みかん小説
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"昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由" 第4話

戸倉作業所

戸倉作業所は寺からを里らずった所にあった。薪と材を集め、町へ運ぶための作業で、若い男たちだけでなく隣の女性も勤労作業へているという。正雄たちは所をっていたが、ったことはない。寺をれて勝に歩けば、疎先を放りされるかもしれないと井から繰り返し言われていた。

それでも正雄は、曜の薪集めの帰りにをれた。同したのは節子だけだった。い沢を渡るはで滑り、落ち葉のには凍ったがある。節子は何度もち止まり、「妙子が配なのは分かるけど、帰れなくなったらどうするの」と言った。正雄も怖かった。ただ、俵が俵になる理由を自分の目で確かめたかった。

作業所に着くと、男たちが丸太をそりへ積んでいた。炊事の煙突から煙ががり、戸には米俵を積んだ荷がまっている。正雄は納の柱と同じ印を見つけた。戸倉の名がかれた札が結びつけられ、そこには寺へ運ばれるはずの納入業者の号も記されていた。

「何をしてるんだ」。背から声がした。現れたのは作業所の帳付けをしている池という男だった。正雄が寺の疎児童だと名乗ると、池は目を細めた。「ここは遊びに来る所じゃない。危ないから帰りなさい」。節子が先にをげたが、正雄はをかせなかった。

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「僕たちの米が、ここへ来てるんですか」。

池はしだけ顔を変えた。「誰に聞いた」。正雄は答えなかった。池は子どもを炊事のへ連れていき、周囲に聞こえない声で言った。「寺と作業所の糧のやり取りは、町で決めたことだ。おたちがを挟む話じゃない」。そう言うと、仕事へ戻ってしまった。

節子が帰ろうと正雄の袖を引いた。その、作業所の奥から若い女がてきて、桶のを捨てた。には赤くひびが入り、顔が悪い。正雄が「ここで働いてるんですか」と尋ねると、女は笑った。「が暮れるまで。うちにはべるがいるから」。節子が寺から米が来ているらしいと話すと、女は笑みを消した。

「それなら、なぜうちのたちには、今の糧が減ったって言うのかしら」。女は周囲を見回した。「作業の数は増えたのに、飯は増えない。責任者は寺の子がいから仕方ないって言ってる」。正雄と節子は顔を見わせた。寺では作業所へ米がき、作業所では寺の子がべているからりないと言われている。どちらのも、同じように腹を空かせていた。

寺へ戻ったには、夕の鐘が鳴っていた。井がで待ち構えていたが、りはしなかった。の顔を見て、「無事に帰ってきてよかった」と言っただけだった。だから正雄の方がたまらなくなり、何を見たか全部話した。

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作業所の女もべ物に困っていること、町の決定だと言われたこと、納入業者の印が寺の俵と同じだったこと。

井は静かに聞き終えると、を本堂へ通した。机のには、このの糧配分を示す枚のがあった。寺の児童分として配された米は俵。そのうち俵を、の補修と薪運搬に当たる作業所へ回すことが決まっていた。のが使えなくなれば、寺へも薬や薪を運べない――そんな説が添えられていた。

「必な事なんですね」。節子が尋ねた。井は頷いた。「そうだ。が閉ざされれば、妙子を医者へ連れていくこともできなくなる」。正雄はを見つめた。「だったら、僕らに話してくれればよかった」。井はを握りしめた。「説を受けた、私も反対した。だが、ここを受け入れてくださったを困らせたくなかった」。

正雄は、あのみんなで箸を置いたことをいした。妙子にべ物が届いているか確かめたかっただけなのに、寺を支えるも、そこで働くの事も関係していた。ならば仕方がないと黙るべきなのか。しかし本堂へ戻ると、郁夫が膳のさな芋をつに割り、そのさい方を隣の子へ渡していた。これ以、子どもたちにさせてよいともえなかった。

夜遅く、井はで町の役へ向いた。

正雄は廊からその背を見送った。翌朝、役から届いた返事にはい文章があった。「既定の配分を変更する予定なし」。そして末尾には、寺の糧を受け取った責任者として井の名が記されていた。正雄が最も引っかかったのは、その横に押された印だった。先がいつも使っている、朱肉の欠けた印とまったく同じだった。

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