩き割った。家族全員から責め立てられた私は、母の部屋で底面を無残に削り取られた大量の人形を見つける。怒り|兄弟姉妹|真相|親子関係|修羅場3.1万字5 137 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第21話
妹のドレスを二十センチ切った
妹の結婚式を数時間後に控えた深夜二時、私はリビングで特注のウェディングドレスに裁ち鋏を入れた。事故で右足に傷が残る妹に対し、相手の家族は配慮という名目で足を隠す重いドレスを強要し、当日は動かず座り続けるよう言い含めていた。母の怒声が響き、私の頬に平手打ちが飛ぶ。泣き崩れる妹の足元には、前裾だけが二十センチ切り落とされた純白の布が散らばっていた。私は鋏を置き、「今日これを着て出なさい」とだけ告げた。裡切られた|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|修羅場3.1万字5 94 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111 -
完結第21話
母を遠ざける姉の嘘
長野で一人暮らす母の介護を一手に担う姉から「母の体調が悪化するから来るな」と言われ、私は五年間帰省を控え、毎月五万円の仕送りを続けていた。だがある夜、母から五年ぶりに直接電話が入る。「まだ怒ってるの。あんたが私の顔も見たくないと言っていたと姉から聞いた」と母は怯えていた。直後に受話器を奪った姉は「母の被害妄想だ」と言い放つ。不審に思った私は姉に告げず始発の新幹線に乗り、五年ぶりに実家の引き戸を開けた。兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|介護3.2万字5 166 -
完結第20話
教室の最後列に座る元教員
定年退職した元教員の私は、一度も教えたことのない男子生徒の保護者会に、身元を偽って六年間通い続けていた。教室の最後列から見つめる先には、油まみれの作業着を着た父親が座っている。受付簿の不審な記録に気づいた校長から昇降口で問い詰められた帰り道、桜が散る坂道でその父親が私の前に立ちふさがった。二十四年前の元教え子だったその男は、振り返りもせず、私の背中に向けて「あの席、あと何年座るつもりですか」と低く告げ怒り|真実|親子関係|修羅場3.1万字5 122