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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第4話

その反応は、倫相の妻が乗り込んできたことに怯える女のそれとは、らかに異なっていた。そこにあったのは罪悪ではなく、もっと根い、信じられないものに会ってしまったかのような畏怖と、激しい困惑だった。 麻美は息を呑み、静子の顔をい入るように見つめると、耐えかねたように問いかけてきた。

「奥さん……まさか、ご主から……何も、聞いていらっしゃらなかったんですか?」

その言が、静子の胸を鋭く貫いた。 何も聞いていなかったのか、と。 まるで、っていて当然の事実であるかのように、あるいは、らされていないこと自体が信じがたい奇跡であるかのように、彼女は言ったのだ。 気に血の気が引き、胸の奥がえ切っていく。やはり、自分だけが蚊帳のに置かれていたのだという絶望が、黒いのように静子の界を塞ぎかけた。

「ええ……何も。主は、ヶに病気でくなりました。急なことでした。遺品を理していて、初めてこの箱を見つけたのです。裏蓋に隠すようにしてしまわれていた、このネックレスを……」

静子の声には、らずらずのうちに滲みたトゲと、震えるような痛さが混ざっていた。 連れ添った夫が、妻に隠れて別の女に価な贈り物を遺していた。その屈辱と苦しみを、ぶつけずにはいられなかった。

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しかし、麻美の反応は、静子の予を完全に裏切るものだった。

「くなられた……? 健さんが……? そんな……嘘でしょう……?」

麻美はそのに頽れそうになり、玄関の靴箱の縁を必で掴んだ。 その瞳から、ぽろぽろと粒の涙が零れ落ちていく。それは取り繕った涙などではなく、臓をもぎ取られたようない悼の涙だった。 麻美は両で顔を覆い、肩を激しく震わせて嗚咽した。 静子はそのにち尽くし、目ので泣き崩れる女性を呆然と見つめるしかなかった。なぜ、この女性がこれほどまでに夫のを悼み、嘆きしむのか。の涙にしては、あまりにも純粋で、あまりにも痛切だった。

やがて、麻美は涙を指先で拭い、赤くなった目をげて静子をまっすぐに見つめた。

「奥様……ち話も何ですから、どうか、へおがりください。私のから、すべてをお話しします。健さんが、どうしてこのネックレスを遺されたのか……その理由を」

その真摯な差しに圧され、静子はさく頷くことしかできなかった。

通されたリビングは、観と同じように質素だが、隅々まで入れがき届いた温かみのある部だった。 カーテン越しに柔らかな夕暮れのが差し込んでいる。 部の片隅にあるさな飾り棚のに、古びた写真てが置かれているのが静子の目に留まった。

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セピアに褪せかけた写真ので、優しげな笑顔を浮かべる代半ばの男性が、歳の女の肩を抱いていた。その男性の隣には、まだ代半の、若きの健が写っていた。今よりもずっと髪が黒く、ぎこちない笑顔でピースサインを作っている。 静子は息を呑んだ。 健が、このの族と共に写真に収まっている。しかも、何もの姿で。

麻美は湯呑みに温かいほうじ茶を淹れ、静子のにそっと置いた。 自分も対面に座ると、テーブルのに置かれたベルベットの箱を、祈るようなおしげな目で見つめた。

「奥様、変な誤解をさせてしまって、本当に申し訳ありませんでした。胸が張り裂けるようないで、ここまでいらしたのですね……」

麻美はくをげた。その声には、静子へのい同といたわりが込められていた。 そして、彼女はゆっくりと顔をげ、静かに語り始めた。

「私の父は……野寺真司と申します。奥様のご主である健さんの、代からの親友だったんです」

「親友……?」

静子のから、呆然とした声が漏れた。 健から「昔の親友」の噂を聞いたことはあった。だが、彼が若い頃に病気でくなったとだけ聞かされており、それ以の詳しい話は度も語られたことがなかったのだ。

「はい。父と健さんは、まるで兄弟のように仲が良かったそうです。

ですが私の母は、私がまだ歳の頃に病気でくなってしまいまして……父は男つで、私を育ててくれました。

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