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"七通の退職届と八十件の着信" 第9話

「私が見つけるのが……もっとければ……」

ホアンが作業着の膝ので両拳をくなるほど握りしめ、ぽろぽろと涙をこぼした。フックが静かに首を横に振った。

「ホアンさんがすぐに気づいてくれなかったら、救急を呼ぶのはもっと遅くなっていました」

アンは何も言わず、ただ固く結ばれた処置のいドアを、穴が空くほどじっと見つめ続けていた。

川が病院の待に姿を現したのは、計の針がを回った頃だった。

「……そうか」

医師から状況を聞いた川は、の読めない声でくそれだけ呟くと、すぐに廊の端へと歩み寄り、携帯話を取りして誰かと声で話し始めた。

はそのから臨休業となった。

通夜はの曜、告別式は翌の曜に、内の斎で執りわれた。

父の突然のを悼み、隣の町の社たちや取引先の関係者が、驚くほど勢参列してくれた。

材料の仕入れ先である丸井鋼材の伊藤社は、受付で典袋を差ししながら、真っ赤に充血した目を拭っていた。

「浩さんにはな……うちが若い頃、資繰りで倒れそうになった、何度も無利子で助けてもらったんだよ。まだすぎるよ、逝くにはすぎる……」

取引先である産栄計測からも、槻購買部と品質保証課の野さんが揃って焼に訪れてくれた。

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「森さん、の納期や再のことは、すべて落ち着いてからで構いませんから。まずはお父様を、置きなく送って差しげてください」

野さんはそう言って、え切った私の両を、温かい掌で包み込んでくれた。

通夜の、取引先への連絡や葬儀の配に追われていた私に対し、川はこう申していた。

「の段取りや客への連絡は俺が全部見とくから、お嬢は葬式の段取りだけやってりゃいい。現の素が変にをすと、かえって話がこじれるからな」

その言葉を信じ、私はの線話の対応を、ほとんど川に任せきりにしてしまっていたのだ。

葬儀の席には、社員全員が顔を揃えていた。

アンは焼の列に並びながら、声を殺して肩を激しく震わせていた。フックはずっと唇を真文字に結び、遺の父を凝していた。ホアンは斎の入の隅にち、のを帰っていく会葬者のに対し、腰を度に折ってくをげ続けていた。

そして川は、喪の胸ポケットに、あの黒い帳の角を覗かせていた。

通夜が終わり、参列者が引けた斎の暗い駐で、私は川が岩佐さんたち本職を円陣のように取り囲み、っぽく話し込んでいる姿を目撃した。に携帯話を押し当てたまま、誰かと声を潜めて交渉している。

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私が審にって音を忍ばせてづくと、職たちの輪は蜘蛛の子を散らすようにパッとれた。

「お嬢……この度は、本当にご愁傷様でした」

川は神妙な顔を取り繕って々と礼したが、その線はどこか虚ろだった。若の平野くんだけが、私と決して目をわせようとせず、そそくさとへ乗り込んでいった。

すべての葬儀程を終えた曜の夜、私は吸い寄せられるように、きりで真っ暗なへとを運んだ。

誰もいない自宅のリビングにいると、父が用していた湯呑みや、老鏡、読みかけの業界聞が目に入り、胸が締め付けられて息ができなくなったのだ。

ブレーカーをげると、灯がジジジと音をてて灯り、え切った作械の無骨なが浮かびがった。昼ならをつんざくような切削音に満ちているはずの空が、墓のように静まり返っている。

社のドアをけ、蛍灯を点けると、主を失った回転子がそこにあった。

背もたれの皮は擦り切れて破れ、座面の央は父の体の形にく窪んでいる。壁の打ち込み釘には、油と汗の染み付いた父の作業着が、脱ぎ捨てられたの形のまま掛けられていた。袖の糸はほつれ、胸には褪せた赤い刺繍で『森浩』の名が入っている。

私は引き寄せられるように、その子にそっと腰をろした。

ギシッ、と、父がいつも座るに鳴らしていたのと全く同じ軋み音が響いた。

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