みかん小説
本棚

"四万円を断った朝" 第13話

私の名がついた

それからか。

私は国沿いの古い備を借りた。

廃業した運送会社の庫で、根には錆が浮き、事務所の壁はところどころ剥がれていた。

だが型を入れられるスペースがあり、建設械の簡単な備もできる。

何より賃がかった。

板には、

「サービス」

とだけいた。

企業のロゴも、級な受付もない。

初の客は台。

翌は台。

目はゼロ。

源は笑った。

「社さん、暇だな」

「誰が社ですか」

「おしかいないだろ」

「社という響き、あまり好きじゃありません」

「じゃあ」

「それでいいです」

報酬で借を返した、残ったのくを設備へ入れた。

無理にきくしない。

借も最限。

自分が分かる範囲の仕事をする。

以なら「成しなければがない」とっていただろう。

今は違う。

台のを直し、客が無事に帰る。

つの械を備し、現で止まらずく。

それだけで分仕事になる。

原グループとは完全に切れたわけではなかった。

阪事業の再建に必な現アドバイスを、部契約で数回だけ引き受けた。

「社員にはならないが仕事はする」

耶は呆れていた。

「番扱いにくい形を選びましたね」

「使い捨てにされにくいでしょう」

「まだ言いますか」

「言います」

由依から聞いたところでは、原グループ内部もきく変わったらしい。

広告

役員会の権限集を見直し、発注や監査を複数系統で確認する仕組みへ変えた。

耶は以より忙しくなった。

しかし、妙な噂は減った。

「若い女だから」という言葉で軽く見られることも、以ほど簡単ではなくなった。

私は彼女と頻繁に会うことはなかった。

に度連絡が来るかどうか。

「油圧ショベルの備業者を紹介して」

「うちでやります」

「い?」

「社価格です」

「値引きは?」

「ありません」

そんな会話ばかり。

私たちが何なのか、私自よく分からなかった。

雇用関係ではない。

友と言うには、経験したことが濃すぎる。

恋でもない。

なくとも私は、そうっていた。

のある朝。

を正式オープンしてか目だった。

空はよくれていた。

源が型トラックのへ潜り、若い備士が溶接を準備している。

私は具棚を理していた。

その、国から静かなエンジン音が聞こえた。

級。

黒。

見覚えがある。

私はを止めた。

はの敷へ入ってきた。

ゆっくりむ。

そして信じられないことに、輪が脇に落ちていた古い釘付き板を、まるで狙ったように踏んだ。

シューッ。

空気が抜ける。

私は腕を組んだ。

「……嘘だろ」

が止まる。

運転席の扉がいた。

りてきたのは耶だった。

今はスーツではない。

いベージュのニットにいコート。

広告

髪も仕事のほどきっちり固めていない。

彼女は潰れたタイヤを見てから、私へ笑った。

「偶然ですね」

「絶対嘘でしょう」

「何が?」

「あの板、普通なら避けます」

「見えませんでした」

「あなた、運転いですよね」

「今は見えませんでした」

堂々と言い切る。

私はため息をついた。

「ロードサービス呼びます?」

「修理さんが目のにいるのに?」

「いですよ」

「万円?」

「今は値がりしました」

耶が笑った。

の奥から源が顔をした。

私と耶を見る。

そして何も言わず、またトラックのへ潜った。

ただし元は笑っていた。

私はジャッキを持ってへ向かった。

初めて会ったと違い、はっていない。

借もない。

面接へ遅れる配もない。

耶も社の顔をしていない。

私はホイールナットを緩めながら聞いた。

「今は何の用です?」

「タイヤ交換」

「そのために釘を踏んだ?」

「だから偶然です」

「では交換したら帰るんですね」

耶が黙った。

私は顔をげた。

彼女はし困ったように笑った。

「それとは別に、つお願いがあります」

その言い方に覚えがあった。

あの、万円を断った私が、

――本当にお礼をしたいなら、途まで乗せてください。

と言ったと同じだった。

「何です?」

私は聞いた。

耶は答えるに、しだけ息を吸った。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: