"妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真" 第1話
妻の葬儀が終わった夜、義母の麗子は喪のまま、修のを取った。
麗子は静かに囁いた。
「もう美保に隠す必はないでしょう」
彼女のい指が、修の結婚指輪をゆっくりと抜いた。
指輪が、めた茶の隣へ落ちた。
かすかな属音だった。
それなのに、その音だけで28の結婚活が終わったように聞こえた。
次の瞬、麗子の唇がづいた。
黒い喪の襟元から、かすかにジャスミンの匂いがした。
その、座卓のでスマートフォンが震えた。
娘の咲から、1枚の写真が届いていた。
写っていたのは、半の病院だった。
に濡れたガラス窓に映る、抱きった修と麗子。
そしてその向こう側には、病姿の妻がこちらを見つめていた。
メッセージはたった1だった。
『お父さん、これを見てもまだお母さんをしていたと言える?』
最の弔問客が帰ったのは、午10をし回った頃だった。
黒川には濡れた傘の匂いと、線の煙が残っていた。
居の隅には、い菊に囲まれた美保の遺が置かれている。
48歳の誕に、咲が撮った写真だった。
辺のレストランで、窓から入るに髪を乱されながら、美保はし困ったように笑っていた。
写真のの彼女は、まだ病気をらない。
あるいはっていたとしても、それを誰にも見せていなかった。
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遺を選んだのは咲だった。
葬儀社から正面を向いた鮮な写真がいいと言われ、修は会社の創記式典で撮った夫婦写真をした。
濃紺のドレスを着た美保が、社夫として隙のない笑みを浮かべている写真だった。
咲はそれを見て、首を横に振った。
「これはお母さんじゃない」
修は戸惑いながら答えた。
「分綺麗に写っている」
咲はい線で父を睨んだ。
「綺麗かどうかの話じゃない」
咲は自分のハードディスクから辺の写真を探しした。
で髪が崩れ、片方のイヤリングが見えなくなり、笑う直の元がし緩んでいる。
完璧ではなかった。
だから、きていた。
咲は画面を見つめたまま尋ねた。
「お父さんは、お母さんがこういう顔をしてたこと覚えてる?」
修は答えられなかった。
妻の顔を毎見ていたけれど、いせるのは朝をす横顔や、来客に挨拶する微笑み、病院で痛みを隠す静かな表ばかりだった。
美保が誰の役にもたず、誰にも気を使わず、ただを受けていた顔を、彼はほとんどらなかった。
麗子が咲の背から画面を覗き込んだ。
「これにしよう」
麗子は写真を見たまま、いこと瞬きをしなかった。
「この子は、さい頃から笑う1秒が番美保らしかった」
その声を聞いた、修は麗子が母親であることをいした。
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自分が触れた肩も、付けた首筋も、夜の暗がりで求めた体も、そのにんだ妻を腹ので育てた母親のものだった。
その事実は、葬儀のずっと彼の界の端へ、黒いシミのように残った。
葬で骨を拾う際も、麗子の指が震えた。
い骨片をにした瞬、彼女は母親以の何者でもなくなった。
麗子の唇から、さな声が漏れた。
「こんなにさくなって」
その声は、誰に聞かせるものでもなかった。
咲は祖母の肘を支えた。
修もを伸ばしたが、2より半歩遅れた。
棺へを入れたも、骨壺の蓋が閉じたも、彼はいつも半歩遅れた。
の切な面ににっているように見えながら、その瞬に必な所へはてない。
それが、修という男の逃げ方だった。
帰宅してから、咲は美保のさな宝箱を遺の横へ置いた。
には、美保の結婚指輪が入っていた。
入院、指が痩せて抜け落ちるようになり、していたものだった。
修の指輪と同じ、飾りのない輪だった。
咲が宝箱を指差した。
「お父さんが持つ?」
修は首を横に振った。
「そこに置いておこう」
本当は、触れるのが怖かった。
2つ並べれば、約束が残って見える。
だが1つは箱のへ残り、もう1つは裏切った男の指にある。
同じ属でも、すでにが違っていた。
修は遺のに置かれたを替えた。
をわせることはできなかった。
葬儀の、彼は何度もをげた。
会社の役員に、取引先に、学代の友に、所のに。
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