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"七通の退職届と八十件の着信" 第1話

「腕のある職は、全員こっちに来る」

属を削る油のえた匂いがち込めるので、川正は嘲るようにそう言い放った。代半ばの脂ぎった顔を歪め、使い込まれた作業着の胸元をこれ見よがしに反らせている。その背には、茶いダンボール箱を両腕に抱えた職たちが、然と列をなしてち並んでいた。誰もが気まずそうに線を彷徨わせ、あるいは頑なにアスファルトの面を見つめていた。

父の葬儀を終えた、まさにその翌のことである。

そのの朝、私は元の司法士と向きい、急逝した父の跡を継いで会社の代表取締役に就任する類に判を捺したばかりだった。父がかけて築きげた限会社森精の板は、今や歳の私の両肩にくのしかかっていた。

川は、源の落とされた作械がややかに並ぶ暗いのを、首を巡らせてぐるりと見渡した。油の染み付いたコンクリートのたさを楽しむかのように度だけを鳴らすと、やおら私の背へ酷な線を移した。そこには、を寄せうようにしてつの青がいた。川は唇の端を吊りげ、嘲笑を浮かべてみせた。

「まあ、ベトナムとうまく頑張るこったな」

吐き捨てられた言葉の棘が、私の胸にく突き刺さる。

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この男は、彼らが入社してから今に至るまでの数、ただの度たりとも彼らの名をにしたことがなかった。本職は残らず数に勘定しておきながら、私の背に控えるは、最初からとしての数にすら入れていなかったのだ。

喉が張り裂けそうになりながらも、私はただ唇を噛みしめ、言も言い返すことができなかった。目のを通り過ぎていく分の音が、苦しい余韻を残しながらの鉄のへとざかり、やがて完全に消えっていった。

しかし、そのわずかから、私の携帯話は狂ったように鳴り続けることになった。

ディスプレイに表示される発信元の名は、すべて「川正」だった。朝の静けさを切り裂き、昼の作業のを縫い、夜の静寂を執拗に揺るがす着信は、わずか数のうちに件に達した。

私はただの度も、その通話ボタンを押さなかった。

腕のある職を全員連れててったはずの男が、体何を取り戻したくて、これほどまでに無様に縋り付いてきたのか。その確な答えは、父がまだ健康そのもので作業着にを包み、の真んにっていた頃から、ずっとそこにあったのだ。

私の名は森朋子。歳になる。

父が突然この世をるまで、私は父の会社で営業と経理の切を任されていた。

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会社の名は「限会社森精」。各種の精密検査装置や分析器の内部に組み込まれる、極めてい精度を求められる属部品を、取引先から渡される図面通りにミクロン単位で削りして納める、典型な町のさな町だった。

社員は、事務所に詰める私を入れて。社である父を加えれば、総勢の所帯だった。内訳は、を務める川と本のベテラン職がわせて。そしてベトナムから技術を学びに来た若い職が。そこに事務方の私がいた。

父である森浩が、歳のにたったで脱サラしてちげたこの会社は、代の波に揉まれながらも途切れることなく続いてきた。

私自は、最初から業を継ぐつもりなど毛なかった。元の信用庫に就職し、融資係としてがむしゃらに働き、企業の決算を何百社と審査する毎を送っていた。勤めげた頃、父の会社で創業から経理をに引き受けてくれていた配の女性が、病気を理由に退職することになった。

「朋子、すまんが、しばらくのだけでいいから伝ってくれんか」

普段はをげたことのない父からそう頼み込まれ、事務所の机に座ったのがのことだ。ほんの数ヶの腰掛けのつもりだった。

だが、慣れない帳簿の理に追われるうちに、見積の作成も、請求の発も、取引先からの話対応も、いつのにかすべて私の机のに集まるようになっていた。

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