みかん小説
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"特上寿司と、消えた妻の半年" 第1話

「反省したら、おかずしてあげるわよ」

義母のよしえは、目のにある特寿司の桶へ迷いなく割り箸を伸ばし、トロの分い切りを器用につまみげながら、嘲るような濁った笑みを元に浮かべてそう言った。

、刻はをし回ったところだった。

度末の総決算と末の支払いの締め作業がなり、朝から晩まで休むもなく卓とパソコンの画面に向きい続け、ともにすり減らしてようやく辿り着いた自宅の玄関をけた、リビングから漂ってきたのは甘やかな酢飯と質な醤油の濃密な匂いだった。

リビングのかりの、ダイニングテーブルの央には、漆黒の漆塗りに蒔絵が施された豪華な寿司桶がつ、誇らしげに並んでいた。トロ、艶やかにるウニ、粒のイクラが零れんばかりに盛られた軍艦、飴に煮詰められた穴子、牡丹老。どれもみずみずしく、息を呑むほど贅沢なネタがぎっしりと敷き詰められていた。

だが、空いていた私の席のに置かれていたのは、陶器の底が見えるほどく盛られた、え切って表面がカピカピに乾燥した米の杯だけだった。

湯気のつ噌汁すらない。鉢のつも、漬物の皿すらもない。え切った茶碗のすぐ横に、コンビニの割り箸が膳、無造作に転がされているだけだった。

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「で牛丼でもべてくればいいじゃん」

夫の公平は、脂の乗ったトロをいっぱいに頬張ったまま、もぐもぐと顎をかし、私の顔を瞥すらすることなく吐き捨てた。元にはすでに本空いたビールのロング缶が転がっている。

「そうそう。のたいにでも当たって、をやして、自分がどれだけ勝なことをしたか反省してきなさい」

よしえが嬉々として言葉を継ぎ、の品で甲い笑い声が、狭いリビングの空になりって響いた。

その響きをにした瞬、私の胸の奥底で、半かけて静かにやし固めてきた決の氷が、切の音をてずに研ぎ澄まされていくのをじた。

「……わかりました」

私は表筋を切かさず、静かにをげた。元の通勤バッグの革の持ちを指先で確かめ、そのまま踵を返して玄関のへと向かった。

「じゃあ、でべてきます」

「あ、おい。ついでに駅のコンビニ寄って、番搾りの缶パック買ってこいよ!」

背に向かって投げつけられた公平の勝な声に対し、私は振り返ることも、返事をすることもしなかった。玄関ドアのノブにをかけ、押しける。ガチャリと鳴った属音は、夜の湿った空気に溶けていった。

あのはこの、私が空腹と惨めさに耐えかねて所の牛丼へ駆け込み、ワンコインの温かい丼をかき込みながら涙をこぼし、最には申し訳なさそうにをげてこのに戻ってくるのだと、微の疑いもなく信じ込んでいたはずだ。

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だが、彼らがそれをることは度とない。

あの夜のえ切った空気を吸い込んだ瞬を最に、私はあのマンションの敷居を、ただの度たりとも跨いではいないのだから。

私の名は麻子、歳になる。

「丸コ品」という堅品メーカーの本社経理部に卒で採用されてから、今で勤続目を迎えていた。伝票のを捌き、各部署からがってくる経費精算の領収を精査し、円の狂いもなく帳簿を締める。で目たないが、数字の性だけは絶対に誤魔化さないという信を持って、ひたむきに働いてきた。

夫の公平は歳の歳で、気配線や子部品を扱う専商社の営業職をしている。

見いに似たの紹介で会い、結婚して今で目を迎えていた。のに子供はいない。

私たちが暮らしていたのは、駅から商を抜けて徒歩分ほどの所にある、築の賃貸マンションの階だった。取りは部ある3LDKで、契約の賃借名義は夫の公平になっていた。

計の針を、あの凍てつくような夜からとし、ある寒いの夜まで巻き戻す必がある。

すべての始まりは、公平の実父、私にとっての義父が虚血性疾患で急逝したことだった。

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