みかん小説
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"花嫁のいない結婚式" 第6話

青いノートの霊

午。羽田空港のの空が、群青から淡い茜へとゆっくりと移り変わっていった。 たい洗面所の蛇からるで顔を洗い、ペーパータオルで滴を拭き取る。鏡のの私の顔には、徹夜の疲労こそ濃く刻まれていたが、昨夜のような絶望の濁りは消えり、研ぎ澄まされたが宿っていた。 搭乗続きの始まで、まだ半ほどある。 私はカフェのテラス席で温かいブラックコーヒーを注文し、元に置いた提げ鞄のを理し始めた。

パスポートのケースをいたとき、指先に触れたい触があった。 旅代理から送られてきていた、婚旅の最終程表の冊子だ。 表には、太平に浮かぶタヒチのボラボラ島、コテージの鮮やかな写真が印刷されていた。 そのパンフレットを見つめているうちに、私の脳裏の底から、半に瞬の部で目撃した「ある異様な景」が、急速に輪郭を取り戻してきた。

半の、私たちが結婚準備を本格化させていた頃のことだ。 休、社していた瞬に頼まれ、彼のアパートで部の掃除と洗濯をしていた私は、クローゼットの最段の奥にあった古い段ボール箱をかした。 その隙から滑り落ちてきたのが、角が擦り切れた冊の「青い革表のバインダーノート」

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だった。 何気なく拾いげていたその瞬、私は息を呑んだ。 そこには、几帳面な瞬の跡で、結婚式に関する膨なメモがびっしりとき込まれていたのだ。 会となるの見えるチャペルの見取り図、テーブルクロスの配、フラワーアレンジメントに使う百とブルースターの品種指定、引き物に選ぶべき器のブランド、そして――婦ににつけさせるべき婚約指輪のスケッチ。 そこには、今回私たちが予約したあのリゾートホテルと、私のの薬指に填められていた指輪と寸分違わぬ絵が描かれていた。

だが、異様なのはその付だった。 ページの隅に記されていた付は――『〇』。 今から。私と瞬が会うよりも遥か昔、彼が野織と婚約していたまさにその期の記録だったのだ。 ページのには、織とわれる女性の跡で『瞬くん、チャペルの聖隊はがいいな』『ハネムーンは絶対にボラボラ島のコテージね!』という付箋が、無数に貼り付けられていた。

あの、鍵のく音がして瞬が帰宅した。 ノートをいていた私を見るなり、彼は血相を変えて私のからそれをひったくったのだ。 『何勝に見ろしてるんだよ! これは……昔の仕事の企画だ! ホテル事業のマーケティング資料だよ!』 『でも、指輪のスケッチまであるわよ?』と尋ねる私に、彼は顔を真っ赤にして鳴りつけた。

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『クライアントへの提案資料に決まってるだろ! の仕事の類を詮索するなんて最だな!』

あのの私は、彼の激昂に怯え、「私が悪かった、ごめんなさい」と謝ってしまった。 瞬がホテル発やブライダル企画の関連会社に勤務していたため、本当に仕事の資料なのだと自分に言い聞かせて無理やり納得していたのだ。 だが――すべては繋がった。

「……あれは仕事の資料なんかじゃなかった」

乾いた唇から、戦慄の息が漏れた。 あの青いノートは、に織がへり、未完のまま頓挫した「瞬の理の結婚式」の完全な設計図だったのだ。 彼は、私をして結婚式を準備していたのではなかった。 に演止になった自分のれな劇を、川由というしい役者を台にたせることで、もう度最初から演し直そうとしていただけだったのだ。 の見えるホテル、いトレーンのクラシカルなドレス、細の指輪、タヒチのコテージ――そのすべてが、野織のために用され、捨てられた具の再利用に過ぎなかった。

私の指先が、無識にの薬指へと伸びた。 その瞬、指輪の属のたさが、まるで毒蛇ののように皮膚を刺した。 私は躊躇することなく、薬指からその指輪を引き抜いた。 鹸も使わず、引に引き抜いたため、関節の皮が赤く擦り剥けたが、痛みなど微もじなかった。

提げ鞄の底から、指輪が入っていた黒いベルベットの箱を取りす。 指輪を乱暴に押し込み、パチンと音をてて蓋を閉めた。

「度と、私の体を汚させない」

箱を鞄の奥底へ沈めた私は、元のスマートフォンを操作し、今度は都内にむ実の姉・彩子(さいこ・歳)の番号を呼びした。 は午分。すでに起している帯だった。

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