"孫に「ここに居たければ黙れ」と言われた私が、翌朝家を出た理由" 第6話
黙って渡すつもりはない
「蓮斗、そのをどこで見つけたの」
私がリビングへ入ると、蓮斗は慌てて相談メモを伏せた。友たちはソファのでを組み、テレビに映った画を見ていたが、私の声で何かが振り返った。「母さんが机に置いてたんだよ。別に秘密でもないだろ」と蓮斗は言った。私はを取りげず、そこに私の名がかれていることだけを指摘した。
「そのを譲ると決めたことはありません。お友達ので話すことでもないわ」
蓮斗は瞬、答えに詰まった。それから友の線を識したように笑い、「ばあさん、まだそんなこと言ってんの」と声を張りげた。私は言い争いを避け、に転がった空き缶を見て、未成の集まりに酒が置かれていることも気になった。誰がんだか決めつけるつもりはなかったが、ので放置してよいものではなかった。
真理恵が階からりてきたのは、そのしあとだった。「お母さん、また蓮斗を困らせているんですか」と言い、相談メモをさっと回収した。私は「私の名義を変える相談をするなら、なぜ本に話さないの」と尋ねた。真理恵は笑顔のまま、「孝太さんと将来の理をしているだけです。お母さんには難しい続きですから、決まってから説しようとって」と答えた。
「難しいかどうかは、私が決めることよ」
広告
私はそう言って、初めて真理恵の目をまっすぐ見た。彼女はしばらく黙ったあと、「最のお母さん、忘れっぽいことも増えていますし」と付け加えた。卓に何をしたか忘れたことはあっても、を譲ると約束したことなどない。私がそう返すと、真理恵は蓮斗に「ほら、こうやってすぐになるのよ」と目配せした。
そのとき、孝太が帰宅した。私は息子を廊へ呼び、相談予約のことを尋ねた。孝太は肩を落とし、「真理恵が度聞くだけならって。母さんにすぐ譲ってもらうつもりはないんだ」と言った。「なら、そう説してほしかった」と返すと、息子は何度もうなずいた。だが、真理恵が戸にった途端、「母さんも配しすぎだよ」と言い直した。
私が寝に戻ろうとすると、蓮斗が「友達ので父さんまでられたじゃん」と追いかけてきた。真理恵は「今はもう休んでください」と私を奥へ促したが、蓮斗を止めようとはしなかった。私はを止め、振り返って言った。「このにむのは構わない。でも、私のを勝に自分たちのものだと言うのはやめて」。自分でも驚くほど静かな声だった。
蓮斗の顔が険しくなった。「だったらてけって言いたいのかよ。俺らに何も言わずだけしてりゃいいだろ」。私は、その言葉を聞いてようやく分かった。
広告
蓮斗にとって私は、族のというより、求を聞いてくれるであり続けなければならなかったのだ。子どもをそういう考え方に慣らしてしまった責任は、私にもしあるのかもしれない。
私は度台所へ戻り、湯を沸かしかけてやめた。若い友たちので蓮斗がになることは分かっていたが、だからといって未成の酒や夜の騒音を見過ごせなかった。弘がいたころなら、まず蓮斗の友に帰宅を尋ね、親御さんの配をしただろう。私は孫の面子より、全を優先しようと決めた。
夜を過ぎても、友たちは帰らなかった。私はもう度だけリビングへき、夫の写真を棚へ戻してほしいことと、そろそろ帰宅するよう伝えた。蓮斗は私の言葉を遮り、「ここに居たければ黙ってろ!」と叫んで襟元をつかんだ。あの瞬、私はを失う怖さよりも、これ以黙っていたら蓮斗がを傷つけることを当たりだとう怖さをじた。
広告
おすすめ作品
-
完結第16話
十字の紙片と売られた生家
「母さん、老人ホームに入れ。この家も売る」息子夫婦はカナダ移住を前に、相場の半値以下の査定書と山奥の隔離施設のパンフレットを突きつけてきた。共働きで多忙な彼らに代わり、十年間孫娘を育て上げ、遺産から数百万円を用立ててきた私への仕打ちがこれだった。絶望に沈む私の手に、高校生の孫娘が震えながら押し込んだのは、固く折られた「十文字のチラシの紙片」。「明日の朝までに、実印と通帳は絶対に渡さないで」。深夜二時、一人で開いたその紙には、全てを覆す戦慄の計画が記されていた。私は仏壇の隠し金庫に手を伸ばし――。祖父母と孫|介護2.4万字5 426 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 430 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 204 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397 -
完結第14話
偽りの血液型
花屋で働くさやかは、名門病院の跡取り・谷本勇吾と結婚した。しかし命懸けの出産直後、病室に乗り込んできた元女優の義母・早苗から「この尻軽女!」と胸倉を掴まれる。新生児室の娘の髪は、純日本人の夫婦からはあり得ない見事な「金髪」だった。 さらに夫の元恋人である看護師から「子の血液型はA型。B型の夫とO型の妻から生まれる確率は0%」と宣告され、さやかは「托卵妻」の濡れ衣を着せられて無一文で追い出されてしまう。 信じてくれない夫と冷酷な義父母に絶望し、一人娘の凛を育てるさやか。そんな彼女を密かに支え続けたのは、義母から疎まれていた義弟の慎司だった。 12年後、美しく成長した娘の前に再び現れた元義家族。その裏に隠されていた、改ざんされた検査結果と、名家を揺るがす戦慄の「DNA鑑定書」とは——。祖父母と孫|修羅場2.1万字5 328 -
完結第11話
夫の毒膳と孫の告発〜元科捜研妻の科学鑑定〜
元科学捜査研究所の分析官だった岩田礼子(五十八歳)は、交通事故で息子夫婦を失い、遺された五歳の孫・陽太を夫の国彦と共に引き取って育てていた。 しかし息子の死後、礼子は原因不明の酷い目眩や全身の脱力感に苛まれるようになる。献身的に看病し、料理教室へ通って手料理やサプリメントを振る舞う「理想の夫」国彦。だが、体調は悪化の一途を辿り、ついに出張前日に夫が作り置いた筑前煮を口にした直後、礼子は急性中毒で意識不明に陥ってしまう。 九死に一生を得て帰宅した夕暮れ、テレビのサスペンスドラマで睡眠薬をすり潰す犯人を見た陽太が「おじいちゃんのと同じだ」と無邪気に叫んだ。古巣の科捜研に持ち込んだ筑前煮とサプリメントから検出されたのは、致死量寸前の睡眠薬――優しい夫の仮面の裏に隠された、身の毛もよだつ殺意と陰謀とは。祖父母と孫|夫婦1.6万字5 265 -
完結第23話
義母が突然、結婚指輪をくれた
夫が亡くなった日、義母は「もう家族じゃない」と私と娘を雨の中に追い出した。それから二年、一度の連絡もなかった義母が娘の小学校入学を控えた夕暮れ、四十年間外さなかった結婚指輪を私の指に無理やり嵌めて頭を下げた。翌日、親族が集まる祝いの席で和解を受け入れようとした私の前で、義母は冷たい笑みを浮かべ、夫が生前に娘の氏の変更書類を用意していたのではないかと問い詰めてきた。私の手の中で箸が止まった。裡切られた|祖父母と孫|嫁姑|親子関係|修羅場3.5万字5 127 -
完結第19話
棺の中の男を、夫は知らない
親を捨てて逃げた冷酷な男だと親族中から罵倒される義兄の葬儀で、義母は涙を流し、夫を支えの孝行息子だと称えていた。だが焼香台へ進む夫の前に立ちはだかった私は、「あなた、本当に棺の中にいるその人を知っているの」と告げた。夫が隠していたのは、過去五年間、毎月義兄へ送り続け、そのたびに全額突き返されていた六十回分の送金記録だった。血の気を引かせる夫と親戚の前で、私はその明細を祭壇の上に広げた。兄弟姉妹|親不孝|絶縁|親子関係|修羅場2.8万字5 88 -
完結第25話
祖父が私に遺した最後の拒否権
亡くなった祖父の果園を三千二百万円で売却するため、東京で働く私は十年ぶりに実家へ呼び戻された。生活苦に喘ぐ父と妹の結婚資金のため、名義を持つ父は契約を急いでいたが、司法書士が出したのは「長孫である私の書面同意がなければ売却は無効」という祖父の遺言だった。早く終わらせようとペンを握った私は、ふと買い手企業がここを何にするつもりなのか尋ねた。山を削り大型トラックの夜間中継所にすると聞かされた瞬間、私は手元のペンを静かに机へと置いた。祖父母と孫|相続|親子関係|金銭問題3.7万字5 111 -
完結第23話
締め出された新社長
父から印刷会社を継ぎ、代表取締役として誰よりも早く出社した初日の朝、私のカードキーだけが赤く点滅して通用口が開かなかった。清掃員や入社三カ月の新人、配送トラックが次々と通過していく中、古参の会計は「先代の指示で権限を削除した」と告げる。社内では判断を下せる者がおらず、営業と現場の怒号が響き合い、輪転機が完全に停止した。私は閉ざされたガラス扉の脇にパイプ椅子を置き、冷たい缶コーヒーを握りしめた。職場逆転|人生逆転|怒り|親子関係|修羅場3.5万字5 216