みかん小説
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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第1話

障子を透かして差し込む晩の陽射しが、誰もいなくなった畳の畳にいを落としていた。 いがる微細な埃が、の筋ので頼りなげに浮遊している。 静まり返ったのには、古計の刻む規則正しい秒針の音だけが響いていた。チク、タク、チク、タクと、徹にを刻み続けるその乾いた音は、の法を終えてなお、このから主の体温が永に失われてしまった事実を容赦なく告げているようだった。

静子は、使い込まれたな製デスクのに正座し、く息を吐きした。 夫の健が界してからヶ。ようやくい腰をげ、斎の遺品理を始めたところだった。 の健は、言葉数の極端にない男だった。昭気質の無骨さをそのままを着せて歩かせたようなで、をわにすることなど滅になかった。妻である静子に対しても、お世辞や甘い言葉のつも吐いたことがない。余り勤めげた方公務員の職を全うし、休は庭の入れをするか、この机に向かって静かに本を読んでいるだけの、退屈なほど真面目で本気な夫。それが静子のる「夫・健」のすべてのはずだった。

「ずいぶん物持ちのいいだったわね……」

独りごちながら、静子は机のの類を束ねていく。

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季の入った万、インクの乾きかけた朱肉、几帳面に分類された領収の綴り。どれもこれも、彼の垢と実直な柄が染み付いたものばかりだ。 やがて静子は、番のい引きしへとを伸ばした。 が軋むい音をてて引きしをに引く。そこには過数分の確定申告の控えや、の権利証、古いの通帳類がぎっしりと収められていた。それらを束ずつ取りしてに並べていく。 すべてをし終え、引きしの底板を乾拭きしようとした、そのだった。

指先が、引きしの最奥、背板のすぐに設けられたさな段差に触れた。 単なる組みの継ぎ目かとったが、指先に伝わる触がわずかに自然だった。爪をてて探ると、いベニヤ板が枚、底げのように敷かれている。 胸の奥で、吉な予兆のようなさなざわめきがった。 息を呑みながらその板の端を指で引っ掛けると、カタリと乾いた音をてて板がれた。 隠し底になっていたその細い隙に、黒にい濃紺のベルベットに包まれた箱が、ひっそりと鎮座していた。

静子の呼吸が止まった。 その箱の表面には、座に本を構える名な宝飾ののロゴがさく刻まれていた。 なぜ、こんな所に宝飾品の箱があるのか。 震えるでそれを取りす。

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のひらに載るその箱は、見た目以にずっしりとしたみを持っていた。 埃ひとつ被っていない。最、誰かのによって切にここに収められたことが目で分かった。

静子は膝ので箱のリボンを解き、蝶番を押しげた。 カチリという微かな属音とともに蓋がく。 柔らかな真綿の央に収められていたのは、息を呑むほど美しいプラチナのネックレスだった。 繊細な鎖の先で、質なドロップ型のペリドットがの斜を浴びて瑞々しいオリーブグリーンに煌めいている。その周囲を取り巻く粒のダイヤモンドが、控えめながらも眩いを放っていた。 目で、相当な値が張る品物だと分かった。定退職した男が、衝買いでをせるような額ではない。

そして、その輝きの傍らに、つ折りにされたさなメッセージカードが添えられていた。 静子の指が微かに痙攣する。 恐る恐る片をいた。そこにっていたのは、見違えようはずもない、あの角張った、圧のい夫の直の文字だった。

『麻美へ 誕おめでとう』

たったそれだけの文。 しかし、その文字を見た瞬、静子ののが真っになった。 全の血が元から急速に引いていくようなたさが襲い、臓が鐘を打ち始める。

「麻美……? 誰……?」

静子の名は「静子」

だ。親族や所の、夫の職の関係者に「麻美」という名の女性なども当たりがなかった。 しかも、添えられた言葉は「誕おめでとう」

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