みかん小説
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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第3話

もし、扉をけた先に、夫に瓜つのさな子供がいたらどうしようか。 もし、妖艶な若い女が現れて、「あら、奥様。やっと気づかれましたか」と嘲笑われたらどうしようか。 臓が肋骨を激しく叩き、のがカラカラに乾いていた。の音が、まるで静子のを煽る嘲笑の唱のようにの奥で反響する。

分ほど揺られ、目の駅にりった。 駅を抜けると、昭の面を残す古い宅と、しく建て替えられた分譲宅が混ざりう、静かな並みが広がっていた。 封筒に記された所を頼りに、緩やかな坂をっていく。 角を曲がり、番をつずつ確かめながら歩くは、まるでのをむようにかった。引き返したいという恐怖と、真実を暴きたいという執が、胸ので激しくせめぎっていた。

やがて、目指す番のにたどり着いた。 そこにあったのは、瀟洒な級マンションでも、を囲うような隠れでもなかった。 築は経過しているであろう、造階建ての慎ましやかな古い軒だった。 庭には柿のが本植えられており、オレンジの実が数個、晩の枝先に残っている。入れのき届いた植鉢が玄関先に並び、活の慎ましさと、の几帳面な気質を静かに物語っていた。 表札には、黒い文字でしっかりと「野寺」

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と刻まれている。

静子は扉のでち尽くし、荒い息をえようとした。 しかし、激しい悸はどうしても収まらない。 指先がたく張り、バッグの持ちを握るがくなっていた。 逃げすなら今だ。このまま駅へ戻り、あの箱を川にでも投げ捨ててしまえば、何もらずに「良き妻」のまま老いていくことができる。 だが、静子のはかなかった。、誰よりもくで見てきたあの無骨な男の本当の姿を、見届けずにはいられない。

を決し、静子はをくぐり、玄関脇のインターホンのボタンを押し込んだ。

ピンポーン、とく澄んだチャイムの音が、静まり返ったのに吸い込まれていく。 数秒の沈黙。そのわずかなが、永のようにくじられた。 やがて、奥の廊からパタパタとスリッパの擦れる音がづいてきた。 鍵がされるカチャリという乾いた音が響き、ゆっくりとドアがいた。

現れた物を見た瞬、静子はわず息を呑んだ。

そこにっていたのは、静子が像していたような派な若い女性でも、のあるの女でもなかった。 齢は歳だろうか。 成りのニットに紺のエプロンをにつけ、艶やかな黒髪をろで無造作に束ねた、落ち着いた佇まいの女性だった。 目元に微かなじわがあり、苦労をねてきたの持つ、どこか静謐で澄んだ瞳をしていた。

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化粧気はほとんどないが、凛とした清潔が漂っている。 女性は、見らぬ来訪者である静子を怪訝そうに見つめ、微かに首を傾げた。

「はい、どちら様でしょうか……?」

その声は驚くほど穏やかで、澄んでいた。 静子は喉の奥に張り付いた唾を必でみ込み、張る唇を無理やりかした。

「あの……突然、申し訳ありません。野寺麻美さん……でいらっしゃいますか?」 「ええ、野寺ですが……」

女性――麻美は、訝しげに眉を寄せた。 静子はバッグのにを入れ、あのたいベルベットの箱を取りした。のひらに載せ、麻美の目のに差しす。

「あの……主の荷物を理しておりましたら、引きしの奥から、あなた宛てのプレゼントがてきたんです」

麻美の線が、静子ののひらにある濃紺の箱へと落ちた。 その瞬、麻美の瞳が微かに揺れた。 静子は逃げを塞ぐように、たく乾いた声で、最も恐れていた名を告げた。

「主の名は……鈴健と申します。私は、健の妻でございます」

「健」という名をにした瞬だった。

麻美の表が、劇に変わった。 先ほどまでの穏やかな警戒は瞬に消えり、その瞳が見かれ、唇が微かに震え始めた。 顔から血の気がサーッと引いたかとうと、次の瞬には、言葉を失ったようない衝撃と揺がその顔を覆い尽くした。

「鈴……健さんの……奥様……?」

麻美のから漏れた声は、かすれ、震えていた。

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