"消された十六番目の席" 第2話
の歳と奪われた
私は元のさな運送会社で、週に、経理のパートをしている。 夫の正幸が歳の若さで筋梗塞で急逝したのは、ののことだった。 、私が歳、夫が歳のに建てたこの造階建ての。当まだ歳だった輔を抱え、切り詰めた活のでかけて宅ローンを完済した、私たちの血と汗の結晶だ。
も建物も、夫のはすべて私の単独名義になっていた。 「は母さんがそのまま持っていればいいよ。相続とか面倒だしさ」 夫のの席で、輔はあっけらかんと言った。 それから、私は広すぎるで暮らしをしていた。夜になると、古い蔵庫の唸るようなモーター音だけが響く。夕を分だけ作ることが、これほど侘しいものだとはらなかった。もの、夫と息子のためにを作り続けてきた私のは、分の加減をどうしても覚えられなかったのだ。
そんな静寂のに、の、輔が結婚目になる嫁の麻美を連れて転がり込んできた。 「母さんがで広いにいると配だからさ。同居してやるよ」 輔が玄関でそう言った、私は正直、胸がくなるほど嬉しかった。老の孤独から救われたのだと、愚かにも信じ込んでしまったのだ。
広告
だが、同居活が始まって半が過ぎた頃から、のの空気が奇妙な歪みを帯び始めた。 輔が計に入れるは、費という名目のわずか万円だけ。 実際には、の費は万円を超え、気、ガス、などの費だけで万円くかかる。宅の固定資産税、災保険料、修繕積に至るまで、りない差額のすべては、私のパート代と夫が遺してくれた遺族から補填されていた。 輔は事務器メーカーの営業で取り万円以、麻美は専業主婦でへ働きにる気配すらない。それでも私は、「息子夫婦と緒に暮らせるのだから」と、自らを納得させていた。
「お母さん、この飾り棚、邪魔だから粗ゴミにしましたよ」 あるのの夕方、パートから帰宅した私が目にしたのは、リビングの壁際にぽっかりと空いたい空だった。 を築した際、夫と具を軒も回って選んだ、いのナラ材のサイドボード。 棚の段には夫が旅先で集めていた萩焼や備焼の湯呑みが並び、段には輔が学の図のに作った粘の貯箱が切に飾られていた。
「捨てた……って、あんな切なものを?」 震える私の声に、ソファで寝転がってスマートフォンをいじっていた麻美は、顔もげずにを鳴らした。
広告
「古い具って部が暗くなるんですよ。湯呑みとガラクタはダンボールに入れて廊の隅に置いてありますから。いらなければご自分で捨ててくださいね」
その夜、帰宅した輔に相談した私を待っていたのは、息子の酷な言だった。 「母さんももうだろ? 若い俺たちがみやすいようにするのが普通じゃん。棚のつくらいで麻美を責めるなよ」 責めたつもりなど毛なかった。ただ、夫とのいが宿る所を、言の相談もなく処分されたしみを訴えたかっただけなのに、輔のではすでに「うるさい義母がな嫁をいじめている」という構図に変換されていたのだ。
揉め事を嫌う私の沈黙。 それこそが、この若い夫婦をどこまでもつけがらせる、最悪の免罪符になっていたのである。
広告
おすすめ作品
-
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 523 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 632 -
完結第35話
七通の退職届と八十件の着信
父の葬儀の翌日、新社長となった私の前に並べられた七通の退職届。勤続三十四年の工場長は「ベトナム人と頑張れよ」と日本人職人全員を引き連れて会社を捨てた。機械の知識ゼロの私に残されたのは、残留したベトナム人三人と言葉を失うほどの短納期。だが五日後、私の携帯にその工場長から届いた着信は、実に八十件――。腕利きを誇った男が、なぜ無様に縋り付いてきたのか? その謎は、男が肌身離さず持つ「黒い手帳」と、父が遺した一冊の分厚い綴りに隠されていた。「……出ないわ」私は震え続けるスマートフォンの拒否ボタンに指を置いた。職場逆転|人生逆転5.3万字5 346 -
完結第16話
四十九日の追放、母の隠し遺言
「十年世話しただけの妹に、実家の取り分はないわ」 母の四十九日、喪服の兄夫婦は親族の前で澄子を指差し、台所の冷えた板の間へ追いやった。信金を辞め10年間、720万円の私財を投じて母を看取った澄子に、兄は「今週中に出て行け」と冷酷に通告する。 母のキャッシュカードは7年前から兄が独占し、消えた年金は1240万円。 家財すべてが二束三文で業者に売り払われようとする中、母が50年愛用した古い足踏みミシンの奥底から、厳重に隠された「ある物」が滑り落ちた。 「その言葉、そっくりそのままお返しします」 あの日からちょうど49日後、審判の幕が上がる――。兄弟姉妹|修羅場2.3万字5 465 -
完結第27話
妻を追い出した翌朝、7枚のブラックカードが止まった
結婚3年目の夜、美桜が帰宅すると、夫・達也は若い愛人と義両親を囲み、離婚届を突きつけてきた。「無能で地味な女」「1円も稼げない寄生虫」と嘲られ、慰謝料もなく豪邸から追い出される。 だが4人は知らなかった。美桜の正体は、世界経済を動かす巨大グループの総帥。倒産寸前だった達也の会社を救い、資金も仕事も与え、彼を“天才社長”に見せていたのは全て美桜だった。 さらに豪邸も別荘も、7枚のブラックカードも、達也自身の資産ではなく美桜の法人名義。 離婚届が受理された瞬間、美桜は静かに全カードを停止し、豪邸の退去手続きと会社への特別監査を開始する。 勝ち誇っていた一家がまだ知らない、本当の“無一文”への転落が始まろうとしていた――。修羅場|熟年離婚4.0万字5 319 -
完結第16話
血染めの写真と三文字のSOS
夕方のコンビニの床に落ちていた一枚の写真。微笑む少女の横には、まだ乾ききっていない赤黒い生血がべっとりと付着していた。 裏返した瞬間、息が止まる。震える筆跡の住所と、指先の血で擦り付けられた『SOS』の三文字。 妻に捨てられ、八歳の息子と写真館を営む私には分かった。この血は付着して数分も経っていない――今すぐ行かなければ手遅れになる。 警察に通報し駆けつけた古い民家の階段下には、右足を骨折し倒れ伏す母親と、自らの手のひらを切り裂いた六歳の少女がいた。 「……だれ?」 母を庇い、血まみれの手で私を睨み据える少女の瞳が訴えていた、あまりに残酷な真相とは。親子関係|金銭問題2.4万字5 212 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 3764 -
完結第11話
貧乏老人を嘲笑った行員の末路
「あんな貧乏臭い爺い、適当にあしらっとけばいいのに」ボストンバッグを抱えた老人に、新入行員は嘲笑の声を浴びせ、エリート課長代理は別の窓口へ強制的に追い返した。母親の入院費のため百万を引き出しに来ただけの、よれよれのジャケットを着た年寄り――。だが、彼こそが全日本経済の裏を牛耳るクオンホールディングスの会長・久音次郎その人だった。侮辱に耐えかねた新人の篠崎水希が一人で抗議する中、老人が静かに古びたバッグの金具を閉じた瞬間、端末の画面で一千万円、一億円と出金通知の数字が狂ったように跳ね上がり始めた。絶望の淵に立たされた傲慢な行員たちの運命を決定づける、驚愕の審判の行方は――。職場逆転|修羅場1.6万字5 1921