みかん小説
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"七通の退職届と八十件の着信" 第4話

父は静かに首を横に振った。

「言って聞いて直るような男なら、とっくの昔に自分で気づいて直してるさ」

父は湯呑みをソーサーにコトりと置き、それ以は何も言わなかった。

そのの暮れにかれた忘会でも、川はビールのジョッキを片に赤ら顔で声を張りげていた。

「森の簾が保ててるのは、俺たち本のベテラン職が現で踏ん張ってるからだ! そこんところを忘れるんじゃねえぞ!」

本職たちが調子をわせて威勢よく拍を送る傍らで、ベトナムのは端の席にを寄せい、静かに烏龍茶をに運んでいた。

川には、もうつ奇妙な癖があった。

作業着の胸ポケットにいつもねじ込まれている、表の擦り切れた黒い革表の帳だった。

毎朝、用の号のにつと、川はポケットからその黒い帳を取りし、周囲を警戒するように隠しながら、何かしらの数字を鉛でき込んでいた。の職がしでも元を覗き込もうとすると、パチンと激しい音をてて帳を閉じた。

かつて、悪気のない平野くんが「、何いてるんすか?」と冗談半分にを伸ばしたことがあった。

「触るなッ!」

に響き渡るほどの号がんだ。平野くんは顔面を蒼にして震えがり、何度もをげて謝罪したが、川はその、平野くんと切を利かなかった。

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職たちのでは、あの黒い帳には、川がかけて独自に蓄積してきた「の切削データと勘の秘訣」がびっしりとき込まれているのだと、半ば伝説のように囁かれていた。

「俺の職のすべてが、この冊に詰まってんだよ」

川は酒の席で冗談めかして自していたが、んでも誰かにを見せることはなかった。

父の癖が本当は何を指していたのか。

そして、あの川の黒い帳に、体何がかれていたのか。

その残酷なまでの真実をるために、私は最の父を失わなければならなかったのだ。

ベトナムからの青が森精のを叩いたのは、奇しくも私が信用庫を辞めて入社したのとほぼ同じ期だった。

当の森精は、刻なにあえいでいた。ハローワークにどれだけ求票をしても、若い本の応募者はも来ない。職の平均齢は歳を軽々と超え、父は毎晩のように事務所で帳簿の件費欄を睨みつけながら、く腕を組んでいた。

「このままをこまねいていたら、にはこのの械を回せるが誰もいなくなる」

い危を抱いた父が決断したのが、ベトナムからの技能実習の受け入れだった。

にホアンがやって来た。その翌にアンが加わり、さらに次のにフックが仲に加わった。

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実習として来した当初、彼らに任されたのは、切削屑の散らばるの掃除や、い鉄材・アルミ材の運搬、材料のバリ取りといった単純作業ばかりだった。

しかし父は、そんな彼らの々の仕事ぶりを、の隅から驚くほど細かく、温かい目で見守っていた。

アンは、作業で同じ属部品を百個削らせても、寸法がコンマミリすらブレない驚異な集力と指先の覚を持っていた。

フックは、現に転がっていた本語でかれた分い作械の取扱説を、擦り切れた辞を文字ずつ引きながら、わずか数ヶで冊丸ごと読破してしまった。

そしてホアンは、で良品がミリでもると、その発原因と作業の温、刃物の状態を、自のさなポケットノートにびっしりとき留めていた。

「面いなあ。とも、まるでタイプが違う」

あるの晩酌の席で、父は嬉しそうに目尻をげてビールを喉に流し込んでいた。

の技能実習期が終わりにづいた、父はに対して自ら夜遅くまで試験勉に付きい、本語の専用語をに教え込んだ。結果、は本で期就労が能な留資格へと無事に切り替え、れて森精の正社員として残ることになったのだ。

それが、面くなかったのが川だった。

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