みかん小説
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"空の米びつと一合の嘘" 第1話

空っぽの米びつ

「奥さん、うちの米、またないんと違いますか」

昭、阪の満にい裏通りで、米の配を受け取った千枝が、のから声をげた。千枝の腕には歳になったばかりの末娘が抱かれ、元には学帰りの男がっていた。千枝はの子を育てていたから、へ持ち帰る米がどれほどの量か、袋の膨らみを見ただけでも方分かった。

米穀配所の板が掛かったそのを、所の者は昔から「の米」と呼んでいた。の女将、フミは歳。夫をにくし、歳の男・勇と歳の娘・澄、歳の末息子・弘を抱え、どうにかを続けていた。以のように自由に米を仕入れて売れる代ではない。割当てと帳面と受領の印が商売のすべてになり、それでも先には毎回、べ盛りの子を持つ母親がい列を作った。

「決められた分を量ってますよ」フミは枡を伏せ、細い指で米粒を箱へ戻した。千枝は袋のをき、持ってきたの枡を見せた。「先もらんかった。うちの枡では、ほどないんです。お宅の枡が違うんやないですか」。背で待っていた女がさくうなずいた。フミのは瞬止まったが、「ご満なら役所でお尋ねください」とだけ言い、次の引換証に目を落とした。

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「役所へけ、言うたな」。千枝の声がくなる。「ってきます。そやけど、そのに、みんなのでもう遍量ってほしい」。フミは顔をげなかった。列のろでは、袋を抱えた男が「わしのとこもなかった」と言った。その声が隣へ、さらに隣へ伝わった。フミは、もう次の袋へを伸ばすことができなかった。

そのの夕方、を閉めたフミは、に落ちた米粒を本ずつ拾った。澄は学から戻ると、帳の横に置かれた帳面をそっと閉じた。「お母ちゃん、今も揉めたん?」と尋ねると、フミは「おは宿題しい」と答えた。米粒が粒、掌に載っている。フミはそれを捨てず、さな包みに移した。弘が学へ持っていく弁当にはも麦と芋を詰めるしかなかった。

勇は港の荷役から帰ると、台所の米びつをけた。底板が見えた。指で探っても、隅に乾いたが残るだけだった。鍋にはえた麦粥があり、茶碗つに分ければ底が見えるほどの量しかない。「には米があるのに、にはないんか」。勇が聞くと、フミは「の米にぇしたらあかん」と即座に答えた。「せやから、おらにもべさせられへんのや」。

「客の分を抜いてるいう噂、ほんまなんか」。勇は母の顔を見た。フミは言い返さず、を洗った。爪のにはい米のが入り込んでいた。

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勇がもう度問いただすと、フミはたったつだけ言った。「あんたは、の奥のきい帳面を見るな」。答えになっていない言葉だった。勇はそれ以、母を責められなかった。

翌朝、先にはを超えるが集まった。千枝が先にいた。「今は全部、ここで量り直してもらいます」。誰かが裏を押し、男が勝に台所を覗いた。「ため込んでるんやろ」と叫びながら米びつの蓋をける。そのの空気が変わった。米びつは空で、竈の脇には昨夜の麦粥の鍋しかなかった。

フミは侵入した男を叱らなかった。ただ、米びつを見つめる千枝に言った。「うちも、今朝はべてません」。千枝は唇を結んだ。目のにいる女将が嘘をついているのか、本当に飢えているのか、判断がつかなかった。だがなく渡された米が戻るわけでもない。千枝は空の米びつので、の受領帳を見せるよう求めた。

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