"残高ゼロの通帳" 第2話
チラシの裏の計算
「通帳を預かる……?」
ゆきは肩の鞄をろし、ダイニングチェアの背もたれにを置いた。っているが微かに震えそうになるのを、奥歯を噛み締めて踏みとどまる。
「お義母さん、私は歳です。会社でも経理の主任として、毎何千万円もの会社の資を管理しています。自分のお料の管理くらい、自分でできます」
「あら、会社のおとのおは別物よ!」
節子は眉を吊りげ、げさに両を広げてみせた。
「私が嫁に来た頃はね、夫の料袋は封も切らずに姑に差ししたものよ。そこから『今はこれでおやり』って遣いを恵んでもらうのが、嫁としての務めだったの。今の若いは権利ばかり主張して、ちっとも族のありがたみが分かってないんだから」
節子はそう捲してると、エプロンのポケットからつ折りにした聞の折り込みチラシを取りし、テーブルのに勢いよく広げた。裏のい余には、黒いボールペンで殴りきされた、揃いな文字と数字の羅列があった。
『計 万』 『老用 万』 『親孝 万』 『残り 私が預かる』
「ほら、見てごらんなさい。私がちゃんと考えてあげたのよ」
節子は得げにペン先で数字を指し示した。
「毎万円は計費。ご飯代とか雑費ね。次の万円はあなたたちの老資として私が貯してあげる。
広告
そして万円は親孝代。息子を派に育てげた母親に、嫁が遣いを包むのは当然の礼儀でしょ? 万も稼いでるなら、万くらい痛くも痒くもないじゃないの」
「……残り、というのは?」
ゆきがく問うと、節子は目を細めて品に笑った。
「残りは何かあったのための予備費として、私が元に置いておくわよ。来あたり、営宅代のお友達のさちさんたちとで温泉にこうって話をしてるの。泊万千円のいい宿があってねえ。それから、うちの蔵庫もそろそろ古いから、野菜が真んにある最式に買い替えたいし、私の部に置くマッサージチェアも欲しいわね」
ペン先がチラシのを踊る。温泉、蔵庫、マッサージチェア。すべてゆきの料を原資にした、節子の果てしない物欲のリストだった。
ゆきはチラシの数字をややかに見つめた。
経理の目で見れば、その予算案は噴飯ものの稚拙さだった。
節子が計算の基礎にしている「万円」は、総支額——つまり税や社会保険料が控除されるの額面に過ぎない。細の番、差引支額の欄に印字された「万千円」という現実の数字を、節子は切見ていなかった。
額面の万から節子の取り分と貯蓄を引けば、残る取りなどしない。それどころか、節子が計した「計費万円」
広告
では、このの実際の維持費にく及ばないのだ。
結婚当初の取り決めにより、マンションのローンと管理費の計万円は信吾の料から引き落とされていたが、々の費、用品、気、ガス、、インターネット回線、そして節子が常に求してくる細々とした買い物や費は、すべてゆきの与座から支払われていた。その総額は、毎平均万円に達している。
節子がこの、湯のように使ってきたエアコンの気代も、毎晩卓に並ぶ豚肉や鮮な野菜も、すべてゆきの座から引き落とされていた。節子は活費を円もに入れたことがなく、その事実をろうともしなかった。
「信吾さん」
ゆきは夫の横顔をまっすぐに見据えた。
「あなたからも言って。私のお料を、どうしてお義母さんに預けなきゃいけないの。のおは、私が自分でやりくりできているでしょう」
信吾は麦茶を啜り、気まずそうに線を泳がせながら、ボソリと呟いた。
「……別に、いいんじゃないか? 母さん、昔から父さんの料をでやりくりしてきたんだし、計の管理には慣れてるよ。ゆきも毎あれこれ支払うの、面倒だろ。母さんに任せとけば全部やってくれるんだから、楽になるじゃないか」
「楽になる……?」
「そうだよ。族なんだから、誰が通帳を持ってたって同じだろ」
信吾は底面倒くさそうに吐き捨てると、テレビの画面へと線を戻した。
ゆきの喉の奥に、鉄のが広がった。
信吾が言っているのは、計の効率化の話ではない。母親の嫌を損ねないためなら、妻の尊厳も、汗流して稼いだ労働の対価も、すべて贄として差しして構わないという、絶対な「放棄」の宣言だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 413 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 608 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 199 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3039 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 2732 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 695 -
完結第15話
元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘
モラハラと不倫を重ねた夫・裕二と離婚し、独身としての平穏な生活を取り戻してちょうど一年が経ったある休日の朝。主人公・マナのスマートフォンに、元義母・文から突如「結婚式になぜ来ないの! 早く来ないと離婚させるわよ!」と怒鳴りつける狂気の電話が入る。 「私はもう独身ですが」と告げるも、来なければ自宅や職場に押しかけると脅され、指定された高級シティホテルの式場へ向かうマナ。黒留袖姿で激怒する文は、新郎となった息子の晴れ舞台を元嫁が邪魔しに来たとロビーで激しく罵倒し、白タキシード姿の元夫も腕力で追い出そうと詰め寄る。 だが、文のスマートフォンの発信履歴を確認させた瞬間、事態は暗転。人身事故で遅延していた本当の新婦「まみ」が泥だらけのパンプスで駆けつけた時、元夫が隠し続けていた致命的な大嘘が白日の下に晒される――。嫁姑|修羅場2.5万字5 358 -
完結第11話
「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転
結婚前は優しく誠実だった夫・誠。 しかし結婚後、彼の本性は少しずつ姿を現していった。 子どもを望めない妻を「役立たず」と罵り、家では暴言を浴びせながら、自分は若い女性との時間を楽しむ。 かな子は「自分が悪いのだ」と耐え続け、愛した人との生活を守ろうとしていた。 だが、ある夜、夫の裏切りを示す決定的な証拠を見つける。 そして離婚を決意したかな子のもとに、長年知らされていなかった父からの連絡が届く。 そこで明かされたのは、彼女自身も知らなかった巨大な財産と、人生をやり直すための力だった。 すべてを失ったと思っていた妻が、実は何も持たない弱者ではなかったと知った時――。 誠の傲慢な要求と、隠されていた真実が次々と崩れ始める。 愛だと信じた結婚の終わりから、かな子の本当の人生が始まる。夫婦|第二の人生|不倫1.6万字5 397