みかん小説
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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第12話

静子はその靴の横に自分の靴を並べ、優しく微笑みかけた。

コートを脱いで居を抜け、奥の――健の斎であり、今は仏となっている畳へとを踏み入れた。 部のは、昼遺品理をしていたのままだった。 引きしの抜かれたな机、に然と積まれた領収や古い類の束。 そして、部の正面の仏壇には、黒いリボンをかけられた健の遺が飾られていた。

静子は仏壇のに正座し、く礼した。 それから、真鍮のりん棒をに取り、澄んだ音でりんをつ鳴らした。 チー――ン……。 奥で清らかな属音が、静まり返った部の空気を震わせ、井へと染み渡っていく。 静子は線てのをえ、しい檀の線を本に取った。 マッチを擦り、シュッと音をてて燃えがった炎を線の先端にづける。 じわりと赤く灯った先を、でそっと扇いで消すと、細くい煙が筋、真っ直ぐにちり始めた。 部のに、甘く清々しい檀のりが満ちていく。 線を炉にて、静子は両をわせ、目を閉じた。

胸ので、夫との対話が始まった。

「健さん。ってきましたよ。野寺麻美さんのところへ」

瞼の裏に、昼の来事が鮮やかに蘇る。 引きしの隠し底を見つけたの悸、震えるでけたベルベットの箱、そこに記されていた『麻美へ』の文字。

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あのの自分の浅ましさと、疑に狂いそうになったを、静子は包み隠さず夫に打ちけた。

「ごめんなさいね。私、けないことに、あなたのことを疑ってしまったの。こんな価なネックレスを誰に贈るつもりだったのかって、浮気でもしていたんじゃないかって……も緒にいて、あなたの本当の姿を何つ信じてあげられなかった。本当に、申し訳ありませんでした」

遺のの健は、相変わらずい表のまま、正面を見据えている。 けれど、静子には分かっていた。この男は決して静子を責めたりはしない。むしろ、 『おに余計な詮索をさせた俺が悪かったんだ。すまなかったな、静子』 と、を掻きながら、さく呟いているはずなのだ。

「でもね、健さん。麻美さんに、ちゃんと渡してきましたよ。あなたの最のプレゼント」

静子は目をけ、遺の健の瞳をまっすぐに見つめた。

「とってもんでくれたわ。お父様がくなってからの、あなたからのプレゼントが度も欠かさず届いたこと、どんなに孤独な夜も、その贈り物に救われてきたこと……涙を流しながら、何度も何度も私に話してくれたわよ。『度も忘れられた誕がなかった』って……あの子、本当に誇らしそうに笑っていたわ」

静子の元から、自然と笑みがこぼれた。

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「ネックレスもね、そので首にかけて見せてくれたの。ペリドットの、あのい緑がね、麻美さんのい肌に本当に良く似っていて……息を呑むほど綺麗だったわ。あなた、案センスがいいのね。私には度も選んでくれなかったくせに、あの子の節目には、あんなに素敵なものを選ぶなんて……ちょっとだけ、悔しかったわよ」

冗談めかして言うと、遺の健の元が、ほんのしだけ緩んだような錯覚を覚えた。 静子はちがり、台所へ向かった。 やかんにを汲み、ガスコンロの青いにかける。 急須に茶葉をめに入れ、お湯が沸くのを待つ、静子は窓のの夜空を眺めた。 々は先ほどよりも数を増し、静まり返ったを優しく見守るように瞬いている。

やかんのからシュンシュンと湯気がちり、澄んだ笛の音が鳴った。 を止め、湯を急須に注ぐ。茶葉がき、緑の豊かなりがちる。 湯呑みにトクトクとお茶を注ぎ分ける。 つは、健が毎のように使っていた、無骨な美濃焼のきな湯呑み。 もうつは、静子のぶりな湯呑みだ。

お盆に湯呑みを載せて畳へと戻り、いお茶を仏壇のに供えた。 ちる湯気が、線のい煙と絡みいながら、遺のを揺らめいていく。

「さあ、いお茶が入りましたよ。

あなたの好きな、濃いめの緑茶よ」

静子は再び座布団のに正座し、自分の湯呑みを両で包み込んだ。

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