"式1時間前の略奪と百八十万円" 第7話
ツーツーという乾いた子音が途切れた瞬、にえ切った静寂が戻ってきた。
「……言っちゃったな」
格好をつけて啖呵を切った直、のに来のの賃と、費の請求の数字が真っに浮かびがった。指先が、微かに震えていた。
その、ガラガラとの扉がいた。
「先輩! お弁当、忘れてましたよ!」
息を切らしたこよりが、さなお弁当包みを両で掲げてっていた。
「わざわざ届けてくれたのか……すまない。俺、今さっき、すごく怖いことしちゃったよ」
「……聞いてもいいですか?」
こよりはお弁当を作業台の端に置き、俺の顔を覗き込んだ。
「宮さんからの仕事を、全部断った。これからの予定、真っになっちゃったよ」
けなく笑う俺を見て、こよりは瞬だけ目を瞬かせ、それから柔らかく微笑んだ。
「じゃあ、つ目を探すところからですね」
「そんな簡単に言うなよ……」
「簡単じゃないから、つずつ探すんです。……あ、そうだ。私のおのお客さんで、使っている子の修理先を探している方がいるんです。度、会ってみませんか?」
そのの午、俺とこよりは、駅の古い商にあるさな喫茶『寺尾』の扉を押した。
カランコロンと涼やかなベルが鳴り、髪を綺麗にまとめた主の寺尾さんが、カウンターの奥から顔をした。
客席には、使い込まれて飴になった製の子が脚、並んでいた。
広告
「買い替えたらどうだって、息子は言うんですけどね」
寺尾さんは、背もたれにく刻まれた無数の傷を、おしそうに撫でた。
「でも、この背もたれの傷を見ると、にこのをしたのことをいすのよ。どうしても、放せなくてね」
俺は子のにしゃがみ込み、指の腹で継ぎ目や座面の裏側を丁寧に確かめた。
「……わせるところと、変えた方がいい構造を、先に見てもいいですか?」
寺尾さんはし驚いたように目を丸くした。
「全部元通りにできます、とは言わないのね?」
「まだ内部のホゾの緩みを見ていませんから。無理に残して、お客さんが座ったに怪をしてほしくないんです」
寺尾さんの表が、ふっとらいだ。
「その言い方、すごくするわ」
脚の子を預かり、へ持ち帰る段取りを組むことになった。見積をく段になり、俺はいつもの癖で、賃を削ったい額をき込もうとした。請け代に染み付いた、恐怖からくる売りの癖だった。
その、横からこよりがそっと覗き込んできた。
「先輩、これ、引き取りと納品の運搬もちゃんと入っていますか?」
「え……いや、運ぶくらいは俺がやるから」
寺尾さんが横からを挟んだ。
「お嬢さんの言う通りよ。くお願いできる職さんを探してるの。無理な値段で度だけ直してもらっても、次にお願いできなくなったら困るじゃない」
広告
「……ありがとうございます。き直します」
寺尾さんが、作業台の端でメモを取っていたこよりを見て微笑んだ。
「こちらのお嬢さんは、奥さん?」
「いえ、私は……」
こよりが慌ててを振る横で、俺は言った。
「今は、の使われ方を見るのを伝ってもらっています。帆波こよりさんです。……こよりちゃん、さっき入りのところで、何か気になってたろ?」
こよりはさく頷き、自分のノートをいた。
「の、傘をてると入りの通がすごく狭くなりそうだなってって。それから、常連のお客さんが鞄を元に直置きしていたので……もし子の横に、邪魔にならないさな荷物掛けがあれば、元がもっと広くなるんじゃないかなって」
寺尾さんがを叩いた。
「そうなのよ! お客さんがちがるたびに、私が鞄をどけて回ってて……そんなことまで考えてくれるの?」
「修理とは別に、簡単な追加の案を作ってもいいですか? 採用するかどうかは、実物を見てから決めていただいて構いませんので」
こよりのノートには、具の寸法ではなく、のをき交う々の線と、その困り顔が克にスケッチされていた。
俺が子の裏側の構造を見ている、彼女はそこに座るの姿を見ていたのだ。
買いしの帰り、夕暮れのスーパーのをで歩いた。
「今は私の買い物の番だったのに……すみません、修理の接着剤が乾くまで持ち無汰だったからって、荷物持ちまでさせて」
広告
おすすめ作品
-
完結第28話
父の治療費70万円を拒んだ夫と、葬儀で開いた黒い封筒
父の治療費70万円を「俺には関係ない」と拒んだ夫・浩一。しかもその裏で愛人との旅行を予約していた彼は、美咲に離婚を突きつけながら、「離婚後も母さんの介護は続けろ」と要求する。5年間、美咲が義母のために支払った金額は2280万円を超えていた。 だが浩一たちは知らなかった。地方の医師だと思っていた美咲の父が、全国に介護・医療事業を展開する巨大企業の創業者で、株式63%を管理する信託の受益者が美咲だったことを。 さらに義弟・修二が美咲名義の委任状を偽造し、密かに口座を調べていた事実まで発覚。 そして1ヶ月後、父の葬儀に現れた浩一は、なおも「母さんの介護に戻れ」と命じる。美咲は親族全員の前で、父が遺した黒い封筒を静かに開いた――。夫婦|親不孝|修羅場4.2万字5 1 -
完結第26話
特上寿司と、消えた妻の半年
3月31日22時、激務を終えて帰宅した私の席にあったのは、冷え切った白米一杯だけだった。目の前で1万8900円の特上寿司を頬張る夫と義母は、「反省したらおかずをあげる」と大笑いする。家計の大半を私が支えているにもかかわらず、9ヶ月間も「罰」として食事を奪われ、夫は横で嘲笑っていた。だが二人は知らない。私が半年かけて集めた出前明細の履歴と、義母が隠し持っていた一枚の申告書の存在を。「じゃあ、外で食べてきます」――二度と振り返らずにドアを閉めた夜、経理の私が仕掛けた冷徹な清算が幕を開ける。嫁姑|夫婦4.0万字5 605 -
完結第34話
妻の葬儀の夜、義母が外した指輪と娘の写真
妻・美保の葬儀が終わった夜、修二の結婚指輪を外したのは、亡き妻の母・麗子だった。「もう美保に隠す必要はないでしょう」と唇を寄せたその瞬間、娘・咲から1枚の写真が届く。そこには半年前の病院で抱き合う修二と麗子、そしてガラス越しに2人を見つめる病衣姿の美保が写っていた。 闘病中の妻を支える献身的な夫を演じながら、修二はいつしか自分の弱さを理解してくれる義母へ逃げ込み、越えてはならない境界を越えていた。しかも麗子は「美保も知っていた」「私がいなくなったら修二さんを1人にしないでと頼まれた」と主張し、その証拠となる録音まであるという。 だが翌朝、咲が告げたのは「お母さんの声を最後まで聞いて」という一言。 亡き妻が本当に残した言葉を前に、2人が都合よく信じてきた“許し”が崩れ始める――。夫婦|修羅場5.1万字5 725 -
完結第14話
「死産」と告げた院長と20年目の出生記録
20年前、出産した娘を「死産でした」と告げられた私・佐藤しず子。しかし私は、麻酔の中で確かに聞いた産声を一度も忘れられなかった。 真実を確かめるため、私は清英産婦人科医院の清掃員として20年間働き続け、誰にも気づかれず院内の秘密を探ってきた。そんなある夜、若い看護師から「まだ間に合います。あなたの娘さん生きています」と書かれた紙を渡される。 やがて地下の保管庫へ忍び込んだ私は、自分の出産記録の隣に「佐藤女児――転送」と記された手帳を発見する。 さらにそこには複数の新生児と金銭の記録まで残されていた。娘を奪ったのは誰なのか。そして病院は20年間、何を隠してきたのか。見下され続けた“掃除婦”は、集めた証拠を手に院長・安藤剛と対峙する――。真相|修羅場2.1万字5 413 -
完結第14話
夫の遺品から出た三十年目の嘘
四十九日を終えた亡き夫の書斎。引き出しの隠し底から現れたのは、銀座の老舗宝飾店の高級ネックレスだった。添えられたカードには夫の筆跡で「麻美へ 誕生日おめでとう」の文字。結婚三十二年、私には花一輪すら贈らなかった無口な夫が、見知らぬ女へ遺した甘い贈り物。裏切りの証拠を握りしめ、私は封筒に記された住所の呼び鈴を鳴らした。現れた四十歳の女性にネックレスを突きつけ、夫の名を告げた瞬間――女は息を呑み、大粒の涙をこぼして言った。 「奥さん……ご主人から、何も聞いていないんですか?」夫婦|不倫2.1万字5 1007 -
完結第41話
無一文の清掃員に届いた出前丼(
「出ていけとは言わないけど、月6万じゃ足りないのよ」 父が遺した家も土地も兄夫婦に奪われ、実家で「居候の厄介者」と罵られる清掃員のみさえ。9年間の壮絶なワンオペ介護も義姉に「全部私たちがやった」と親戚中に嘘を吹聴され、反論すら許されない。 だが、父の一周忌の座敷で義姉が得意げに嘘を重ねていたその時、玄関の戸が開き、この街の頂点に立つ巨大企業の社長が喪服姿で姿を現す。男の腕に抱かれていたのは、底に藍色の焼き印が刻まれた「12年前の古い出前丼」だった――。 息を呑む親戚一同の前で、男は畳の上に丼を置き、冷ややかに告げた。 「このご家族は、私と彼女に何一つ関係ありません」相続|真相6.2万字5 258 -
完結第15話
全盲の義母が言い当てた味噌汁の色
「お味噌、白味噌に変えたでしょう?」。11年前の事故で全盲になったはずの義母・かず子が、漆塗りの椀を抱えて微笑んだ。亡き実母への後悔から、365日欠かさず介護と手料理を捧げてきた嫁の私。だが翌朝、ゴミ袋の底から現れたのは、手つかずのまま無残に捨てられた私の料理と、1万8千円の銀座高級寿司やフレンチのデリバリーレシート30枚だった。夫は「お前の味付けが悪い」と冷笑し取り合わない。孤立無援の中、弁護士の助言を得た私はある罠を仕掛ける。そして勝手口の前で義母が放った「ある一言」で、11年間の嘘が音を立てて崩れ去る――。嫁姑|真相2.3万字5 3171 -
完結第22話
夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉
深夜2時、救急外来で夜勤中の看護師・佐藤み咲のもとへ、交通事故で重傷を負った男女2人が搬送されてきた。シーツの下にいたのは、夫・拓也と義姉・麗子。しかも2人は、決して「姉弟愛」では説明できない姿で倒れていた。 み咲は5年間、看護師という仕事を見下す夫と、「子供も産めない」と侮辱する麗子、その2人を庇い続ける義母・里子に耐えてきた。 それでも彼女は感情を捨て、看護師として2人の命を救うことを選ぶ。 だが、惨状を目にした義母まで「全部あなたのせい」とみ咲を罵倒した瞬間、最後の迷いは消えた。 何年も残してきた暴言の記録と証拠を武器に、奪われ続けた人生を取り戻す反撃が静かに始まる――。夫婦|修羅場|不倫3.3万字5 4036 -
完結第25話
底辺受付嬢を見下す役員たちの誤算
父の会社は、最も信頼していた人間の裏切りによって無惨に食い物にされた。巨額の負債を背負い、絶望の中で病に倒れた父。私はその冷酷な真相を暴くため、ハーバード大の博士号を隠し、ただの「受付嬢」として敵の中枢である星空グループに潜入した。 誰からも見下され、理不尽な侮辱に耐え忍ぶこと3年。息を潜めて集めた証拠が示したのは、あまりにも残酷な真実だった。父を破産に追い込み、私から全てを奪った黒幕の正体は、父が家族のように慕っていた古参役員だったのだ。 「黒幕は役員会の中にいる」――私を守るため、父が命懸けで残してくれた最期のメッセージを知った時、胸の奥の悲しみは絶対的な冷酷さを持つ復讐の炎へと変わった。私の素性を知る新社長のハルトや、父の旧友たちと共に、私は決して逃れられない完璧な包囲網を密かに築き上げていく。 そして迎えた運命の役員会。全てを掌握したと信じ、私の前で勝ち誇る黒幕。だが彼はまだ知らない。無力な受付嬢だと思っていた私が、彼を社会的死の淵へと突き落とす致命的な罠を仕掛けていたことを。仮面を脱ぎ捨てた時、強欲な悪魔を地獄の底へと引きずり下ろす、容赦なき反撃が幕を開ける――。因果応報|真相|修羅場3.8万字5 2095 -
完結第14話
月二十五万を貪る偽装役員一家の転落
外資系コンサルティングファームで働く小笠原萌子は、お見合いで大手企業勤務のエリート・東野広夢と結婚した。しかし新婚早々、夫の経歴が全て嘘で、定職すら就いていない無職だと発覚する。さらに広夢は「大企業の役員に抜擢された」と両親に大嘘を吹き込み、見栄を張る義父母は都心のタワマン家賃二十五万円や、百万円の旅行代を萌子の給料から平然と搾取し始めた。夫の度重なる深夜帰宅に不審を抱いた萌子が財布を探ると、そこには見知らぬ甘い香りと、黒地に金箔押しされた高級シティホテルの会員カードが。探偵の分厚い報告書によって夫のキャバクラ通いと裏切りが露呈したとき、萌子は離婚を決意する。だが、金の蛇口を止められた元夫と義家族の強欲は暴走し、SNSでの悪質なデマ拡散、そして新居への土足侵入へとエスカレートしていく。すべてを奪おうとする寄生虫たちに、萌子が下す冷徹な鉄槌とは――。嫁姑|夫婦2.4万字5 696