みかん小説
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"夫の遺品から出た三十年目の嘘" 第13話

陶器の温もりが、えていた指先にじんわりと染み渡っていく。 その温もりをじながら、静子の線は、再びあのな製デスクへと向けられた。

引きしの奥。隠し底のあった所。 静子はふと、引きしのさらに奥、ベニヤ板が敷かれていた隙の隅に、何かが挟まっているのを見逃していたことに気づいた。 ちがり、机にづく。 をかがめて引きしの空洞を覗き込むと、奥の枠の隙に、冊のいノートが挟まっていた。 埃を払うようにして、そっと引きす。 それは、役所の売で売られているような、何の変哲もないさな黒表の帳だった。 表には、擦れかけたの文字で『備忘録』とだけ印刷されている。

静子は胸の鳴りを覚えながら、その帳をいた。 そこに並んでいたのは、見紛うことなき健の、あの角張った圧のい文字だった。

最初のページをくと、昭の終わりの号が記されていた。

『昭:真司の娘、麻美ちゃん歳。誕祝い。絵本「クマの冒険」(〇〇にて購入、百円)。真司、約束は守ったぞ。あの子は元気に伯母ので暮らしている』

ページをめくる。

『昭:歳。クマのぬいぐるみ(千百円)。し格好だが、番触りの良いものを選んだ。

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んでくれるといいが』

『昭:歳。学になったはずだ。ファンシー文具セット(千百円)。員に妙な目で見られた。男で入るではないな。だが、約束だ』

『平成元:歳。受験の。英語の辞(千百円)。真司、おの娘は勉を頑張っているらしいぞ。しろ』

『平成:歳。成。さな腕計(万千円)。の仲入りだ。派に育ってくれた。真司、見ているか。おの娘は、もう派なの女性だ』

、また。 ページをめくるたびに、健のの歩みが、無骨な文字となって静子の瞳にび込んできた。 包の領収の額、贈った品物の名、そしてその末尾に必ず添えられた、き友・真司へのい報告。 それは、記などという易しいものではなかった。 の男が、者と交わした魂の盟約を、自らに課した掟として歩歩踏みしめてきた、の血の滲むような記録だった。

ページがむにつれ、文字のインクのが変わり、ペンの種類が変わり、そして健の圧が輪をねるごとにしずつ震えを帯びていくのが分かった。 そして、最から番目のページ。 そこには、今から、健が定退職を迎えたの付が記されていた。

『平成:歳。

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ウールのブランケット。 遣いからの貯、ようやく目標の半分を超えた。 あとで、麻美ちゃんは歳になる。歳は、真司が逝った齢だ。 父親がきていれば、きっと娘の惑の祝いに、につけられる本物を遺したかったはずだ。 プラチナとペリドットのネックレスにする。 ペリドットは、真司の誕であり、麻美ちゃんのまれたのではないが、「夫婦の幸福」「信じる」を象徴するだと宝飾の員が言っていた。真司の魂が、あの子をずっと守ってくれるように。 退職には絶対にをつけるな。あれは静子の老のためのだ。 俺の当りの個と、毎の遣いの残りから、何としてもあと万を捻すること。 静子には内緒だ。あの女にられたら、自分の着物を売ってでもしにしようとするに違いない。 あいつに苦労をかけてきたのは俺の至らなさだ。これ以、静子の優しいに甘えるな。 男の約束は、男で始末をつけるものだ』

「あなた……」

静子の声が震え、帳のに粒の涙がぽたぽたと落ちた。 ページに染み込む涙が、夫の記した頑固な文字を滲ませていく。

『静子には内緒だ。あの女にられたら、自分の着物を売ってでもしにしようとするに違いない』 『あいつに苦労をかけてきたのは俺の至らなさだ。

これ以、静子の優しいに甘えるな』

静子は帳を胸にく押し当て、そのに膝をついて泣いた。 声をげて泣いた。

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