みかん小説
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"昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇" 第2話

乗客

「うちの母は、半までに病院へかなければならないんです」

最初に清徳へ歩み寄ったのは、歳くらいの女性だった。名は具志堅信子。母親が定期な治療を受けており、きょうの午にも医師と会う約束をしているという。母親のタエはが悪く、内のい座席に座っていた。信子が言うことを聞きながら、清徳は別のを使う方法を考えたが、庫の型バスはほとんどが既に各線へる準備を終えていた。

若い男はのホテルで働いていると訴えた。「今は休めん。きのうまでと違って、の向きが変わったからって客は待ってくれない」。その横では学の兄妹が、母親の買い物袋に腰掛けていた。兄の方は交通方法変更の記に配られたの旗を握っている。世ののきな来事も、子どもにとっては最初のうち祭りのように映るのだろう。

清徳は苗に乗客のき先をずつ聞き取ってもらうことにした。のでりる、病院までく、乗り換えの必な。全員をつので運ぼうとするから無理がじるのかもしれない。事務所の机に並べた運表を見ながら、苗は赤鉛で客のき先に丸を付けていった。

「病院へく方は。通りまでられれば歩ける方が。

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残りは丘の奥まで戻るがいです」と苗が言った。清徳は彼女の元を見て、運転が普段、乗客をひとまとめの数として数えてきたことを恥ずかしくった。には通りの用事があり、全員が同じ速さで歩けるわけでも、同じ所でりられるわけでもない。

主任が戻り、机のに図を広げた。「警察は交通方法変更の対応でいっぱいだ。代台の問題にまで付きっていられないそうだ」。その調には焦りだけでなく、どこかになった響きが混じっていた。島交通はきな会社ではない。の朝から便を欠かせば、来の運契約をめぐる話にも響がる。はそのみを肩に背負っていた。

「責任は私が取る。清徳さん、表へるだけでもいいからかしてくれ」

「表へせば、客は次の留所まで乗せろと言います。ろす所が決まっていないのに、発したと言い張れません」

の声は次第にきくなった。清徳とは以の付きいだった。若い頃は同じ両を洗い、台のには乗客を背負ってたまりを渡ったこともある。その男がいま、自分の目を見ようとしない。清徳はりよりも寂しさを覚えた。

待所ではタエが、信子の腕を軽く叩いていた。「母さんはね、急いだからといって誰かがけがをするのは困るよ」

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。だが信子は唇を噛んだまま答えなかった。正しそうな話だけでは、病院の受付刻は延びない。清徳にはそのこともよく分かっていた。

苗が隣の営業所へ話をかけ続けると、台だけ空きのある型が見つかった。ただし隣町の線へる予定ので、こちらへ回せば、今度はそこの客を待たせることになる。どのの用事を回しにすべきか。机の刻表に線を引くだけでは答えはなかった。

清徳はタエの座席へって膝を折った。「必ず方法を探します。ただ、あのだけはらせません」。タエは彼の名札を見てさくうなずいた。それからなことを聞いた。「垣さん、あんたは今朝、でここまで来たのかい」。清徳が首をかしげると、タエは窓のに見えるを指した。「あのを造ったも、きっと同じように眠れん夜を過ごしただろうね」。

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