みかん小説
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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第2話

。 余りの結婚活の記憶が、濁流のように静子の脳裏を駆け巡った。

健という男は、世般の記というものに極めて無頓着なだった。 結婚記を覚えていたことなど片で数えるほどしかなかったし、静子の誕に至っては、仕事帰りに駅のスーパーで買ってきたさなショートケーキを無言でテーブルに置き、「……え」とく呟くだけ。それすら忘れて何わぬ顔で晩酌を始めるの方がずっとかったのだ。 「男が女に装飾品を贈るなんて、気取っていて落ち着かん」 若い頃、友が夫から結婚指輪以のダイヤの指輪を贈られたと嬉しそうに話していたのを聞き、羨ましそうに呟いた静子に対し、健は苦虫を噛み潰したような顔でそう言い放ったことがあった。 静子自、夫のその器用で無な性格を「このなりの誠実さ」なのだと自分に言い聞かせ、納得してきたのだ。派な表現はなくても、浮気もせず、真面目に働き、族を養ってくれている。それで分なのだと、自分を納得させてを共にしてきたはずだった。

それなのに、これは体何なのか。 こんな息を呑むような価なネックレスを、体誰のために買い求めたというのか。 引きしの奥くに隠し、裏蓋まで設けて誰の目にも触れないようにしていたその執は、何を守るためのものだったのか。

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「麻美へ」と記された文字の、インクの染み込み具がやけに々しい。 震える指先で箱の底を探ると、ネックレスの台座のから、もう枚、つ折りにされた封筒がてきた。 そこには、同じ健の跡で、隣町の私鉄沿線にある閑静な宅の所と、「野寺麻美様」という宛名が記されていた。

胸が激しく締めつけられ、吐き気すら覚えた。 裏切られていたのだろうか。 あの寡黙で、実直そのものに見えた夫が、私のらない所で、別の女性にこんな甘やかな贈り物を届けていたのだろうか。 「麻美」という名からして、若い女性の響きがある。もしかしたら、夫には囲っていたがいたのか。あるいは、自分には像もつかない別のが、あのの裏側に隠されていたのか。 そう考えた瞬、健と共に歩んできたの歳が、元から音をてて崩れっていくような恐怖に囚われた。 あの々の笑顔も、共に乗り越えた苦労も、病で彼のたいを握り締めて涙を流したあの夜の祈りさえも、すべては滑稽な茶番だったというのか。

「嘘よ……そんなの、信じない……」

呟いた声は掠れ、乾いた部の空気に吸い込まれて消えた。 遺のの健は、黒い背広を着て、相変わらずの読めないい表で静子を見つめ返している。何を問いかけても、その写真が答えてくれることはない。

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疑という名の毒は、度に芽えると猛烈な速度で全を巡る。 もしこのまま箱を閉じ、見なかったことにして燃えないゴミにしてしまえば、波はたないかもしれない。けれど、そうしてしまえば、静子は残りののすべてを「夫の裏切り」という名の暗ので過ごすことになる。 健の墓参りにくたびに、あのたい仏壇にをわせるたびに、このネックレスの緑の輝きが脳裏に蘇り、胸を焼き尽くすに違いないのだ。

確かめずにはいられなかった。 真実がどれほど残酷で、どれほど自分を打ちのめすものであったとしても、あの男が自分のらないところで何をしていたのか、黒をつけなければ、歩もにめない。

静子はちがり、喪代わりに着ていたな黒のカーディガンをえると、ネックレスの箱と所のかれた封筒をハンドバッグの奥底へと押し込んだ。 のひらに残るベルベットの触が、鉛のようにく、たくじられた。

玄関をると、晩のたいが頬を刺した。 最寄りの駅から私鉄の各駅に乗り込む。内はが差し込み、買い物帰りの主婦や勤め帰りの々がまばらに座っていた。常の閑な景のに、自分だけが異物として放り込まれたような覚だった。

吊り革に掴まりながら、静子はバッグをく抱きしめた。

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