みかん小説
本棚

"白線の先の女たち" 第3話

歳の借

子が自転を買ったのは歳のだった。繊維の堂で働いていた母、枝が、しずつ蓄えたをしてくれた。子自は包装ので働きながら練習を続け、ようやく女子の競にられるようになったばかりだった。枝は娘が自転でくへっていくたび、窓から姿が消えるまで見送った。

その晩、子のへ久美子が招かれた。縁側に干された洗濯物ので、枝は豆腐を切りながら言った。「あの子、優勝するまでやめないって言ってるんです」。子は噌汁を運び、「やめないよ」と即座に答えた。枝は困った顔で笑った。「来からは正式な競がないんでしょう。そろそろ仕事をつに絞らないと、暮らしていけないよ」。

子は茶碗を置くを止めた。「で働いてるよ」「朝からって、夜にへって、いつ寝るの」。母娘の言い争いに久美子は割って入らなかった。枝が違っているわけではない。自転のタイヤ組を替えるが、母娘の暮らしではどれほどいかっている。競から届く当と賞が途絶えれば、子にはしいを探す必がある。

事のあと、子が久美子を沿いまで送った。防波堤の灯りが面に揺れ、漁の関音がくで響いていた。「枝さんに、ちゃんと話しなさい」

広告

と久美子は言った。「話してる。ずっと話してる。でも母ちゃんは、るのはのだとってる」。子はを蹴った。「私は着になってから考えたいのに」。

久美子もかつて同じことを言った。昭、女子競輪が始まってまもなく、彼女は故郷の米を辞めて競に通った。父は「女がで勝負をするな」とったのではなく、「転べば働けなくなる」と配した。久美子は反発してをたが、父が正しかったもあった。転倒して首を痛めた、仕事も賞もなく、蒲団ので井を見ていた。

「着になったら、どうするの」。久美子の質問に子は唇を噛んだ。「その次も勝つ」。そこまで言って、自分でも無理だと気づいたように笑った。「次がないんだよね」。久美子は堤防のすりにを置いた。競は勝ったあと、また次を目指すから苦しいし楽しい。着になった瞬、終わりだと言われるのは、子にはあまりにかった。

翌朝、久美子は部の事務所へき、競輪を使わない規模の自転競技会について相談した。部は困った顔をしたが、非公式の試や技術披そのものが律に禁じられているわけではないと説した。ただしを賭ける競輪と誤解させず、や施設の使用許を取り、全のため責任者を決める必がある。

広告

「競輪の板を勝につけるのだけはやめてください」とを押された。

その夜、久美子は枝のをるに台所へ戻り、皿を洗うのを伝った。枝は最初慮したが、やがてさな声で言った。「昔は女がってを稼ぐなんて像もしませんでした。けど、娘が働いた分で初めて買ってくれた茶碗、今も使ってるんです」。久美子は流しの端に置かれた欠けた茶碗を見た。計を配する言葉の奥に、娘への誇りもある。子は母を説得することばかり考え、その誇りをまだらないのかもしれなかった。

帰りの廊で、久美子はの男に呼び止められた。以、選の写真を撮っていた聞記者の庭だった。「今度、女子だけで催しをやるんですか」。久美子は驚いた。「まだ何も決まってない」。庭は帳を閉じた。「うちには記事をせる余があります。ただ、聞に載せるなら、誰が責任を持つ競技会なのか教えてください」。久美子は初めて、責任者という言葉のさを自分の胸に受け取った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: