みかん小説
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"遺体の上で眠り続けた十四年" 第1話

真のたいが吹き荒れる逗子岸の突堤に、そのはまるで最初からそこに置きりにされる運命であったかのように、潮に晒されて佇んでいた。

い、その鍵は運転席のイグニッションに差し込まれたままで、助席の革シートにはイタリア製の級ハンドバッグが何ひとつ荒らされた様子もなく置かれていた。財布のの幣も、クレジットカードも、元を証する運転免許証もつかずのまま。ただ、ひとつだけ――彼女の薬指で誇らしげに輝いていたはずの、カラットのダイヤの婚約指輪だけが、忽然と消え失せていた。

神崎怜奈、歳。

名女子から京学法学部へみ、学代にはミスキャンパスのグランプリに輝いた、性と美貌を兼ね備えた女性だった。信託の法務部で将来を嘱望され、誰もが羨むような非の打ち所のないを歩んでいた彼女は、わずかヶに華やかな帝国ホテルでの結婚式を控えていた。

その女性が、ある突然、煙のようにこの世から消えた。

当の捜査記録によれば、婚約者である若敏腕弁護士の佐伯彰は、警察の聴取に対して乱れのない落ち着いた声でこう供述していた。の夜、鎌倉にある佐伯の別荘ので彼女と論になり、彼女は興奮した様子でに乗り込んでりった、それが最の姿だった、と。

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しかし、その証言を裏付けるはずの沿いの防犯カメラの映像は、ただのコマもしなかった。未――未曾の災禍となった阪神・淡震災が発し、本が激な混乱と報の津波にみ込まれ、通信網や源インフラのな具によって、その帯の記録は気な空として抜け落ちていたのだ。世の関はすべての獄へと注がれ、捜査のはれ、やがて事件は「名女性が結婚の圧に耐えかねたマリッジブルーによる投自殺」として、たいの底へと葬りられるようにして静かに幕をろした。

誰もが、怜奈の遺体は潮の流れに乗ってへと流されてしまったのだと信じて疑わなかった。

だが、本当の悪は、事件の幕がろされたそのにこそ、く、暗く始まっていたのである。

神崎怜奈の失踪からが過ぎたの、佐伯彰はたな伴侶を迎えた。

歳の妻となった由里は、夫の過をりながらも、どこかを帯びた彼の横顔に惹かれ、彼が背負う劇の傷を癒やしてあげたいと純粋に信じていた。

だが、婚の処として彰が選んだのは、都の真しい層マンションでも、瀟洒な宅の戸建てでもなかった。かつて、消えた婚約者と最の夜を過ごしたとされる、あの鎌倉の別荘だった。

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相模湾からの湿ったが吹きつける、鬱蒼とした松林のに建つその敷は、昭初期に建てられた折衷の造建築だった。壁は塩害によってところどころ黒ずみ、になれば隙がい廊をたく撫でていく。婚の夫婦がを育むにはあまりにも鬱で、苦しい空気が漂う所だった。

「どうして、ここなの……? 借りげている都の部のほうが、あなたの事務所にもくて便利じゃない」

引っ越しの荷解きのを止め、埃っぽいの窓から鉛の空を見げながら、由里が控えめに尋ねたことがあった。

彰は、荷物を運び入れる作業員たちに徹な線を向けたまま、の削ぎ落とされた静かな声で答えた。

「祖父の代から受け継いできた切ななんだ。それに、ここは静かだ。誰にも邪魔されず、考をめることができる。……由里、満があるのかい」

った梁、彫刻のように均の取れた顔ちの夫にややかな瞳で見つめられると、由里はそれ以、言葉をねることができなかった。

そして、その敷での暮らしが始まると同に、彰は奇妙な、そして絶対な「掟」をいくつも課した。

その敷の階の最奥には、畳の暗いがあった。柱には季の入った黒檀が使われ、褪せた本畳が敷かれたその部を、彰は「客として保する」

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