"妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真" 第2話
弔問客たちは々に慰めの言葉をかけた。
「奥様は、最まで幸せでしたね」
そう言われる度、修は同じ角度で首を曲げた。
声もも表も、ほとんど完璧だった。
妻をくした建築会社の社。
い闘病を支え続けた夫。
最までをさなかった伴侶。
誰もがその姿を疑わなかった。
修自でさえ、何度か信じそうになった。
だが弔問客が消え、玄関が閉まり、のに内だけの沈黙が戻ると、その仮面は急にくなった。
ネクタイが喉へい込んでいた。
喪の肩にはの慰めのの温度が残っている。
そしてには、棺の蓋が閉まる直に触れた美保の頬のたさが残っていた。
背から、麗子の声がした。
「茶淹れたわ」
修は振り返った。
篠原麗子は66歳になっても、背筋の美しい女だった。
黒いワンピースは膝のまであり、胸元もきちんと閉じられている。
だがい1を終えた今、喪の布は柔らかく沿い、細い腰の線を静かに残していた。
髪はい位置でまとめられていたが、のそばの筋だけが解け、い頬へかかっている。
泣き腫らしたはずの目元には、まだ崩れない何かがあった。
母親としてのさ。
教師としてにつけた節度。
そして、誰にも見せない女の志。
修は、その3つを見分けられるつもりでいた。
麗子はし線を落とした。
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「咲は写真を理したいからし1になりたいって、仕事へ戻ったわ」
修は壁の計を見た。
「こんな夜に」
麗子は静かに頷いた。
「こんな夜だからでしょう」
麗子は2つのカップを座卓に置いた。
い湯気がっていた。
ジャスミンではない、ダージリンのりだった。
それでも彼女がをかがめた瞬、首筋からごくいジャスミンの匂いがこぼれた。
修の体は、その匂いをっていた。
っていることを忘れたふりもできなかった。
麗子が座卓の向かいを示した。
「座ったら」
修は座らなかった。
座卓の傍にったまま、の指輪を親指でなぞった。
28、美保と選んだ指輪だった。
当の修には若すぎた。
さな設計事務所で夜まで図面を引き、休には現で測量を伝い、3ヶかけてを貯めた。
美保に勧められた宝付きのものを断り、何も飾りのない細い輪を選んだ。
美保は微笑んで言った。
「傷がついても似うものがいい」
指輪には無数の傷があった。
子供を抱えた傷、を建てた傷、喧嘩の無言で洗い物をした傷、病院のすりを握った傷。
そして、別の女の背へ触れた夜についた、目には見えない傷。
麗子がちがった。
「修さん」
呼び方が、義母のものではなかった。
葬儀の、彼女はずっと黒川さんと呼んでいた。
親族のでは、僧侶のでは、咲のでは。
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今2きりになって初めて、声が元の温度へ戻った。
麗子は修の正面にった。
ほんの歩の距だった。
麗子は修の目を見つめた。
「今はよく耐えたわね」
その言葉を聞いた瞬、修の喉がいた。
妻をくしたしみではなかった。
なくとも、それだけではなかった。
朝から誰も、彼に耐えたとは言わなかった。
優しかった、派だった、献だった。
そう言われたけれど、麗子だけは彼が演じていたことをっていた。
演じなければっていられなかったことをっていた。
修は声のトーンを落として言った。
「耐えたんじゃない。何もじないふりをしていただけです」
麗子は静かに首を振った。
「同じことよ」
修は目を逸らした。
「違います」
麗子はさらに歩づいた。
「じゃあ何をじていたの?」
修は答えなかった。
棺のの美保を見た、胸の奥に浮かんだもの。
しみ、恐怖、堵、自由。
そして、その自由をじた自分への嫌悪。
どれか1つだけなら言えたかもしれない。
だがのは、1つのだけでできてはいない。
しているのを嘆きながら、そのを取る責任から解放されたことに堵する。
度と声を聞けないことに怯えながら、もう責められないことに救われる。
矛盾するは互いを打ち消さない。
同じ胸ので同に息をしている。
修はそれを認める勇気がなかった。
麗子の指が、彼のネクタイへ触れた。
結び目をし緩める。
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