みかん小説
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"昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由" 第6話

消される

通に並んでいたの名を、正雄は何度も読み返した。妙子、郁夫、信子、それにまだ歳のさな児童まで入っている。誰も寺をれる予定はなく、保護者へした況報告にもそんなことはかれていない。なのに町の類では、来から分の事を用しなくてもよいことになっていた。

「先がいたんじゃないんですか」。勇吉がると、井はる代わりに首を振った。「この字は私のものではない」。しかし類に押された印は本物らしかった。井は毎晩、机の引きしに印箱をしまい、授業のだけ取りしていた。鍵はかかっていない。そこへ触れることのできたはではなかった。

職の玄が通を見て、しばらく目を閉じた。「この寺から児童をす話など、度も聞いておらん」。しのも台所からてきて同じことを言った。井はそので町へく支度を始めたが、正雄は袖をつかんだ。「先、僕らはどうなるんですか」。答えがせないまま、井は膝をついた。「今夜は何も決めさせない。まず類がどうしてできたのか確かめる」。

の名を聞いた子どもたちは揺した。自分が選ばれていなくても、次には誰が消されるか分からない。郁夫は正雄の布団へ潜り込み、京へ戻されるのか、どこかのに預けられるのかを何度も聞いた。

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正雄は答えをらない。ただ「今夜はここにいる」と言って、郁夫のたいを握っていた。

翌朝、井は役から戻るなり、授業を休みにした。町の古川は通がすでに処理されていると言い、「疎児童の部を分散させる計画があった」と説したという。井が誰の許か尋ねると、古川はの役所へ確認しろと繰り返すばかりだった。原本を見せることも拒んだ。

「分散というのは、何ですか」。節子が聞いた。井は、児童を数ずつ隣の庭へ預けることもある、と説した。しかしこの寺にはで暮らすための約束があり、児童の居所を変えるには保護者と学への連絡が必なはずだ。正雄は、からくれたで、さらにずつ別のへ散らされる景を像して息苦しくなった。

正雄たちはせめてれの妙子には事を伝えようとしたが、しのに止められた。「あの子にはがあるの。怖がらせないで」。代わりにたかが湯みを持って部へ入った。帰り際、たかは正雄に打ちした。「妙ちゃん、昨の晩に帳付けのおじさんの名を聞いたんだって。池さんじゃない」。その名は、糧係の古川だった。

そのの午、正雄の母から便りが届いた。封筒は煤で汚れ、便箋の隅には妹が描いた丸いがある。「寒いでしょうから、邪をひかないように。

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そちらではべ物を分にいただいていますか」。正雄はそこでを閉じた。分なべ物があるとけば嘘になる。ないとけば、母はどうするだろう。

夕の席では、昨までがっていた勇吉が飯を急いでべた。節子は正雄にだけ聞こえる声で言った。「私たちが箸を置いたから、のはったのかな」。正雄は首を横に振った。事を拒んだのは違っていたかもしれない。それでも、あの夜黙ってべていれば、の名が消されることを誰もらずにいた。

夜半、井は印箱を調べ始めた。朱肉の底には細いの切れ端が挟まっており、見慣れない茶の封筒の繊維がついていた。寺で使ういとは違う。井がに取った、しのがから声をかけた。「昨の古川さん、先がお留守のに机のものを探していましたよ」。先はようやく、自分のらないところで何が使われたのかを悟った。

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