みかん小説
本棚

"七通の退職届と八十件の着信" 第11話

昼休みを過ぎた頃から、のロッカールームで穏な物音が響き始めた。職たちが自分のロッカーを乱暴にけ閉めし、私物をダンボール箱に詰め込んでいるのだ。私は胃の腑が雑巾のように絞られるような嫌な予を必に押し殺し、事務所で震えるで伝票理を続けていた。

そして午。事務所の引き戸が、乱暴な音をててけ放たれた。

川を先にして、本職が無言のまま列になって事務所に入ってきた。

全員が私物を詰め込んだ茶いダンボール箱を両腕に抱えており、それを受付カウンターの脇にドサリ、ドサリと鈍い音をてて積みげた。岩佐さんも、平野くんもいた。

川は私のデスクのに歩みると、ポケットから取りしたい封筒の束を、机のに無造作に放り投げた。

「俺たちは、全員独します」

瞬、自分が何を言われたのか、脳の理解が追いつかなかった。

「本付で、ここにいる全員を辞めさせてもらいたい。隣町の業団に、しいはもう配してあるんでね」

喉がカラカラに干からび、絞りすようにしてようやくた私の声は、けないほど擦れていた。

「……こんなに、ですか? 産栄計測さんの部品の加は、まだ途です。今の納品分だって、あと週もないんですよ。

広告

今、現の職全員に抜けられたら、会社が回りません!」

「それは、残された会社の経営問題でしょうが。俺たち辞めるが決めることじゃない」

川は私の痛な叫びを、酷な刃物のように途で叩き切った。

岩佐さんは線をわせず、靴の先を見つめている。平野くんは瞬だけ、パーテーションの奥にあるパソコン部の方向へ線をらせたが、すぐに罪悪に耐えかねたように目を伏せた。

「社には悪いが、俺たちにも守るべき活があるんでね。先代がポックリ逝っちまって、械のこともらん素の娘が継いだ先の見えない舟に、族のを預けるわけにはいかんのですよ」

川は私の目を決して見ようとせず、机のの退職届の束の端を指先でトントンと揃えた。

活のため、族のためと尤もらしい理屈を並べててはいたが、その横柄な態度の裏にある本音は、顔に骨なほど透けて見えていた。

『現の技術をに握っている俺たちベテランが全員抜ければ、この会社は即座にちかなくなって倒産する』

そう確信し、優越に浸っていることがにとるように分かった。

私は全から血の気が引くのをじながら、必に彼らを引き止める言葉を探した。しかし、激しい絶望の渦ので私の脳裏に蘇ったのは、の父がかつて酒の席で漏らしていた、あの厳しい言葉だった。

広告

『朋子、いいか。嫌々ここにいるような職には、絶対にうちの械を触らせるな。がれた職の刃物は、必ず製品を殺す』

私はく、く息を吸い込み、机に両をついてちがった。

「……分かりました。引き止めません。退職の続きに必な職票や類は、急に郵送します」

私の凛とした返答に、川は拍子抜けしたように眉をげ、ふんとで嗤った。

「へえ、さすが元信の腰掛けお嬢様だ。話がくて助かるよ」

職たちは再びダンボール箱を抱え直し、川のに続いて無言のまま事務所をていった。

胸を突くような焦燥に突きかされ、私も彼らのを追ってのへとびした。

のたいが吹き抜ける、の男たちはののでを止め、斉にこちらへ向き直った。いつのにか私の背には、作業着姿のアン、フック、ホアンのが、息を詰めて寄り添うようにっていた。

「腕のある職は、全員こっちに来る」

川は、の先で胸を張り、改めて見せつけるように言い放った。

父の葬儀が終わった、まさにその翌。

その朝、父の遺志を継いで会社の代表になったばかりの私に向かって、川は源の落ちた内をぐるりと見渡し、私の背のを瞥した。

「まあ、ベトナムとうまく頑張るこったな」

川はの端だけで嘲笑を浮かべていた。

この男は、最までの名を度もにしなかった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: