みかん小説
本棚

"昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇" 第14話

しい靴の持ち主

、曜。交通方法が変わって目の朝、清徳は仕事へ向かうに診療所のくまで歩いた。昨拾われた子どもの靴は、警察を通じて族へ返されたと聞いている。それでも赤い糸のついたさな靴が、かられなかった。をるとき節子が、「謝りにくのは、先方がいいと言ってからにしなさい」とを押した。彼女はそばにいなくても、夫の焦りを見抜いていた。

営業所では、誠が運転に戻るの面談を待っていた。担当者は事故の経緯を改めて確認し、当分は乗務をれることになった。誠は悔しそうだったが、処分を急いで取り消してほしいとは言わなかった。事故からまだしか過ぎていない。被害を受けた族にとっては、これからがいになるのだ。

昼休みに清徳が弁当をべていると、苗が通の伝言を持ってきた。比嘉からで、会社として必な説があればを決めて聞くという。清徳はと相談し、事故の経緯、会社の対応、今の連絡窓を確にしてから訪問することにした。ぶらで突然謝りにき、自分の気持ちだけを伝えることは避けたかった。

訪問は数になった。比嘉の縁側には、ギプスをつけた浩が座っていた。父親の勝は清徳たちをへ通し、母親の久美は黙って茶をした。

広告

浩は清徳の制を見て、しを引いた。その反応だけで、清徳の胸は痛んだ。運転のはこれまで、をさせるものだとっていたからだ。

清徳は縁側へ並んだの履物を見た。浩のさな靴は片方がまだ汚れたままで、母親の久美の履は何度も病院へ通ったのか底がくなっている。会社の報告には『骨折』の字がかれていたが、族の毎はその字の側にある。買い物や洗濯のを変え、暑い午に子どもがけないのを見守ることが、どれほどつらいか。清徳は自分のに戻ってからも、きっと忘れてはいけないとった。

が会社の指示を説し、誠が自分の判断について謝った。清徳も発を拒んだ理由と、そのの対応を話した。勝は静かに聞き、最につだけ尋ねた。「どうして号をしたんですか。ほかに方法がなかったんですか」。は迷った末に答えた。「ほかの方法を探すを惜しみました」。言い訳をねなかったことに、清徳は初めて救いをじた。

「うちの息子はね、バスが好きなんです」と久美が言った。浩は窓の方へ顔を向けた。「しいバスに乗れるって、昨は朝から騒いでいました。私たちは危ないことになるなんてわなかった」。清徳は何も言えなかった。子どもの楽しみを傷つけたことは、骨折が治れば消える話ではなかった。

浩はしばらくして、清徳へ尋ねた。「おじさん、今度からはに扉があるバスになるの?」。清徳は頷いた。「そうだよ。側から、歩へりられるにする」。浩はもうつ聞いた。「その歩が狭かったら?」。清徳は息を止めた。幼い子がにして、会社のたちが見落とした問題へたどり着いている。

「そこも直さなければいけない。おじさんたちだけじゃできないから、を作るや町のと緒に考える」。浩はさく頷いた。久美は息子の髪を撫で、「またバスに乗れるようになるまで、ちゃんと直してください」と言った。清徳はをげた。約束するなら、何をいつまでに直すかを本当に決めなければならない。そのの帰り、彼はに言った。「今、ここへ来たを無駄にしないようにしよう」。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: