"七通の退職届と八十件の着信" 第7話
格証が届いた、父は相好を崩し、事務所の壁の目つ所にその証のコピーを誇らしげに貼りした。
「アン、よくやった! いいか、うちの会社で械加の級を持ってるのは、俺と川と、おのだけだぞ!」
アンはまで真っ赤にして、何度も何度も々とをげていた。隣でフックとホアンが、アンの両肩を叩き、母国ベトナムの言葉で歓声をげながら抱きっていた。
その週の曜の夜、父は駅の焼肉の座敷を貸し切りにして、アンのための盛な祝賀会をいた。
社員全員に声をかけたものの、姿を現した本職は、最古参の岩佐さんと若の平野くんのだけだった。川は「切れ枚の資格の祝いなんぞに、付きってる暇はねえ」と言い捨て、定で真っ先に帰宅してしまっていた。
それでも父は嫌で、アンのコップに何度も烏龍茶を注ぎ、ことあるごとにその逞しい肩を力く叩いていた。
そしてもうつの吉報は、最の産栄計測からの話だった。
購買部の槻さんから直接話が入り、来度から森精に発注する精密部品の数量を、現の割増しにしたいという打診だった。
「森さんのところの部品は、組みてラインで組むの寸法のバラつきが全くないんです。うちのの組み付け作業が劇に楽になるんですよ」
広告
「ありがとうございます! 社にもすぐに伝えます!」
弾んだ声で答える私に、話の槻部は穏やかに笑った。
「けには、品質保証の野も連れてもう度伺いますよ。の見学以来、彼女はずっと御社の加技術をく評価していましたからね」
受話器を置いた私は、すぐにパソコンに向かい、来期の売予測シートを弾き直した。割増産が実現すれば、先送りにしてきた老朽設備の更にもが届く。信用庫代をいし、私は久しぶりに並ぶ数字のるさに胸を躍らせていた。
そのの夜、自宅のリビングで遅い夕をとっていると、父がふいに箸を置き、正面から私を見つめた。
「朋子。来のから、おにこの会社を正式に継いでもらおうとっている」
私は驚きのあまり、噌汁の椀を取り落としそうになった。
「えっ……私が? 無理よお父さん、私、作械の削りのことなんて何つ分からないのよ」
裏返った私の声に対し、父はいつになく穏やかでみのある声で返した。
「分からんでいい。械のことが本当に分かるは、うちのにはもうちゃんと育ってる」
父は湯呑みの茶を静かに啜り、線をくに泳がせた。
「の配置もな、来のになったら全部根本から考え直す。そのに、おにも職たちにも、まとめて話すつもりだ」
広告
普段、めったに先の展望をにしない父が、これほど確に未来を語るのは極めて珍しいことだった。私は胸の奥で、嬉しさと正体の怖れが入り混じるのをじ、うまく言葉を返すことができなかった。
産栄計測から打診された増産分の部品は、アンの担当する号で削る段取りになっていた。
量産に先つ最初の試作ロット個の加責任者として、父は程管理表に迷わずアンの名を太い文字でき込んだ。技能検定級の格通が届いた翌朝のことである。
ところが、その翌朝。
私が何気なくのホワイトボードの程管理表に目をやると、黒々とかれていたアンの名が無残に消され、そのに赤マジックで「川・岩佐」と乱暴にき直されていたのだ。
「! これはどういうことですか? 社はアンさんに任せると決めていたはずです!」
私が抗議の声をげながらへ駆けりると、川は号ので腕を組んだまま、振り返りもしなかった。
「検定試験と現の実戦は別物なんだよ、お嬢。切れの資格を取ったからって、客の板がかかった本番部品を削れるわけがねえだろうが」
「でも、アンさんは級の技能検定に――」
いがる私に対し、川はようやく鬱陶しそうに振り向いた。そのは険しく尖っていた。
「級だろうが何だろうがな、ベトナムの若造に産栄さんのしい仕事を任せて、もし削り損じの傷でもつけたら、体誰が先方にをげるんだ? あんたがげるのか? ええ?」
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
貧乏老人を嘲笑った行員の末路
「あんな貧乏臭い爺い、適当にあしらっとけばいいのに」ボストンバッグを抱えた老人に、新入行員は嘲笑の声を浴びせ、エリート課長代理は別の窓口へ強制的に追い返した。母親の入院費のため百万を引き出しに来ただけの、よれよれのジャケットを着た年寄り――。だが、彼こそが全日本経済の裏を牛耳るクオンホールディングスの会長・久音次郎その人だった。侮辱に耐えかねた新人の篠崎水希が一人で抗議する中、老人が静かに古びたバッグの金具を閉じた瞬間、端末の画面で一千万円、一億円と出金通知の数字が狂ったように跳ね上がり始めた。絶望の淵に立たされた傲慢な行員たちの運命を決定づける、驚愕の審判の行方は――。職場逆転|修羅場1.6万字5 1869 -
完結第10話
実家のオンボロ工場を笑った次期社長を54階へ案内した
長年勤めた会社で、俺は「会社の金を着服した犯人」に仕立て上げられた。仕掛けたのは、幼い頃から貧しい実家を嘲笑い続け、社長の座に就いた幼馴染・元村だった。データを消され、嘘の噂を広められ、最後には経理の取り巻きまで使った罠で退職へ追い込まれる。祖父母を亡くした俺を拾い、育ててくれた恩人の会社だったからこそ耐えてきたが、犯罪者の濡れ衣まで着せられた瞬間、俺はついに決断した。「辞めます」と。すると元村たちは、俺が“オンボロ工場”へ落ちぶれるのだと大喜びし、見物させろとまで言い出した。俺は静かに笑って彼らを案内する。だが彼らは知らない。あの古びた工場の先に、俺がこれから向かう本当の場所があることを――。そしてエレベーターが54階へ上がった時、元村たちの顔から笑みが完全に消え始める。職場逆転2.0万字5 1706 -
完結第15話
不当解雇された高卒技術者の特許逆転劇
精密機械メーカーの技術者・中村誠は、高卒叩き上げであることを理由に、名門大卒のエリート上司・北川部長から「掃除とオイル交換しかできない無能な雑用係」と見下されていた。ある日、大口顧客向けの製品に二百個超の大量不良が発生。北川は自らの設定ミスを隠蔽し、誠を犯人に仕立て上げて責任を押し付ける。深夜に真相を暴くアクセスログのUSBメモリーを確保した誠だったが、直後に車に撥ねられ全治三ヶ月の重傷を負ってしまう。病室から連絡を入れると、北川は「好都合だ、クビにしておく」と嘲笑し電話を切った。だが誠が病室のベッドから特許庁へ出願した一枚の技術書類と、彼が去って完全沈黙した工場の製造ラインが、欺瞞に満ちた組織に前代未聞の崩壊をもたらす――。職場逆転|人生逆転2.5万字5 431 -
完結第10話
廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親
廃業寸前の豆腐屋を営む俺の前に、4歳の娘を連れた美咲が「ここで働かせてください」と突然現れた。行く場所もなく、公園で夜を越そうとしていた親子を放っておけず、俺は店の2階に住まわせることにする。ところが、ただの訳ありシングルマザーだと思っていた美咲の正体は、東京大学大学院を卒業し、大手食品メーカーで商品開発を担っていた元研究員だった。彼女の知識で売れ残っていた豆腐は息を吹き返し、止まりかけた俺の人生まで少しずつ動き始める。だが、突然現れた元上司が「研究資料」を持ち出した疑いを突きつけ、根も葉もない噂によって取引先まで離れていく。迷惑をかけたくないと姿を消す美咲を前に、俺はもう見て見ぬふりをしないと決めた。彼女の潔白と、この店で一から積み上げたものを証明するため、俺は過去と向き合う――。そして2人の再起は、まだ誰も想像していなかった次の一手へと動き出す。職場逆転|修羅場2.0万字5 327 -
完結第14話
高卒エースを掃除係に落とした無能社長
大手玩具メーカーの営業エース・篠田零司は、高卒叩き上げながら十二年間にわたりトップの成績を維持してきた。だが、恩師である先代の矢吹会長が病で倒れ、新社長に就任した倉島哲也から全社報告会で突如「先月の達成率は三十パーセント、部内最下位のお荷物だ」と虚偽の数字で公開処刑される。強烈な学歴コンプレックスと嫉妬を燃やす倉島は、篠田を社長室の雑用係へと追いやったばかりか、彼が一年かけて心血を注いだ総額百億円の大型独占契約を故意に破談へ追い込む暴挙に出る。しかし、篠田の手元には「確定売上高一億四千二百万円」を証明する売上管理ファイルの原本が存在していた。理不尽の極みの中で静かに退職届を差し出した篠田。だが、現場の異変を察知した車椅子の矢吹会長が立ち上がり、握りつぶされた証拠が暴かれたとき、欺瞞に満ちた社長室に前代未聞の鉄槌が下される――。職場逆転|人生逆転2.9万字5 208 -
完結第10話
操縦桿が壊れた旅客機を救った町工場の技術者
太平洋上空1万メートル、機長と副操縦士が同時に意識を失い、300人を乗せた旅客機が墜落を始めた。 小型機の免許を持つ乗客が操縦桿を握るも、かえって機体は失速。絶望するチーフパーサー・長谷川絵里の前に現れたのは、パイロットではなく小柄な日本人技術者・佐藤だった。彼女は壊れた操縦桿には触れず、自ら設計に関わったフライトコンピューター、トリムホイール、左右のエンジン出力だけで機体を立て直す。しかし操縦系統は完全に死に、雷雲と燃料切れが迫る中、地上の専門家は「夜の太平洋へ不時着水せよ」と通告する。生存率は2割以下。それでも佐藤は羽田への着陸は理論上可能だと言う。残された条件は、絵里と300人の乗客が彼女の数字を信じ、一度きりの着陸にすべてを賭けることだった――。職場逆転3.6万字5 1353 -
完結第14話
雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長
病気の母の療養のため帰国し、学歴を「中卒」と偽って中小IT企業「藤山システム開発」に入社した森本大河。しかし傲慢な女社長・藤山薫からは「引きこもりの変人オタク」と蔑まれ、社運を賭けた百億円の新システム開発から外され雑用掃除係に追いやられてしまう。 だが大河の真の姿は、ハーバード大学を早期卒業しMIT大学院を修了した、世界が畏怖する伝説のスーパーホワイトハッカー「ミスター・モリティー」だった。迎えた海外メガIT企業首脳陣との商談当日、手配されていた通訳3名が全員ドタキャンし絶体絶命の危機に陥る。 「失敗したらクビ」と責任を押し付ける女社長の前で、大河が手元のコントローラーを操作して口を開いた瞬間、会議室の空気が一変する。そして明かされる社長の巨額不正と、タブレット端末に隠された決定的な証拠の行方は――。職場逆転|裡の顔1.9万字5 237 -
完結第24話
目覚めた部下にクビを問われた
地方旅館の火災で客を救い出し重傷を負った部下が目を覚ました。だが彼女の記憶は直近の二年分が抜け落ち、着任初日の私が冷酷に解雇を迫った日のまま止まっていた。会社は避難扉が開かなかった責任を彼女の記憶喪失に乗じて背負わせようと、退職金の支払いを口実に過失を認める書類への署名を病室で迫る。何も思い出せない部下は震える手でペンを握り、かつて自分を追い詰めたはずの私を怯えた目で見つめた。職場逆転|真実|裡の顔|修羅場3.7万字5 700