みかん小説
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"七通の退職届と八十件の着信" 第8話

川の背で、岩佐さんが申し訳なさそうに線を泳がせ、平野くんは聞こえないふりをして汎用旋盤のハンドルを必に回していた。

「数だけ揃えて、国をいくら並べたところで町は回らんのよ。このを回してんのは、俺たち本のベテランなんだ」

川は誰に聞かせるでもなくそう吐き捨てると、胸ポケットの黒い帳を乱暴に押し込んだ。

号のでは、アンが何も言わず、ただ静かにウエスで具の油を拭き取っていた。その背は、壁に格証を貼りしたよりも、回りも回りもさく見えた。

悔しさに震える私は、すぐに事務所へ駆け戻り、社の父に詰め寄った。

「お父さん、止めてよ! あんなの絶対に違ってる!」

しかし父は、静かに窓ののを見つめたまま、首を横に振るだけだった。

「……朋子、しばらくは川の好きにさせておけ。になったら、すべてが変わる」

「まで、アンさんはどうするのよ! あんな理尽に耐えろって言うの!?」

をわにする私に対し、父は静かに、けれど揺るぎない確信を込めて言った。

「アンは丈夫だ。あいつは、その程度の理尽で腐るような器のさな男じゃない」

父の言葉通り、アンはその週も、何事もなかったかのような穏やかな顔で、毎朝誰よりもくに勤し、械の入れを続けていた。

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、曜。

そのの朝、私は自宅で勤の支度をえていた。父はいつものように、朝の澄んだ空気のを半過ぎにへ向けてをしていた。

分、私のスマートフォンが激しく振した。

画面には「ホアン」の文字がっていた。胸騒ぎを覚えながら通話ボタンを押すと、受話器の向こうから、これまでに度も聞いたことがないほど激しく震えるホアンの叫び声がび込んできた。

「社、社さんが……倒れました! 今、救急を呼びました!」

私は羽織る着すら掴むもなく、鍵をひっつかんでへび乗った。

自宅からまでは、普段ならで分ほどの距だ。しかしその朝の赤信号の数々は、永の拷問のようにくじられた。

の鉄のには、すでに赤灯を激しく点滅させた救急が滑り込んでいた。の脇でち尽くしていたホアンが、私の姿を認めるなり、蒼な顔で駆け寄ってきた。

「社から……ドスンと、すごくきな音がして……見にったら、社さんがに……」

ホアンはそこまで言うと、血が滲むほどく唇を噛みしめた。

靴のまま社へび込むと、父がたいリノリウムのに仰向けに倒れていた。フックが必の形相で父の胸のに両をね、体をかけて臓マッサージを繰り返していた。

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アンが駆けつけた救急隊員たちを声で誘導し、部のへと招き入れているところだった。

「お父さん! お父さんッ!」

私がどれほど叫び、その頬を叩いても、父の瞳がくことはなかった。

担架に乗せられ、慌ただしく運びされていく父の背を追おうとした瞬、私の腰が社の製デスクの角に激しくぶつかった。

机のには、黒いボールペンが本、力なく転がっていた。

そのすぐ脇に、枚の方が置かれていた。

番には、見慣れた父の几帳面な字で『本の段取り』とかれていた。

しかし、そのに毎朝几帳面に並べられていたはずの緻密な数字の列は――目の途で、細く歪んだインクの染みを残したまま、ぷっつりと途切れていた。

父は、救急搬送先の民病院の処置で、そのの午分、息を引き取った。

因は急性筋梗塞。享だった。

の晩まで、いつものように晩酌のビールを喉に鳴らし、テレビのプロ野球継を見ながら審判の判定に文句をつけて笑っていただった。医師からされた徹な宣告を聞きながらも、私のは真っで、何つとして現実の来事として受け止めることができなかった。

病院のたい廊の子には、油の匂いのする作業着のまま駆けつけたホアン、アン、フックのが、を寄せって肩を落としていた。

彼らは救急が発した、フックの古い軽自に乗って必に追いかけてきたのだという。

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