みかん小説
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"特上寿司と、消えた妻の半年" 第9話

と努めてるく答え、リビングへと戻っていった。

『姉さんは昔から、公平に対してもね……』

その言葉の続きは何だったのか。シンクの洗剤の泡を見つめながら、私の胸にはたい靄がち込めていた。

帰り際、玄関で靴を履きながら、初枝さんはバッグからスマートフォンを取りし、画面を私に見せた。

「麻子さん、私の携帯の番号と連絡先、登録しておいて。何か辛いことや困ったことがあったら、慮なくいつでも話してちょうだい。姉さんのことで耐えられなくなったら、私に言うのよ。あの、私の言うことだけは昔からしは聞くから」

初枝さんの指先が、私の番号を登録していく。

この酷な族の親族のに、たったでも自分の方でいてくれるが現れたという事実に、私の界は涙で滲みそうになった。

その景を、廊の突き当たりの暗がりから、よしえが能面のようなたい瞳で見つめていたことに、私は気づきながらも、あえてく考えないようにしていた。

翌の午、初枝さんから「昨はご馳様でした。姉さんのこと、本当にごめんなさいね」といメッセージが届き、私は「温かいお言葉をいただき、本当にありがとうございました」とだけ返信した。

だが、私の淡い期待は、最悪の形で裏切られることになる。

に入ると、よしえの態度は目に見えて化し、私に対する無が始まった。

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朝、洗面所ですれ違っても挨拶を返さず、私が「ってきます」と声をかけても完全にを塞ぎ、公平にだけ「気をつけてね、いってらっしゃい」と甘ったるい声をかける。

ある晩、寝で公平が私に苛ちをぶつけてきた。

「おさ、母さんの嫌がここ最ずっと悪いんだけど、何か余計なこと言ったんじゃないの? 理由は何でもいいからさ、とりあえずおから母さんにげて謝っとけよ。のの空気が悪くてたまらないんだよ」

理由も分からないまま謝れと、夫は平然と言い放った。

妻がどれほど傷つき、理尽に耐えているかなど、この男にとってはミリの価値もないのだ。母親の嫌が治り、自分が居の良い空に戻れさえすれば、妻の尊厳などいくらでも踏みにじって構わないと考えているのだ。私は無言で背を向けた。

決定な事件が起きたのは、の曜だった。

連休の伝票処理がなり、会社をたのはを過ぎていた。

い取りでマンションの鍵をけると、廊に充満していたのは、醤油とみりんと等な牛肉が焦げる、甘辛く芳醇なすき焼きの匂いだった。

「やっぱり、いお肉は舌触りが全然違うわねえ!」

リビングからよしえの歓声が聞こえ、続いて「本当、のでとろけるよ」という公平の満げな声がなった。

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リビングのドアをけると、卓の央にカセットコンロが置かれ、部鉄器のすき焼き鍋からい湯気がちっていた。

はすでにべ終えたところらしく、公平はソファに寝転がって爪楊枝をシーシーと鳴らし、よしえは爪楊枝でお茶をすすっていた。

「あら、遅かったのね。あなたの分も、ちゃんとお鍋に残してあるわよ」

よしえが顎の先で、コンロのの鍋を指し示した。

私はを洗い、取り皿を持って鍋のに座った。初枝さんの言葉が効いて、しは改してくれたのだろうかという微かな期待を抱きながら、菜箸を入れて鍋の底をすくった。

菜。

煮崩れた焼き豆腐。

しらたき。

青ネギ。

茶く濁った割の底を、もう度、鍋底を削るようにして探った。

肉は、枚も入っていなかった。

脂の浮いた濃い割を吸い尽くしてクタクタに縮んだ野菜と、崩れた豆腐の残骸だけが、めかけた鍋の底に沈んでいた。

キッチンの流し台を見ると、ゴミ箱のに、黒毛牛の個別包装トレーが枚、綺麗に洗われてねられていた。

に輝く『特選黒毛牛ロース・肩ロース』のラベル。パックわせて、千百円の級肉だった。で平らげるには、あまりにもすぎる量だ。

「……お母さん。お肉は、どこにあるんですか?」

私の静かな問いに、よしえは湯呑みを置くことすらせず、当然といった顔で言い放った。

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